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航空宇宙産業で進む3Dプリンター活用と業界の注目企業

さまざまな産業界でその活用が進む3Dプリンティング技術。その中でも航空宇宙産業は3Dプリンティング技術を早くから採用してきた産業の1つであり、その事例は海外を中心に数多く存在する。今回はそんな航空宇宙産業の業界を俯瞰した3Dプリンター活用動向と注目の海外スタートアップを紹介する。

航空宇宙産業で3Dプリンター活用が進む背景と壁

航空宇宙業界と3Dプリンターは、さまざまな理由から相性が良い。

まず、航空宇宙の製造業では、複雑な形をした多くの部品に金属材料、ケミカル材料など多くの先端素材が使用される。このため、自由な形状を造形できる3Dプリンターとは必然的に相性が良い。また3Dプリンターで使える先端素材についても、今日では業界基準に耐えうるものが続々と出てきている。

加えて、航空機器を作る企業に対してより環境に配慮し、コスト効率を高める圧力が高まっているのも同業界でAM活用が進む一因となっている。ここでも、3Dプリンター技術と設計ソフトを使えば、軽量かつ高強度であり、投入する素材の量も少ないエコな部品製造が可能だ。

さらに、航空宇宙業界において、グローバル化の進展により部品の保守管理サービスが物流面の課題を抱えていることも3Dプリンターにとっては追い風だ。新たな部品でも短期間で流通、造形、設計できるからだ。

一方、3Dプリンターを始めとした新しい技術を浸透させるには、当然壁も存在する。航空機器は人命を運ぶため、他の分野よりも高い精度が求められる。極めて高い安全性要求が存在していると言えるだろう。そのため、国際的な品質管理基準や数十年の長きにわたるトレーサビリティが担保される必要があり、安全・信頼を求める長期安定的品質が重視される傾向はまだ存在する。(今日では3Dプリンター関連企業が既存の品質保証関連の認証を取得し始めた事例も、少しずつ出てきている「AS9100D認証を取得。航空機のMROにおけるAM技術の利用促進を目指す―AFS」)また、高価な設備のみならず莫大な投資金額を用意しなければ、3Dプリンティング技術を使用できないこともその要因として考えられる。

航空宇宙機器メーカー大手で進む3Dプリンター活用事例

当然規制は存在するものの、この後示すように業界大手の間ではさまざまな部品においてAMの活用が進んでおり、積極的な活用を試みているのが今のフェーズと言えるだろう。

世界最大の航空宇宙機器メーカーであるボーイング社の「ボーイング777X」の場合、2020年には300を超える3Dプリント部品を備えた新型エンジン「GE9X」を搭載している。同社は、2013年から開発とテストを行い、2018年に最初のテスト飛行に成功。合計72回のテストフライトを実施した同エンジンは、最も強力な民間航空機用ジェットエンジンとして2019年のギネスブック世界記録にも認定されている。

ボーイング777X(ボーイング公式サイトより引用)

また、ヨーロッパの大手航空機メーカー「エアバス」の機体でも3Dプリンターが活用されている。新鋭機「A350 XWB」においては、客室内の部品の他、パイロン(翼の下にエンジンなどを取りつけるための支柱)など機体のチタン製構造部品も3Dプリンティング技術が採用されている。

フランスのトゥールーズに拠点を置く航空機メーカー・ラテコエール(Latécoère)では、内装部品の施作品に3Dプリンターが使われてる。それまでは、板金で40日掛けて製造していたが、3Dプリンターに置き換える事で製造期間をわずか2日に短縮し、95%の納期改善を実現している。

注目の海外スタートアップ企業

最後に、新製品の発表や資金調達周りで最近ニュースで触れることの多い欧米の注目スタートアップ企業を、ご紹介する。

ブルーオリジン(Blue Origin):米国

Amazon の設立者であるジェフ・ベゾス氏によって設立された航空宇宙企ブルーオリジンの名を、聞いたことのある方は多いのではないだろうか。同社の月面着陸船である「BLUE MOON」のエンジン「BE-7」にも大型3Dプリンターが使われている。

既に同ロケットエンジンは、NASAの宇宙飛行センターで実施されたテストにて、エンジンの燃焼試験を実施されている。この燃焼試験は、米国政府が出資する有人宇宙飛行(月面着陸)を目標としたアルテミス計画を支援するブルーオリジンの「人間着陸システム(Human Landing System/HLS)の動力源となるエンジンをさらに検証するため実施された。燃焼試験によって、BE-7の高い比推力、ディープスロットル、再起動能力は、大型月面ペイロード輸送やその他多くの宇宙空間でのミッションに理想的なエンジンであることが証明されている。

BE-7(ブルーオリジン公式サイトより引用)

リレティビティースペース(Relativity Space):米国

Relativity Spaceは、最近資金調達などメディアでよく見聞きされる企業だ。

ロサンゼルスに本社を構える同社は、2015年設立のスタートアップであり、3Dプリンターの活用範囲をもっと大胆に広げる事で航空機製造の品質向上、効率化を目指している。同社は独自開発した世界最大のメタル3Dプリンターを活用し、Terran1やTerranRと呼ばれるロケットエンジンを製造している。これまでの一般的なロケットエンジンは、2,600点もの部品で構成されていたが、Relativity Spaceのロケットエンジンは、わずか3点の部品しか使われていない。

ロケットラボ(Rocket Lab):米国

こちらも、米国のスタートアップだ。ロケットエンジンの製造に、独自開発の3Dプリンターを利用しており、エンジンの軽量化および高性能化を実現している。同エンジンを搭載したロケットは、既に格安の小型ロケットとして10回以上の打ち上げ実績を誇っている。ちなみに同社のロケットであるElectron rocketは、AM活用以外にもボディに炭素繊維強化プラスチックを利用していたり、動力源に世界初の電動ポンプを利用していたりなどユニークな点が多い。

オーベックス(Orbex):英国

英国スタートアップのオーベックスは、ドイツリューベックに本社を置くAMメーカーのSLM Solutions社と提携して、ロケットエンジンとしては世界最大のロケットエンジンを開発、2021年以降の打ち上げを目指している。

同社エンジンは、3Dプリンターを用い一体成型しているため、つなぎ目が無く安全性が高まるなどのメリットを持つとのこと。


いかがだったであろうか。既にエアバス、ボーイングなど業界最大手が導入、PDCAサイクルを進めている航空宇宙業界のAM活用は、他業界と比べてかなり先進的だ。また、それらに追随するスタートアップの数も多い。このようにさまざまなプレイヤー間で”追いつけ、追い越せ”の状況が業界全体で浸透していくことは、新しい技術への規制や古い業界慣習を打破する大きな要因となるであろう。今後も同業界のAM活用に注目していく。

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シェアラボ編集部

3Dプリンタ―の”先進っぽさ”を感じさせる作りに男心をくすぐられる毎日。さまざまな業界にて活用されるアディティブ・マニュファクチャリングの今をお届けします!最近のニュースは、鳥を飼い始めたこと。

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