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材料が変わるとモノづくりが変わる-アモルファス合金とAMの可能性

金属3Dプリンター関連分野では、日本最大級の会員数を誇るひょうごメタルベルトコンソーシアム。大企業ばかりのコンソーシアムではなく、中小企業でも参画できる勉強会や会員相互のもつ技術を共有しあう技術セミナーなどの取り組みを展開している。参画企業以外にも広く参加の門戸を開いている同コンソーシアムの技術セミナーだが、シェアラボ編集部では、2022年8月26日に開催された技術セミナーに参加した。その様子をお届けしたい。

今回取り上げるのは、ヘレウス株式会社 事業開発室 シニアマネージャー 伊東和重氏による「従来の限界を超えるアモルファス合金、その特徴」だ。アモルファス合金は金属ガラスとも呼ばれる高機能材料の一つで、温度変化に強く生体適合性があるなど様々な特徴を備える。こうしたハイエンドの材料を形状を自由に造形できる3Dプリンター用材料としてどのように活用していくべきか。実際に世界でどのように取り組まれているかを学びながら考えてみよう。

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アモルファス合金(金属ガラス)に取り組むヘレウス株式会社とは

最初にヘレウスについて簡単にご紹介をさせていただければと思います。ドイツにはボッシュ社しかり、ファミリー企業が非常に多くあります。このヘレウスもヘレウス一族のファミリー企業で、ドイツにおいては大手のファミリー企業でトップテンに入る会社です。創業が1660年、最初、薬局屋から始まり約350年の歴史があります。昨年の売り上げは、日本円でいうと3兆8315億円。売り上げはやはりアジアが39%と中国がメインですけれども40%近いです。

ヘレウスの会社概要

従業員は全世界に1万6200人程度います。ドイツの会社なのでドイツに33%と一番多いですが、その次がアジアの27%と、非常にアジアを重視しています。世界40カ国に100カ所以上の拠点で活動しています。東京の護国寺に日本の本社があります。アモルファス合金の研究や製造の拠点という意味では、ドイツのカールシュタインでアモルファス合金の研究開発から製造、実際アモルファス合金を使った部品の製造まで全てここで一貫してここで行っております。ISOも取得していますし、2020年にはドイツのイノベーションアワードを受賞しております。

アモルファス合金(金属ガラス)とは

次にアモルファス合金とは何かということについて話をさせていただきたいと思います。アモルファス合金は1956年にカルフォルニア工科大学のPol.Duez教授により発見されました。その後1970年代から、本格的に日本の東北大学などでも研究されてきました。日本がこの研究にかなり絡んでおり、日本発祥の材料とも言えますが、最近は日本ではあまり耳にしなくなってしまいました。

アモルファス合金とは
アモルファス合金とは

まずアモルファス合金は何かについて説明します。例えば、氷に熱をかけたら水になるように、金属や合金も熱をかければ液体になります。それを急冷すると、例えば組成によって異なりますが1秒間に100度とか100万度以上急冷することで原子がバラバラな構造になっているアモルファス構造になります。実際にこのような構造になった合金をアモルファス合金と言っております。

実際に、結晶構造とアモルファス構造の違いはなにか。それは冷却速度です。先ほど言いましたとおり、冷却速度が速いと1秒間に100度とか100万度以上で急冷するとアモルファス構造になります。逆に冷却速度が遅いと結晶構造になります。結晶構造というのは皆さんご存知のように、原子がきちんと配置された構造です。ただミクロで見ますと格子欠陥などがみられます。また結晶の粒界などの影響で変形しやすいという特徴があります。 アモルファス構造に関しては原子がバラバラな構造をしており、結晶構造のような格子欠陥はなく均一になっています。そのため均一の変形であったりとか、弾性があったり高硬度であるという特徴があります。こういう構造の違いがアモルファス構造独特の特徴を生みます。

アモルファス合金の特徴

次に、アモルファス合金の特徴を話したいと思います。性能、工程、設計、信頼性についてアモルファス合金の特徴について話したいと思います。

アモルファス合金の性能

アモルファス構造の性能に関して言いますと、例えば金属や合金など、どこかをよくしようとするとどこかが悪くなるというように、トレードオフの関係があります。しかし、アモルファス合金に関してはこれまで両立しなかった特性の組み合わせが可能です。

例えば生体適合性に関しては、ISO上のガイドラインによると人体にも使えます。また結晶性材料と比べても10倍ほど高い弾性があります。鋼よりも2倍ほど高い降伏強度があるということです。耐磨耗性もあり、また耐食性にも優れ、ヤング率も低いという特徴があります。

