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3Dプリンターでつくるバイオマスプラスチック素材のオフィス家具を発表-オカムラ

オフィス家具メーカーの株式会社オカムラ(以下、オカムラ社)は、慶應義塾大学SFC研究所ソーシャル・ファブリケーション・ラボ(以下、ラボ)と共同で、3Dプリンターで製作するバイオマスプラスチック素材のオフィス家具デザイン「Up-Ring(アップリング)」プロジェクトを推進し、チェアやテーブルのデザインを開発した。ラボが、提唱する「リープサイクル※1」をオフィス家具分野で社会実装するための開発である。

※1 地球環境時代のものづくりの指針となる、3Dプリンターを用いた高付加価値リサイクルのコンセプト

「Up-Ring」プロジェクトとは

「Up-Ring」プロジェクトは、3Dプリンターで製作する環境素材のオフィス家具デザインに関する取り組みである。3Dプリンティング技術、バイオマスの単一材料などの技術利点を最大限生かすことを考えたデザインの研究開発を行っている。研究開発は、2018年から2020年にかけて実施された環境省の委託事業「バイオポリエチレン家具プリント製造実証事業」の成果に基づき実施。バイオマスポリエチレンを原料とし、3Dプリンターを使って生産する「Up-Ringシリーズ」は、脱炭素社会の実現に向けての新しいチャレンジだ

3Dプリンターによる生産は、金型が不要なため生産準備段階での費用削減を図ることができ、製造時の無駄な材料消費、騒音、消費電力を抑え、1台でも生産が可能である。オカムラ社は3Dプリンターの製造メリットに注目し、今後「Up-Ring」プロジェクトの具体的な製品化に向けて検討を進めているとのこと。

Up-Ringの生産プロセス

Up-Ringシリーズの原料であるバイオマスポリエチレンは、サトウキビから作られる。サトウキビなどの植物は再生可能であるとともに生育過程でCO2を吸収固定する。そのため、化石資源などの枯渇性資源の使用削減と、温室効果ガスの排出抑制効果が期待できる。

サトウキビがオフィス家具に生まれ変わるまでの工程を簡単に解説する。

サトウキビと、バイオマスポリエチレンの外観。バイオマスポリエチレンはプラスチックパレットそのものの外見。

まず、サトウキビを発酵させたバイオエタノールを、脱水、重合させバイオマスポリエチレンを製造。バイオマスポリエチレンは粒状のペレットの状態で保管される。ちなみに、このバイオマスポリエチレンをそのまま3Dプリンターで成形すると「反り」が発生してしまうため、フィラー(隙間を埋める部材)を混合して、層間強度を高め反りを抑えるよう改良しておく必要がある。

続いて、色の調合は着色したバイオマスポリエチレンのペレットを攪拌混合して実現。

3Dプリンタでの生産[クリックで拡大] 出所:オカムラ

そして、製造に必要な形状データを3Dプリンターに入力することで、ペレット状の原料が加熱されて、3Dプリンターのノズルから射出されて成形が始まる。この時、ノズルから押し出された原料は、層を何層にも重ねて形になる。データ通りに成形するために射出速度と温度を細かく設定し、形状が出来上がったら冷却して安定させる。

完成した製品は配送センターから直接顧客へ発送。という流れで生産プロセスを組んでいる。

将来的には国内各所に3Dプリンタを設置し、納品先に最も近い場所で製造することも可能。輸送経路の短縮によりCO2排出量をさらに削減できる可能性を秘めている。

バイオマスプラスチック素材のオフィス家具について

先に述べているように、原料となっているサトウキビは生育の過程でCO2を吸収(固定)する。石油化学系ポリエチレンに比べてCO2発生量を70%も削減し、温暖化防止等に貢献する。また、注目のポイントは環境に優しいだけではなく、家具として充分な強度や耐久性などの基本性能を確認し、実用性が証明されており、単一材料(モノマテリアル)でつくられるため、粉砕後は再度3Dプリンターで成形することが可能になる。また、非可食成分から製造されるため、食料不足は発生しないという特徴もある。

チェアの形状は、バランスボールのように、座っている人が自ら重心を移動させることで柔軟に姿勢を変化させ、かつ背中や膝の安定性も確保することができる新たな形状を開発し、3Dプリンターによる一体成形での製造を実現した。

そもそもバイオマス素材とは何か、については以前ShareLab編集部で取材した記事にて解説しているのでぜひご覧いただきたい。

>> 【世界初の試み】3Dプリンター×バイオマス素材

今後の展望/まとめ

いよいよ高付加価値リサイクルが実現する。高付加価値リサイクル=アップサイクリングは、リサイクルすることで価値が高まり、更にリサイクル可能な材料に戻すことが可能である。まさに夢のリサイクルである。

従来のリサイクルは、廃棄物になる前に実用的なものに生まれ変わるダウンサイクリングが主流であった。しかし、リサイクルには、大きなエネルギーを必要とすることが多くエネルギー消費を抑えつつ、再生可能エネルギーが活用しやすいリサイクル方法であることも重要なポイントになる。

ラボが提唱する「リープサイクル」コンセプトを社会実装する形で生み出された「UP-Ring」は、その原料がサトウキビの非可食部=廃棄物である点も重要である。従来のゴミが高付加価値を生み出し、粉砕してもゴミにならず次の原料になるサーキュラエコノミー(循環経済)になると言うことは、原料を気にせずに生産活動ができると言うことでもある。しかも3Dプリンターによる造形は自由度が高くサーキュラーデザインを実現しやすい。夢の生産活動が実現する。

3Dプリンターの活用では製造コスト削減だけではない、SDGsにも貢献する付加価値は今後さらに発展し多くの事例が増えていくだろう。今後も新たな取り組みに期待したい。


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ShareLab編集部

電機メーカー、デジタル地図ベンダーのソフトウエアエンジニア、サービス企画の経験を経て、コンサルティングファームのメンバーとして自動車会社の開発を支援する。予防医学を学び、幹細胞に興味を持つ。3Dプリンターで自身の車や家を作る時代がくることを夢に見ながら日々執筆に勤しむ。

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