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バイオマス素材×3Dプリンターで循環型都市を実現するプロジェクト『RECAPTURE』仕掛け人に話を聞いた!

株式会社NOD(以下、NOD)は、株式会社ネクアス(以下、ネクアス)、株式会社Boolean(以下、Boolean)とともに、”⾃然と⼈間のつながりを捉え直し、有限の資源を利活⽤する循環型都市を実現する”プロジェクト「RECAPTURE」を8⽉31⽇より開始。第⼀弾として、株式会社ネクアスが開発した生分解性酢酸セルロース素材「NEQAS OCEAN」を使用した世界初の大型3DP家具を発表した。

今回、世界初となる⽣分解性バイオマス素材を3Dプリンターで製造することにわずか3ヶ月で実現したスピード力と実行力、そして第二弾、第三弾と新たな素材を活用した3Dプリンターのさらなる可能性を開拓した魅力あるプロジェクトにチャレンジするNOD 代表取締役 溝端 友輔氏とBoolean 代表取締役 濵﨑 トキ氏の両名にShareLab NEWS編集部がインタビュー。本プロジェクトを成功させた要因と今後の展開について伺った。

RECAPTUREプロジェクトとは

「RECAPTURE」は、酢酸セルロースをはじめとした⽣分解性バイオマス素材や有機廃棄物などを3Dプリンターによって加⼯・再利⽤し、 循環型の都市づくりを⽬指すプロジェクトである。 

これまでの都市空間を構成する要素の多くは、使い終わった後、廃棄や取り壊しをするのが一般的でした。私たちが目指すのは、再利用可能な素材を柔軟なデザインが可能な3Dプリンターを活用し加工することで、作り手がクリエイティビティを発揮しつつ、素材の面から環境負荷の低い都市を作ることです。

「RECAPTURE」は「捉え直す」という意味を持っています。⼈間と⾃然の関係、素材の持つ可能性、都市のあり⽅ など、さまざまなものを捉え直すことを通じて、未来を創造するという思いを込めて名付けました。 

RECAPTURE プレスリリースより引用

そして今回、プロジェクトメンバーであり、プロジェクト立案・企画に携わったNODの溝端氏、DfAMなどデザイン設計に携わったBooleanの濱崎にインタビューを実施し、プロジェクト成功要因や導入した3Dプリンターについて詳細を伺うことができた。今回インタビューを引き受けていただいた両名をご紹介する。

NOD 代表取締役 溝端 友輔氏

溝端氏は、中央工学校インテリアデザイン学科出身。商業施設の制作会社を経て、建築ディレクターとして独立し、2019年NODを起業。空間の拡張をテーマに、建築や不動産などの領域から、さまざまな職業や領域のパートナーと共にプロジェクトを手がけている。

「これまでにない可能性」を想像し、現実という場に創造する。その循環を繰り返し、100年後の当たり前を作ることを目指し、今回のプロジェクトを立案。

Boolean 代表取締役 濵﨑 トキ氏

濱崎氏は、舞台技術や建築の設計の仕事に就くなかで、建築用3Dプリンター技術の導入支援を行い、その時の経験を活かして企業。今後多くの需要が予想される大型造形に、3Dプリンターの専用材料の開発は不可欠であると考え開発に取り組んできた。

同社ではDfAM対する体系的な知見・技術・ネットワークをもとに、製造企業に対して3Dプリンター活用コンサルティングを展開。現在の顧客層は、自動車関連、機械加工、ロボットSIerなど、多岐に渡る。

酢酸セルロースをベースとした「NEQAS OCEAN」素材とは

第一弾として発表されたのは、酢酸セルロースをベースとした「NEQAS OCEAN」を素材を使用し、3Dプリンターで作られた大型家具の椅子だ。

そもそも、椅子を使用した理由は実用性が高く、需要が高いことはもちろんだが、建築において細かな技術が凝縮された集合体でもあるためだ。椅子を作ることができればほかへの応用が可能なため、このプロジェクトの始まりは椅子からスタートしている。