アモルファス合金の特徴

アモルファス金属の降伏強度・ヤング率・弾性

例えば降伏強度やヤング率に関してですが、スチールやチタン合金などと比較をしますと、我々のアモルファス合金は、降伏強度が非常に高いです。ヤング率も非常に低く、弾性があるという特性があります。

弾性について、アモルファス合金とばね鋼とチタンで比較をします。ここでそれぞれの降伏強度まで曲げてみたいと思います。アモルファス合金の方がかなり大きく曲げることができます。

次に力を解放するとどうなるでしょうか。それぞれ元の位置に戻ります。つまりアモルファス合金の方は、かなり力を加えても元に戻るということがいえます。では今度は逆にアモルファス合金の降伏強度までスチールとチタンも曲げてみたらどうなるかという実験です。アモルファス合金の降伏強度まで力を加えています。これを見ていただくと、アモルファス合金は元に戻っていますが、チタンとスチールは曲がっています。アモルファス合金はこのように、他の材料に比べて降伏強度がかなり大きいというところが特徴的です。

次に、下にステンレスの板とアモルファス合金の板を置いて、上からボールを落としたときにどうなるかという実験をします。このようにアモルファス合金の方がずっとボールが跳ねています。トランポリンで人が跳ねているように、かなり弾力があります。それだけアモルファス合金にはかなりの弾性があるというところが見てとれます。 今、このようにアモルファス合金はかなり弾性や降伏強度が高いという話をさせていただきました。では、次に硬度について見ていただきたいと思います、実はアモルファス合金は、チタンやマルテンサイトと比較をしても、ほぼ同等かそれ以上の硬度があります。弾性があるのに硬度もあるというのがアモルファス合金の特徴です。

アモルファス金属の生体適合性

アモルファス合金は人体つまりインプラントや人工骨に問題なく使えるのかということを確認するため、生体適合性の確認をするために細胞毒性試験という試験を行っています。これはどういう試験かというと、アモルファス合金を溶かした溶出液の上に細胞を培養させて、ある一定時間内においてどのぐらい細胞が生き残っているかを調べています。ISO上のガイドラインによると、70%以上細胞が生存していれば、その材料は生体適合性があると言えます。こちらのグラフを見ていただくと、どの条件においても、我々のアモルファス合金を使用した試験では70%以上の細胞が生存しています。

このことから、この材料はISOのガイドラインの定義によると生体適合性に分類することができます。ですから我々のアモルファス合金には、生体適合性があり、医療用にも展開できるということがいえます。ですから、例えば医療用のインプラントや人工骨といったプロジェクトがヨーロッパの方で進行しています。

アモルファス合金の製造工程

次に工程について話をさせていただきたいと思います。工程に関してですが、例えば従来のステンレスやチタンなどですと、お客様の方で半完成品を成形機械加工したのちに後工程を行うという工程が必要でした。我々のアモルファス合金を使用していただくと、我々の方でニアネットシェイプ製造というかなり完成品に近い構造を作れますので、お客様の方で従来あったような後工程を省くことができます

アモルファス合金の製造工程
アモルファス合金の製造工程

そのためお客様の方ではサイクルタイムの短縮ができることでCO2排出量の削減ができ、我々の方では寸法管理をすることで高い寸法安定性を維持できるなどの成果が出せるという特徴があります。アモルファス合金部品の製造を手掛けている会社は他にもあるものの、多くの場合射出成形の装置しか持っておりません。グローバルで見たら、我々は唯一、3Dプリンティングと射出成形の両方できるということで、お客様の用途に応じてどちらにするかというご相談をさせていただきながら決めております。

3Dプリンティングと射出成型には、それぞれメリットがあります。例えば、3Dプリンティングには等方性があり、寸法制限は3Dプリンティングの装置の設計によります、今現在はサッカーボールぐらいの大きさなら作成可能です。一方、射出成型は金型を使うので、厳しい公差管理なども可能です。実際の3Dプリンティングを用いた製造においては、我々の方で合金化したものをアトマイズでパウダーを、その後3Dプリンティング装置で部品を作り、品質保証をしてお客様の方に出荷するというような流れになっています。

我々トルンプ社製の3Dプリンティング装置を使用しており、自社で設計したアモルファス合金の粉を使用していますまた厳しい品質管理をしております。 今最初にサポート構造を作っています、その後パウダーベッド方式で作成するため、今レーザーをアモルファス合金粉に当てて実際に部品を製造しています。我々の方でモニタリングなどもしており、例えば印刷不良などがあったときは検出することも可能です。ですから、実際にこの工程で不良品を弾くことができます。また自社開発している射出成型の装置もございますので、3Dプリンティングと射出成型の両方ができるというところが、我々の強みというところです。

