2023年度「3D-CAD&3Dプリンター研修」活用事例報告会 参加報告
2024年3月7日(木)13:30〜16:00に埼玉大学とさいたま市が開催した2023年度「3D-CAD&3Dプリンター研修」活用事例報告会に参加させていただいた。オフラインとオンラインの同時開催だったが今回は会場の埼玉大学研究機構棟7F大会議室にお邪魔した。
埼玉大学の「3D-CAD&3Dプリンター研修」とは何か?
2022年から埼玉大学とさいたま市は産学連携(イノベーション創出)への取り組みを行っている。その連携は「産学官の共同研究」「社会実装のための産学官の協働」「人材育成と活用」の3つからなる。「3D-CAD&3Dプリンター研修」はその中の「人材育成と活用」として大学が有するリソースを活用した、高度なものづくり人材の育成活動だ。
外部人材も交えつつ行われた研修内容は下記のように初心者向けとスキルアップの2つのコースが用意されていて、全くの初心者から少し応用したいという方まで活用できる内容となっている。
初心者向けコース | スキルアップ向けコース |
・3D-CAD入門コース ・1日で学ぶ!3D-CAD超入門コース ・3D-CAD入門コース ・3D設計造形入門コース ・3軸ロボット設計+プログラミングコース | ・3D→2D図面コース ・応力解析コース ・CAD・CAMコース |
特筆すべきは1コースの受講料が¥1,000円という驚きの低価格。これであれば初心者の方でも気軽に参加できるのではないだろうか。
開会の挨拶は埼玉大学オープンイノベーションセンター産学官連携推進部門長の小林氏。「元々は10年以上前からさいたま市様からリカレント教育ということで委託を受けていたが、世の中の情勢も変わり現役の方への学びの場を提供するということでリスキリング教育というような形で内容を変えている。昨年の受講生は約100人位だったが、今年は申し込みの段階では約220人の方に申し込みをしていただき、昨年の倍近い方に参加いただいた。埼玉大学を少しでも身近に感じていただき、地域にとって本当に必要な大学と思っていただけるように頑張ってやってきている。大学で行なっているということが大事なコンセプトになっているので大学と一体となって地元の皆さんに活用いただきたい。」と言葉を述べた。
続いて実際の受講者による活用事例報告が行われた。参加者の所属・個人名は伏せてほしいという希望をいただいたので、報告タイトルだけにとどめておく。
- 取得技術の実務とDIYへの活用
- 最近の大学生が学ぶ3D-CADとデジタルものづくりのアップデート
- いつでもどこでも好奇心が原動力!
- 3D-CADと3Dプリンターの活用と教材研究
発表内容は超初心者コースを受けて3D-CADに興味が湧き身近なものを造形しています、という方から、スキルアップの応力解析コースを受けて専門的な設計の発表をする方もいて様々だ。
受講生の中には県内の工業高校の先生の姿もあった。埼玉県内の殆どの工業高校では既に3D-CADや3Dプリンターを授業で利用しているということで、次世代の芽を育てようという動きが着実に広がっていることを知り驚いた。
発表ごとに講師の方からのコメントもあるのだが、楽しそうに発表しているのを見た講師の方も受講者に負けず劣らず笑顔で印象的な和やかな会となった。
後半は「ものづくりセミナー」として下記の内容がわかりやすく語られた。
- 今、3D-CADを学ぶメリット
- リハビリテーション×3Dプリンター
企業の方や病院で働く作業療法士の方の現場での活用などもあり、もっと詳しく聞いてみたかったが、時間も限られているので残念。
最後に埼玉大学大学院理工学研究科准教授であり、研修も一部担当している阿部氏が登壇し、研修の利用実績状況や現状の3Dプリンターの普及状況を説明した。また、10年くらい前に発売されベストセラーとなったクリス・アンダーソン氏の「MAKERS」の中で言われているように、CADデータをSNSなどで宣伝し、欲しい人はインターネット経由でデータをダウンロードし、家庭にある3Dプリンターで出力すれば誰でもメーカーになれるよという時代になりつつあると総括としてコメントされた。
最後の挨拶としてさいたま市経済局商工観光部産業展開推進課課長の馬場氏が登壇し、「部署の業務として企業誘致、市内の企業支援をしている。近年は企業がものづくり人材を育てていこうという活動に力を入れ始めているので、こういった研修を通じて力になれれば」と想いを語った。
展示会などで来場者の悩みを伺う機会もあるが「どこで3D-CADや3Dプリンターについて学べばよいのか」と相談を受けることも多い。専門学校や大学などに入学して長期間学ぶゆとりがない人が、仕事をつづけながら体系だって3D-CAD活用や3Dプリンター活用に関して学ぶことができる機会はまだ限られている。そういった意味で地域の中小製造業にターゲットを置いて、初歩的なレクチャーから専門的な研究まで間口を広く構え、3Dモノづくりや3Dプリンター活用の入り口を広げた埼玉大学の取り組みは注目に値する。
3D-CADや3Dプリンター活用は万能の解決策ではない。しかし技術を知る人が増えれば活用できる領域も次々と可視化されるだろう。そうした人材育成の取り組みが広がっていくからこそAM活用の広がりや深化も期待できる。大学や行政が積極的に活動を行っているのは本当に心強いと感じた。
システム開発会社のエンジニア、WEB制作会社のディレクターなどを経て独立。現在は企業コンサルティング、WEBサイト制作の傍ら3Dプリンターをはじめとしたディープテック分野での取材・情報発信に取り組む。装置や技術も興味深いけれど使いこなす人と話すときが一番面白いと感じる今日この頃。