大規模災害時に入れ歯を無償提供 震災関連死を防ぐ新たな取り組み ― お守り入れ歯

北海道札幌市に本社を置く株式会社お守り入れ歯(以下、お守り入れ歯)は、大規模災害発生時において、あらかじめ保管されたデータをもとに新たな入れ歯を無償で提供する方針を発表した。同社は全国で「入れ歯銀行」サービスを展開しており、入れ歯データの無料保管を行っている。(上部画像は入れ歯データ取得のためスキャン中の様子。出典:お守り入れ歯)
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巨大地震のリスクが現実味を帯びる中
東北大学、北海道大学、海洋研究開発機構による2019年からの合同調査により、北海道沖・千島海溝のプレート境界では年間約8cmの速度でひずみが蓄積されていることが確認された。地震調査委員会は、この地域において今後30年以内にマグニチュード9以上の巨大地震が発生する確率を7%~40%と見積もっている。仮に発生すれば、日本海溝を含めた広域での被害が見込まれ、初動で約14万人の避難が必要になるとの試算もある。こうした状況を受けて、震災関連死の抑止に向けた迅速な対策が急務となっている。
入れ歯のデジタルデータを事前保管し、災害時に無償提供
お守り入れ歯が展開する「入れ歯銀行」は、事前に入れ歯のデータを取得・保管し、有事の際には3Dプリンターで新たに製作する仕組みである。通常は有料のサービスであるが、今回の政府発表を受け、同社は大規模災害時に限り製作費用を無償とし、提携歯科医院を通じて被災者へ提供することを決定した。

入れ歯の困りごとを解消する無料入れ歯アプリ「入れ歯銀行アプリ」については以前シェアラボでも取り上げている。下記の記事をあわせてご覧いただきたい。
誤嚥性肺炎を防ぐには、迅速な口腔ケアが不可欠
「入れ歯銀行」が始まった契機は、2011年の東日本大震災にさかのぼる。多くの高齢者が避難所で誤嚥性肺炎により命を落とした。入れ歯を持ち出せなかった、避難中に破損した、衛生的な管理ができなかったといった事情が、食事や体力の維持を困難にし、健康を損なう結果を招いたのである。
お守り入れ歯の池田代表は、日頃からの備えが命を守ると痛感し、治療用の仮入れ歯の保有を勧める取り組みを開始した。2021年からは3Dプリンターによる製作に対応し、保管サービスを無償で提供。2023年からは、歯科医院の所在県に縛られない全国規模の「入れ歯銀行」体制を確立した。2024年には、内閣官房がまとめる「国土強靭化 民間の取組事例集」にもその活動が紹介されている。現在、加盟歯科医院は全国で19か所に及び、580名分のデータが保管されている。

今後の展望と協力の呼びかけ
入れ歯の無償提供には、事前のデータ保管が前提となる。データの取得には約30分を要するが、最寄りに加盟医院がない場合は、郵送での対応も可能であり、4~7日以内に返送される。災害時には、全国の協力歯科医院を通じて被災者への迅速な提供が可能となる。
池田代表は「東日本大震災の発生から3か月後、私は入れ歯専門医院を開業した。被災者は経済的にも困窮し、生活の質を維持する手段を失いやすい。製作までを無償とすることで、経済的な格差を無くし、誤嚥性肺炎による死を減らすことができると信じている」と語る。
今後は、巨大地震が予測される地域を中心に、入れ歯銀行の出張イベントを開催する予定である。また、大規模災害時に入れ歯の調整などを担ってくれる協力歯科医院の募集も進めていく。
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