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3Dプリンターを活用し宇宙で利用する遠心分離機をウルテム材で造形ーカナダ宇宙機関(CSA)

ISSに届けられた血液遠心分離機の部品

カナダ宇宙機関(CSA)は、AON3Dの3Dプリンターを活用することで生物医学の研究に用いる宇宙用遠心分離機の開発期間を大幅に短縮することに成功。作製した部品は国際宇宙ステーション(ISS)に届けられ、実際に使用された。材質にウルテム材を利用することで、NASAの厳格なガス基準をクリアし大幅な納期短縮も実現している。(写真は ISSに届けられた血液遠心分離機の部品。出典:AON3D )

血液サンプル調整用遠心分離機

規制緩和で民間参入が可能となり、官民の連携による宇宙開発が加速している。

NASAは2024年までに「最初の女性」を月へ送ることを目標として月面探査計画を進行中であり、更にその先、火星探索までを構想している。地球軌道上を離れることとなるこれら長期ミッションでは、搭乗員の体調管理も課題だ。

こうした背景のもと、国際宇宙ステーション(ISS)では、無重力状態が人体に及ぼす影響についても継続的な研究がなされている。

この研究には遠心分離機が用いられる。ISS搭乗員から採取した血液はそのままでは研究に使えず、血液成分を赤血球や白血球、血小板、血漿などに分離し、分析していく必要があるためだ。

AON3Dによるウルテム材製の宇宙用遠心分離機開発

カナダ宇宙機関(CSA)はISSに送り届けるための血液遠心分離機の部品設計を進めていたが、解決するべき課題があった。

第1の課題は納期だ。ISSに物資を届けるロケットが打ち上げられるまでに、宇宙空間でも問題なく動作する遠心分離機を完成させる必要があった。CSAは従来の射出成型や切削加工では納期に間に合わないリスクがあると判断。短納期開発のための手段を検討する必要に迫られた。

第2の課題は、NASAのISS内のガス放出基準だ。手を加えずとも空気が拡散する地上環境と異なり、ISS内は全ての空気を制御し、人が居住できる環境を作っている。ここで樹脂製品からガスが放出されれば、ガスが内部に蓄積され、人体に影響を与えることも危惧される。このガス放出基準をクリアするためには、従来の材料を見直す必要があった。

そこでCSAが目を付けたのが、AON3D製3Dプリンターの「AON3D M2+」とストラタシス製樹脂材料「ULTEM 9085」だ。

3Dプリンターを活用することで、遠心分離機の試作品開発にかかるリードタイムが大幅に削減できた。従来技術で数週間必要な作業が、わずか16時間に短縮できたことによって、設計検討や改善のための作業時間を確保。また材料にスーパーエンプラ材の一種であるウルテムを採用することで、ガス放出に関する NASA の基準をクリアできた。ULTEM は、真空中の総質量損失 (TML) が低く、難燃性があり、毒性がない。

こうしてCSAは克服するべき2つの課題を3Dプリンターを活用することで乗り越え、納期までに安全基準をクリアする製品を作り上げることができた。

 AON3D M2+(出典:AON3D)
AON3D M2+(出典:AON3D)

スーパーエンプラ材の造形に対応するAON3D M2+

AON3D M2+は高い温度限界を有する熱溶解積層方式ハイエンド3Dプリンターだ。

最大ノズル温度は500度で、広い加工チャンバーを有するため、強度対重量比に優れているが加工時に高い温度が必要なスーパーエンプラ材料を造形できる。ガス放出を抑制できるストラタシス製樹脂材料「ULTEM 9085」を使うことができたのも、この高い加工温度あってこそだ。

この度の成功は、宇宙開発事業における3Dプリンターの可能性をさらに広げ、今後の宇宙開発を支える力となることだろう。

宇宙開発における3Dプリンターの活用については以下の記事も参照して頂きたい。

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