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再生医療の進化に貢献。バイオ3Dプリンター国内外最新事例

バイオ3Dプリンティングにより形成された乳房インプラント用組織 出典:Healshape社

複雑な形状の造形を得意とする3Dプリンターは、建築、自動車、アパレル、医療など、さまざま分野で活用されている。特に、医療分野においては再生医療に3Dプリンターの活用が期待されている。

バイオ3Dプリンターとは、樹脂や金属ではなく、生きた細胞や有機物がプリント素材として用いられる。今回は医療分野での研究開発がすすむバイオ3Dプリンターについて、最新の事例を紹介していく。(画像はバイオ3Dプリンティングにより形成された乳房インプラント用組織 出典:Healshape社)

バイオ3Dプリンターとは

バイオ3Dプリンターは、有機物をプリント素材としている。プリンターから素材を噴出して積み重ね、造形していくという仕組みは一般的な3Dプリンターと同じだ。バイオ3Dプリンターが造形を目指すものには、皮膚や骨、神経、臓器などが挙げられる。最終的に、ドナーから提供される臓器の代わりに移植を行えるようにすることが、再生医療分野における目標である。

バイオ3Dプリンターの登場は2010年頃。各国で注目を集め医療分野での研究開発が着実に進捗しているものの、実際人体での臨床実験はまだ進んでいない。その理由は、細胞の取り扱いの難しさだ。細胞は、噴出して重ねていくだけでは時間が経つと形を崩してしまうため、細胞以外の何かと混合する必要がある。形を保ちながらも、いかに人体に拒否反応を起こさない混合物を作れるかが、バイオ3Dプリンターの大きな課題だ。

アメリカのコーネル大学の研究者は、人間の天然組織の挙動を模倣できる人工皮膚の素材として、コラーゲンと双性イオンハイドロゲルを混ぜたバイオ材料を開発した。

人間の身体は常に動いているため、組織は命令に応じて曲がる柔らかさだけでなく、一定の負荷に耐える十分な強度も兼ね備えている必要がある。コーネル大学の研究チームの開発したバイオ材料は、これらの課題をクリアしているとのこと。

将来的には、患者の細胞をもとにバイオ3Dプリンターで造形した構造物が、傷を迅速に治すために用いられる日が来るかもしれない。

コラーゲンの繊維状ドメイン(黄色)に細胞(赤色)を播種した、研究チームのバイオハイブリッド複合体の顕微鏡写真。出典:コーネル大学
コラーゲンの繊維状ドメイン(黄色)に細胞(赤色)を播種した、研究チームのバイオハイブリッド複合体の顕微鏡写真。出典:コーネル大学

バイオ3Dプリンターの活用事例

課題はあるものの、各国での活用事例をみるとその進化を知ることができる。今回は国内外のバイオプリンティングの事例をご紹介する。

事例1│人工血管、治療薬開発に有効な血管モデル

細胞製血管利用イメージ

バイオ3Dプリンターを用いた医療分野での研究開発は世界中で進められている。日本も例外ではなく、既にバイオ3Dプリンターを用いて作製した「細胞製人工血管」をヒトへ移植する臨床研究が開始されている。

腎不全などにより血液透析が必要な患者は、手術で動脈と静脈をつなぐ手術をすることがある。この際のパイプの役割をするものは、患者の血管から作製するのが一般的だが、それが困難な場合は人工血管が用いられる。

しかし、人工血管には詰まりやすい、感染症にかかりやすくなるなどの課題がある。日本で研究がすすむ「細胞製人工血管」は患者の細胞のみから構成される小口径の人工血管なので、従来の人工血管が抱えるリスクが解決できるのではないかと期待されている分野だ。

また、テキサスA&M大学バイオメディカル・エンジニアリング学部の研究チームは、新たに開発したハイドロゲルバイオインクを使用して、非常にリアルな血管モデルを3Dプリントした。

この事例では、治療薬開発に有効なバイオ3Dプリンティング血管モデルを作成し、心血管治療薬の開発を迅速に進めることを目的に開発された。今までバイオ3Dプリンターに使用されるバイオインク(生細胞とその他の生体材料から構成される)はプリント性能や生細胞を高密度に付着させる能力が不足しており、使えないものが多かった。

その課題を解決したのが、今回新たに開発したハイドロゲルバイオインクである。ハイドロゲルをベースとしており、生細胞(内皮細胞や血管平滑筋細胞の培養物)を含んでおり、非常にリアルな血管モデルを3Dプリントすることに成功している。

今回開発したバイオインクで押出し3Dプリントした血管モデル
今回開発したバイオインクで押出し3Dプリントした血管モデル(出典:TAMU)

事例2│移植用組織を活用した再生医療

続いて研究開発が進む移植用組織の再生医療分野事例を2つ紹介する。

フランスのConception病院では、バイオ3Dプリンターの抱える、品質、効果、費用、作成にかかる時間といった4つ課題を解決するため、無菌環境で使用でき印刷速度は従来の1,000倍ともいわれるPoietis社製のバイオ3Dプリンターを導入し、本格的な実用化を目指している

今回導入されたPoietis社のバイオプリンターは、火傷治療に関して新たな可能性を示している。

重度の火傷治療の場合、負傷した皮膚を切除した後、切除部に皮膚代替品を移植する必要がある。患者への悪影響を最小限に抑えるためには、患者一人一人に合った移植皮膚の構成、形状制御が欠かせない。Poietis社のバイオプリンターを導入することで、患者から採取した皮膚のサンプルを元に、その場で移植皮膚の大量製造ができる。こうした仕組みは、患者の負担が少なく、迅速な移植治療を可能とする

同社は将来的に、全ての病院にバイオプリンターが設置され、内臓への移植治療も可能になると考えている。そうした未来は意外と近いのではないか、とも述べている。

また、2020年1月にフランスのリヨンで設立された再生医療バイオテクノロジーのスタートアップ企業のHealshape社は、乳がんの切除などにより変形、あるいは失われた乳房をできる限り取り戻すための乳房再建に、患者自身の細胞をもとに、バイオ3Dプリンターを用いて人工乳房を作る研究開発を進めている。

まだ臨床試験には至っていないが、研究が成功すれば、乳がんで乳房を切除した女性はもちろんのこと、形状や大きさにコンプレックスを抱く全ての女性の悩みを解決する希望となるはずだ。

バイオ3Dプリンターを用いて再生医療分野の研究がすすめば、これまで不可能だったことが可能になるものも多い。世界中の患者の希望を叶える日が、近い将来に訪れることを願ってやまない。

今後もShareLabNEWSは、バイオ3Dプリンティングについての情報を積極的に取り上げていくつもりだ。

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今回は医療業界で活用されるバイオ3Dプリンター事例をご紹介したが、細胞を再現する手法は医療だけではなく「食」の面でも活用が進んでいる。ShareLab NEWSでは国内外の「食」分野で活用されるバイオ3Dプリンター事例もご紹介しているのでぜひご覧いただきたい。

国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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