酢酸セルロースを使用した椅子のアップ図。積層痕はみえるものの、それがデザインとして受け入れられてしまうような見た目をしている。
酢酸セルロースを使用した椅子(出典:NOD)

今回、注目ポイントであるバイオマス素材について解説する。

ベースとなる酢酸セルロースとは、木材繊維や綿花等、自然由来の資源を用いた素材である。⾼い⽣分解性を持ち、使い終わった後は⼟に埋めたり、海中に沈めることで、⽔と⼆酸化炭素に分解されるという特徴を持っている。

酢酸セルロースの⾃然界における分解速度は1年から3年とされており、10年から100年か けて分解される汎⽤樹脂よりも 早い循環サイクルでの利活⽤が可能だ。

身近なものでは、たばこのフィルターなどにも使用されている。

本プロダクトに使用している 「NEQAS OCEAN」は酢酸セルロースに可塑剤などを独自技術で配合した、熱成形可能なセルロース系バイオマス素材である。可塑剤には、食品添加剤や宇宙食にも使用される自然、人体への影響のない素材を使用している。

分解されると聞くと、強度などに不安があるが実際に造形された椅子は非常に頑丈で、強度が高い。正直、言われなければ土や海に捨てても分解されるとは想像もつかない。コロナ禍におけるリモートワークの加速によるオフィス環境の変化や、ごみの最終処分場の残余容量数が限界を迎える中、都市環境の改善に貢献しうると考えているとのこと。

酢酸セルロース製品の循環サイクル(出典:NOD)

【世界初の試み】3Dプリンター×バイオマス素材

今回、この「NEQAS OCEAN」を3Dプリンターで造形するのは世界初の試みとなる。世界初とあって、さまざまな試行錯誤があったという。

セルロースの素材の特徴は収縮力が高く、何度も失敗を繰り返した。それでも、造形は一週間もかからず造形に成功しているその秘訣は「あて感」と「3Dプリンター機械の技術力」とのこと。「あて感」に関しては、今まで多くの3Dプリンターの新材料の開発、造形にチャレンジしてきたからこその経験が存分に生かされているのだろう。

また、今回使用された3Dプリンターは以前 ShareLa NEWS でも紹介した超大型造形を実現する「茶室」だ。

「茶室」は単なる大型造形できる3Dプリンターではない。

エスラボの独自技術である、吐出のスピード不足や材料硬度への制約といったMEX方式の課題を解消するGEM(Granules Extrusion Modeling)テクノロジーを搭載。3Dプリンターに搭載可能な超小型押出成型機を開発することで、樹脂ペレットからの直接造形が可能となり、その結果として材料の硬度への幅広い対応と自由度を高めることに繋げられた。

今回のプロジェクトで、大型造形のスピードを実現できたポイントは「ノズル」だ。10㎜の大口径ノズルを採用し、わずか1日2.8mの大型造形を完成させるスピードを実現している。

10㎜の大口径ノズルにて造形している様子(出典:NOD)

今回プロジェクトを成功に導いたのは、3Dプリンター造形に果敢にチャレンジしてきた経験値と、3Dプリンターの技術力といっていいだろう。

製造工程

この動画は実際に「茶室」で造形している様子だ。特別にご提供いただいた。

第二弾のプロジェクトである、有機ごみ(卵殻ごみなど)を材料として使用ししているため、第一弾の透明ではなく独特な色合いが印象的だ。動画では、一層一層重ねていく様子は丁寧だが、早いスピードで造形されているのが見て取れる。完成した造形物は近日発表されるとのことなので、心待ちにしたい。

新素材を3Dプリンターで造形する難しさ

このプロジェクトの中で、一番時間を有したものは何か。

もともと、プロジェクトの立ち上げ~実際に造形されるまで3ヶ月という短期間のスパンのなかで、一番時間を有したのはデザイン設計とのことだ。デザイナーとの打ち合わせを何度も行い、3Dプリンター用のデザイン設計の理解してもらう必要があった。

3Dプリンターのデザイン経験者は日本では数少なく、3Dプリンター導入を行った企業の多くが抱える課題でもある。今回はデザイナーに3Dプリンター設計を依頼するにあたって、そもそも3Dプリンター設計とは何か、を理解をしてもらうことに注力した。そうすることで、デザイナーの意図を踏まえたうえで、3Dプリンターで造形できる魅力的なデザインが誕生した。

