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東北大学らの共同研究チームが3Dプリント技術を応用しナトリウムイオン電池の容量を4倍に向上

3Dプリンターで硬化させた樹脂(上段)を炭化させて負極材料(下段)を作製 出展:東北大学

東北大学を含む日米共同研究チームが、ナトリウムイオン電池の負極に適したハードカーボンからなる連続周期構造の「カーボンマイクロラティス」を光造形方式の3Dプリンターで作成し、ナトリウムイオン電池の単位面積当たり容量を4倍まで向上させることに成功した。レアメタルに依存する高性能電池分野だが、国産で調達できる材料で製造できるナトリウムイオン電池への期待がもてる研究成果だ。(画像は3Dプリンターで硬化させた樹脂(上段)と、それを炭化させて作製された負極材料 出典:東北大学)

開発が望まれる次世代蓄電池「ナトリウムイオン電池」

脱炭素社会や、カーボンニュートラルといった言葉が注目され、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が求められている。そのような中で現在最も普及している蓄電デバイスが、リチウムイオン電池だ。

スマートフォンのような電子機器から電気自動車に至るまで、リチウムイオン電池は充放電ができる二次電池の代表格として、幅広い分野で活用されているが、リチウムやコバルトといった産出される地域や量が限定されるレアメタルを材料として利用するため、資源高には弱い一面もある。

すでに、リチウムの主原料である炭酸リチウムの価格は、この2年間でおよそ16倍に高騰。化石燃料からの脱却にあたって電力活用を行う上では、充電・放電ができる二次電池の高機能化、安定調達が必要だが調達は年々難しくなっている。今後の国際情勢によってはさらなる高騰や供給不足の可能性もあるなど不安材料も多い。

このような状況のなか、リチウムイオン電池に代わる蓄電デバイスの1つとして、開発がすすめられているのがナトリウムイオン電池だ。

ナトリウムイオン電池は、日本の周りの豊富な海洋資源を利用できるため、エネルギー資源の輸入依存が大きい日本にとって、実用化できれば電池部品の調達安定化に大きく貢献できる可能性がある。

3Dプリントでナトリウムイオン電池の課題を克服

だがナトリウムイオン電池は、現段階でエネルギー密度や出力密度の点でリチウムイオン電池に劣っており、実用化には至っていない。この現状をふまえ、今回研究チームが目指したのは、3Dプリンターを用いての高性能な電極を作成しナトリウムイオン電池の性能を向上させることだった。

バッテリーの容量は、電極にどれだけイオンを充填できるかで決まる。多くのイオンを充填するためにはイオンが高速で出入りできる環境を整える必要があるが、従来のペレット状(円盤状)の電極を厚くしてもイオンが通りにくくなり、効果がない。

この課題を解決するために研究チームは、複雑な構造が正確に造形できる3Dプリンターを用い、微細な格子状の構造物を作ることで、電極全体を金属イオンが高速で出入り可能な状態にするアプローチを行った。3Dプリンターであれば連続的な3次元構造をコンピュータ上で容易にデザインできる。

今回用いられた3Dプリンターは光造形方式のものだ。炭素繊維を含む光硬化性樹脂に3Dプリンターで紫外線を照射し、樹脂を格子状に加工した。続いて真空下で約1,000度で加熱すると、設計した構造を保ったまま60%収縮し100~300µmの構造単位の素材、カーボンマイクロラティスになる。

 3Dプリンターで微細な格子状の構造をもつ負極材料を開発した 出展:東北大学


3Dプリンターで作製された微細な格子状の構造を持つ負極材料 出典:東北大学

作製したカーボンマイクロラティスを、ナトリウムイオン電池の負極として使用すると、構造単位が微細になるほど充放電特性が向上することが判明した。さらには従来の電極と比較した結果、マイクロラティスは電極面積当たりの容量を4倍まで向上させることも分かったという。

電池の電極は通常、単層の電極を分厚くしてもイオンが通りにくくなり、充放電の性能が落ちるため、シート状の素材を重ね合わせて作る。カーボンマイクロラティスなら、電極の厚みを増しても性能向上が可能なため、素材同士を接着する部材が不要になり、製造コストも抑えられる。

カーボンマイクロラティス電極とペレット電極の厚膜化に伴う電極面積当たり容量の変化 出展:東北大学

カーボンマイクロラティスなら電極の質量と容量が比例する 出典:東北大学

今後の課題

今後は性能面でリチウムイオン電池に匹敵するナトリウムイオン電池の開発が期待される。

今回作製されたカーボンマイクロラティスは、黒鉛のような結晶性を持たないハードカーボンと呼ばれる構造を持ち、ナトリウムイオンの充放電との相性が、多くの金属イオン電池候補の中でも優れている。

光造形方式の3Dプリンターは樹脂の分子構造の改良や、他の材料と混合することでハードカーボン以外の材料にも対応できる可能性があり、負極だけでなく陽極もマイクロラティス化したナトリウムイオン電池の開発や、他の金属イオン電池に適したマイクロラティス電極の開発につながると考えられている。

今回の開発が日本における化石燃料から再生可能エネルギーへの転換の大きなきっかけになるかもしれない。今後の動きにも注目したい。

電池開発に貢献する3Dプリンター

電気自動車をはじめとした新しいモビリティ分野やロボットにドローン分野など電力を使って動く装置には枚挙のいとまがない。電池性能が稼働時間に大きく影響するため、各研究機関やメーカー各社はさまざまな研究を行っている。電池性能に焦点を当てた全個体電池や、今回のナトリウムイオン電池のように電池製造に必要な材料資源に注目をあてた取り組みなどさまざまな取り組みが行われている。複雑な構造を安定的造形できる3Dプリンターはこうした電池分野でも活用されており、開発や製造に今後も利用される可能性がある。

武藤精密工業が全個体電池を3Dプリント技術を活用して製造する米ベンチャーKercelに出資したことはまだ記憶に新しいが、今後もAM技術の活用が技術的なブレイクスルーにつながる事例を追っていきたいと思う。

国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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