東レの3Dプリンタ用樹脂粉末データ、「Digimat」に追加 異方性を考慮した高精度シミュレーションが可能に

2026年4月16日
出典:Cadence公式サイト Digimatページ
出典:Cadence公式サイト Digimatページ

エムエスシーソフトウェア株式会社は、複合材料モデリングプラットフォーム「Digimat」の材料データベース「Digimat-MX」に、東レの3Dプリンタ用樹脂粉末「トレミルPPS」の強度解析用データを追加した。これにより、積層造形に特有の異方性を考慮した高精度なシミュレーションが可能となり、設計段階から軽量化と高強度を両立する取り組みが現実的になる。

3Dプリンタ用PPS材料データを新規追加

①積層方向Z、リコート方向X:580Nで破壊(出典:エムエスシーソフトウェア)
①積層方向Z、リコート方向X:580Nで破壊(出典:エムエスシーソフトウェア)
②積層方向X、リコート方向Z:500Nで破壊(出典:エムエスシーソフトウェア)
②積層方向X、リコート方向Z:500Nで破壊(出典:エムエスシーソフトウェア)
③積層方向Y、リコート方向Z:520Nで破壊(出典:エムエスシーソフトウェア)
③積層方向Y、リコート方向Z:520Nで破壊(出典:エムエスシーソフトウェア)

東レはこれまで、射出成形用樹脂を中心に「Digimat-MX」へ材料データを提供してきたが、今回新たに3Dプリンタ用樹脂粉末のデータを拡充した。対象となる「トレミルPPS」は、粉末床溶融結合(PBF)方式に対応するスーパーエンジニアリングプラスチックである。高強度・高剛性に加え、耐熱性や耐薬品性、低吸水性、電気特性、難燃性といった性能を兼ね備える。また、流動性が高く、フィラー配合にも対応可能な設計となっている。今回追加されたデータには、非強化グレードに加え、ガラス繊維強化グレードも含まれており、さらなる強度・剛性向上を前提とした設計にも対応する。

異方性を考慮した構造解析が可能に

積層造形では、造形方向や繊維配向によって力学特性が変化する「異方性」が大きな課題となる。このため、従来は実機試作に依存した強度評価が中心であり、設計段階での予測精度に限界があった。今回の材料データ追加により、「Digimat」上で造形方向や繊維方向を考慮した解析が可能となる。構造解析ソフトと連携することで、実際の使用条件に即した強度予測が行えるようになり、材料パラメータの個別設定なしで高精度なシミュレーションを実現する。これにより、試作回数の削減や開発期間の短縮が見込まれる。また、形状最適化や配置設計においても、材料特性を最大限に活かした設計が可能となる。

Digimatでリバースエンジニアリング、パラメータ設定し、フィッティング。45°試験片含め、各方向試験片を3D造形し、引張試験S-Sカーブデータを取得。(出典:エムエスシーソフトウェア)
Digimatでリバースエンジニアリング、パラメータ設定し、フィッティング。45°試験片含め、各方向試験片を3D造形し、引張試験S-Sカーブデータを取得。(出典:エムエスシーソフトウェア)

Digimat追加済材料データ

「Digimat」の材料データベース「Digimat-MX」には、以下の東レの材料グレードのデータが含まれている。

  • 3Dプリンタ用PPS
    トレミルPPS-PS(非強化)、トレミルPPS-PSG2(ガラス繊維強化)
  • 射出成型品用PPS
    トレリナA604CX1B、トレリナA504CX1B、トレリナA673MTB、トレリナA675GS1B、トレリナA310MX04、トレリナA660HVB、トレリナA495MA2B、トレリナA570CX1B、トレリナA676ES1B(以上ガラス繊維強化)、トレカA630T30V(炭素繊維強化)
  • 射出成型品用PBT
    トレコン1101G-30 HB (S)、トレコン5001G-30 B、トレコン7151G-30 B(以上ガラス繊維強化)
  • 射出成型品用PA6
    アミランCM1016G-30(ガラス繊維強化)
  • 射出成型品用PA66
    アミランCM3006G-30(ガラス繊維強化)、トレカA630T30V(炭素繊維強化)

【2025年Digimat追加済データ】

・トレミル®PPS 非強化グレード

・トレミル®PPS ガラス繊維強化グレード

【 2026年Digimat追加予定データ】

・トレパール®PA6

編集部コメント

今回のポイントは「材料データの実装」によって、3Dプリンタ設計のボトルネックである異方性問題に踏み込める点である。これまで日本の製造業では、積層造形は「試してみないと分からない」領域が大きかった。今回のように材料メーカー自身がデータを提供し、それが解析ソフトと連携する流れは、量産設計への移行を加速させる。特にPPSのような高機能樹脂が対象である点は、自動車や電機分野での実用展開を後押しする動きと見るべきである。設計段階で強度を担保できる環境が整えば、「軽くて強い」を前提にした構造設計が現実になる。これは単なる効率化ではなく、製品設計そのものの考え方を変える要素である。

用語解説

■ Digimat
複合材料の力学特性をシミュレーションするためのソフトウェアプラットフォーム。材料の微視構造からマクロな構造特性までを解析でき、構造解析ソフトと連携することで製品設計に活用される。
■ PPS(ポリフェニレンサルファイド)
高い耐熱性・耐薬品性・機械特性を持つスーパーエンジニアリングプラスチック。自動車部品や電気・電子部品など、高負荷環境で使用される用途に適している。
■ PBF(粉末床溶融結合方式)
粉末状の材料を薄く敷き詰め、レーザーや熱エネルギーで選択的に溶融・結合させて積層する3Dプリント方式。高精度かつ複雑形状の造形に適している。
■ 異方性
材料や構造の物性が方向によって異なる性質。3Dプリンタ造形では積層方向や繊維配向によって強度が変化するため、設計・解析上の重要な要素となる。

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