酢酸セルロースを使用した椅子。公園にある、一人用のベンチと言われれば何の違和感も覚えないような完成度。一つ一つが異なった形をもつのもまた3Dプリントらしくて良い。
酢酸セルロースを使用した椅子(出典:NOD)

プロジェクト共同創業者の思い

私たちは、「今までにない可能性を作りつづける」ことをビジョンとして掲げ、これまでハードとソフトを行き来しながら、実空間に新しい価値を実装してきました。3Dプリンターという人の想像力を最大限に活かすツールを活用し、環境問題に対して向き合っていくことは、まさに都市という空間に今までにない可能性を作ることだと考えています。SFの父とも呼ばれるジュール・ヴェルヌは「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉を残しました。都市を構成する様々な要素を捉え直し、新しい価値を想像し、アップデートしつづける。ある意味でSFとも言える都市づくりをこのプロジェクトを通して、実現します。

溝端 友輔:株式会社NOD

古代ギリシャ哲学者ヘラクレイトスは「万物は流転する」と述べました。あらゆる存在は時の流れとともに変化していき、互いに調和しながらこの世のバランスが保たれるのだと解釈しています。存在が完全で永遠であり続けることが産業革命後我々が目指す姿である一方で、昨今の環境破壊の様に地球全体のバランスに歪が起こっているのも事実です。当社が開発製造する「NEQAS OCEAN」はこれまでのプラスチックと同等の性能を維持しながら、時と共に自然に還る新素材です。当社はこのプロジェクトで「全てのものは永遠でなく流動的である」ことを再認識しそれを楽しむことを素材を通して提案していきたいと考えております。

山崎 周一:株式会社ネクアス

Boolean(ブーリアン)の掲げるビジョンは「すべての人のクリエイティビティの全解放」です。世界中の人それぞれには差があり、その差の組み合わせこそが人類の創造性の源となっています。そして人は、作り出した「もの」にストーリーを載せ、その「もの」の受け取り手と共に、新たな価値を生み出し続けて来ました。現在、時間や場所を超えて世界中の人が繋がることができ、デジタル上ではこれまでにないレベルで創造性は解放されています。ただ、ものづくりを含むフィジカルな領域では、それに匹敵する解放には未だ至っていません。3Dプリンターは、近い未来でもっとも人に寄り添い、人と人とを繋ぎ、何よりも自由なものづくりのプラットフォームとなります。Booleanは、3Dプリンティングを当たり前にすることによって、人の創造力に溢れた世界を実現します。

濵﨑 トキ:株式会社Boolean

今後の取り組み

⾞や船などのモビリティ、住宅やカフェ、商業施設などの建築物、橋やトンネルなどの建造物まで、都市を構成する要素を3Dプリンターと再利⽤可能素材を使って構築していく。

都市全体が再利⽤可能な素材で作られ、3Dプリンター⾃体も⾃然エネルギーを動⼒源とすることで、持続可能な循環型社会の実現と、誰もがプロシューマー(つくる側・提供する側にも関わる消費者)となれる可能性をひらき、⼈々のクリエイティビティも循環する社会を⽬指すとのこと。 

すでに第二弾のプロジェクトは動いている。
第二弾では、有機ごみ(卵殻ごみ、コーヒーごみ)を使用。実際に家庭に出るごみを巡回させる試みだ。

日本の3Dプリンター業界は海外に比べて10年ほど遅れている。その大きな要因はAMに対する理解だという。しかし、理解さえ深めていければ、日本のものづくりに対する技術は世界にも引けを取らない。今回のプロジェクトを通して、3Dプリンターの技術を活かしたさらなる技術進化を促進させるパートナーを募集している。

今後の同社の先進的取り組みに注目していきたい。

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シェアラボ編集部

3Dプリンターの繊細で創造性豊かなところに惹かれます。そんな3Dプリンターの可能性や魅力を少しでも多くの人に伝えられるような執筆を心がけています。

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