アモルファス合金と設計

次に設計について話したいと思います。アモルファス合金を使うと、設計上どんなメリットがあるのでしょうか。例えば従来の結晶性材料だと膜厚、肉厚が厚かったり、ハニカム構造みたいなものが強度や硬度の理由でできなかったりします。この場合、アモルファス合金だと肉厚が薄くでき、硬度や強度があるので、ハニカム構造も可能で、設計の自由度が増します。これがアモルファス合金を使うメリットです。 また強度や硬度が高いので小型化なども可能です。ハニカム構造でこのように細いところも作れます。アモルファス合金を使うことでこういう設計上のメリットが出てきます。

アモルファス合金の信頼性

次に、部品の信頼性についてです。実際にアモルファス合金を使ったときの信頼性はどうなんでしょうか。例えば部品の信頼性に関してですが、引張強度を見ていただくと、チタンやマルテンサイトに比べても遥かに高いです。疲労強度に関しても他の金属や合金に比べても同等以上となっています。このように、部品の信頼性に関しては非常に高いと言えます。

また耐腐食性に関しては、左側のこのグラフでは、いろんな合金や金属の分極測定を測っています。分極測定とは、評価する試料を溶液中に入れて電流がどれぐらい流れたかというのを調べております。 電流が流れるということは腐食が始まっていると言えますので、逆に電流が流れない、電流密度が低い方が腐食しないということは、耐食性が良いと言えます。アモルファス合金は他の金属や合金に比べて電流密度が低いので、耐食性が良いと言えます。こうした理由から、実際にアモルファス合金を使用しているお客様もおられます。

アモルファス合金のアプリケーション

次に産業と用途についてです。実際に今、どういったところで使われているかについてです。今は、ヨーロッパやアメリカ、中国の方でいろいろと使用されております。例えば医療用途。医療への応用は認証を取るために時間がかかりますのでプロジェクトとして進行している段階です。現在ヨーロッパの方で今プロジェクトとして進行しているのは、医療用のインプラントや人工骨です。生体適合性があるところや、先ほど述べましたが、設計の自由度を増すため、小型化および高耐性が要求される医療用のインプラントなどに使っていただいています。

アモルファス合金の活用用途
アモルファス合金の活用用途

またライフスタイル用途としてイヤホンの筐体にも応用できます。ドイツのゼンハイザー社製のイヤホンIE600で、耐久性があるということで我々のアモルファス合金を使っていただいています。また時計のフレームには耐磨耗性や耐腐食性があるということで、オスカーパスカル社製の時計に採用されております。ロボティクスやメカニックスの分野では、耐腐食性や耐久性があるという特徴を生かし、トルンプ社製レーザー加工機のジョイントで採用されております。 また高感度化や小型化ができるという特徴から、金型などのツールや、圧力センサーのダイヤフラムに、耐食性や軽量化、低温でも使えるという特徴から、航空宇宙の分野などで使用されております。自動車やモビリティのギアなどで採用されております。

アモルファス金属とロボティクス・メカニクス

実際にロボティクス、メカニクスの分野において、歯車などの機械要素でも使用されています。アモルファス合金はアルミやステンレス、チタンなど他の金属より弾性や耐磨耗性、耐クリープ性に優れているため、ロボテックスの様々な分野でのデバイスの応用が期待されています。実際、ヨーロッパの方ではすでに使用していただいております。

アモルファス金属と機械分野

機械分野の例としては、先ほど言いましたとおり、トルンプ社製のレーザー加工機のソリッドステートジョイントに採用されております。トルンプ社は最初ステンレスで制作されようとしましたが、薄くしたいという要望がありました。強度や弾性の問題でステンレスでは不可能だということから、我々の方でアモルファス合金を提案させていただきました。このように、アモルファス合金を使っていただいたことで、摩耗しにくくなったり、メンテナンスコストが削減できたとか、装置の小型化とかもできたという実例があります。多くのお客様から、このようにご好評をいただいております。

アモルファス金属と医療分野

また先ほど言いましたとおり、医療用インプラントに関してはISOのガイドラインに定められた生体適合性を満たしている必要があります。その点、我々のアモルファス合金は耐腐食性もありますしヤング率も低い。例えば肋骨にアモルファス合金を使おうとすると、使用時に肺が膨れたりしますので、どうしてもヤング率、弾性が重要なファクターになってきます。先ほど言いましたとおり、我々のアモルファス合金は降伏強度がかなり大きく、弾性もあります。ですからこういうところでアモルファス合金が注目されていて、実際に医療用インプラントとしてヨーロッパの方でプロジェクトが進行しております。

アモルファス金属とライフスタイル分野

またライフスタイルの分野では、アモルファス合金は腕時計にも使用されています。強度があるのが採用の決め手でした。今は、腕時計のフレームはステンレススチールが多いですが、アモルファス合金はその10倍の強度があり、また弾性もあるというところで採用していただいています。実際にヨーロッパのオスカーパスカル社で我々のアモルファス合金を使用していただいています。オスカーパスカル社の方から、強度や硬度があって、しかも耐久性、耐食性、耐磨耗性に優れた素材の要望および生体適合性がある材料はないかという要望を受け、我々のアモルファス合金をご提案させていただきました。その結果、採用していただき、ご好評をいただいております。

アモルファス合金とライフスタイル分野
アモルファス合金の活用事例:時計

またライフスタイルの分野でいうと、先ほども登場したドイツのイヤホン・ヘッドホンメーカーであるゼンハイザー社にもご採用いただいております。2022年の3月に日本でも発売された、ゼンハイザー社製のIE600というイヤホンに、我々のアモルファス合金を採用していただいています。こちらも、ゼンハイザー社から強度や高硬度、耐腐食性がある材料がないかというところでお問い合わせを受け、我々の方でアモルファス合金を提案して、ご採用いただいた経緯があります。耐久性に優れ、長く使えるということから、このイヤホンがかなり好評だと聞いております。

アモルファス合金活用事例:イヤフォン

アモルファス金属と金型

またツールインサート、金型でもアモルファス合金を使用していただいています。アモルファス合金は低熱伝導性、要は熱を溜め込みやすいというところがあるので、金型の周辺機器、ヒーターなどの量を減らせるという特性があります。そういうところで金型などのツールインサートの材料としても最適です。

アモルファス合金の活用事例:ツールインサート
アモルファス合金の活用事例:ツールインサート

アモルファス金属とセンサー

また、センサーとしては圧力センサーの用途が考えられます。例えば先ほど言いましたように、弾性があるので高感度化できますし、強度や硬度があるので小型化も可能です。さらに温度の大きな影響を受けないというところも特徴的です。耐食性にも優れておりますので、圧力センサーの素材として非常に最適だと言えるわけですね。

アモルファス合金の活用事例:圧力センサー

アモルファス合金の可能性

では、ここまでのまとめをさせていただきます。アモルファス合金は弾性があり、硬度もあります。このように、今までの金属や合金では相反していた特性を両立させることが可能です。また生体適合性があり、耐磨耗性もあり、高耐食性もあります。このようなところで他の結晶材料や合金に比べて遥かに優れた特性をもっているために、様々な産業への用途展開が可能です。

実際今ヨーロッパやアメリカ、中国の方でも積極的に使われています。今後は、例えば自動車の軽量化や、そういうところでも社会にも貢献することができる将来性を秘めています。

最後に、我々のサービスが目指すものについてです。我々はどのビジネスグループにおいても、常にお客様と寄り添って開発をしていくことを目指しております。これは腕時計のフレームの例になりますが、例えば最初にお客様の方から「耐食性が強くて高強度の素材が欲しい」と言われたとします。すると、我々の方で評価設計をしてシミュレーションをして、その後最適化をします。実際何回かサンプルを出して、改善を加えていく。ここは繰り返しになりますが。そのようにお客様の声を聞き、設計・開発をして、販売していくという、これが我々のサービスの流れになっています。 実際にヨーロッパや中国、アメリカなどでは既にアモルファス合金をかなり使用していただいていますので、日本でも今後ぜひ使用していただきたいです。実はアモルファス合金は日本発祥の材料であると言ってもいいものです。実際日本でも、ご興味を持ってくださるお客様が結構出てきていますので、もしご興味がありましたらぜひ我々の方にお問い合わせをいただければと思います。ちょうど時間になりましたのでこれで終わります。本日はどうもご清聴ありがとうございました。また何かありましたらよろしくお願いいたします。以上です。

日本発祥の超高性能材料、アモルファス金属

アモルファス金属は生体適合性に優れ弾性があり、温度変化に強いという非常に高機能な材料だ。安価な材料とはいえないが、非常にハイエンドなモノづくりを行う際に使ってみたい材料と言えるだろう。ニアネットシェイプでの造形までヘレウスが担当できるということで、自社に製造装置がなくても高機能部品を調達できる座組も用意されている。限界感を打破し、イノベーションを巻き起こすモノづくりの起爆剤として活用できる可能性があるかもしれない。

ShareLab編集部

メーカーの研究開発職として新素材開発に従事後、特許庁で特許出願の審査業務を10年以上経験。弁理士として独立後は、企業の知財戦略をサポートする傍ら、3Dプリンターをはじめとした先端技術に関する情報発信を行っている。趣味は深夜のショッピングチャンネル鑑賞。

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