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Carbon社の最新事例「JINSはNeuron4Dをどのように産み出したのか?」―JSR主催ウェビナーレポート

今回、ShareLab編集部はJSR株式会社(以下、JSR)主催のウェビナー「JINSはNeuron4Dをどのように産み出したのか?」(2020年9月15日開催)に参加した。

ShareLab編集部でも2019年のCEATECで取材させていただき、Carbon(以下、Carbon社)の国内事例をご紹介しているが、今回のウェビナーの中心テーマは国内ではまだ報告例が少ない3Dプリンターによる最終製品製造の実践事例。実際に開発にたずさわった株式会社JINS(以下、JINS) J Eyewear Lab Div. ディレクター 中屋光晴氏とデザイナー 浅田敬一氏も登壇しCarbon社の3Dプリンターを使ってどのようにNeuron4Dが生み出されたかについて、その背景や苦労秘話などを対談形式で伺うことができた。

本レポートではこのウェビナー内容を基に、Carbon社の3Dプリンターの最新活用事例をお伝えしたい。

J Eyewear LabとNeuron4D

国内では高い知名度を誇るためご存知の方も多いと思うが、改めてJINSについてご紹介させていただく。

JINSは、ローコストな眼鏡をファッション感覚で提供する眼鏡チェーンを展開しており国内570店舗、売上高618億(2019年実績)を誇る。時代感覚を捉えた商品企画と好立地での対面販売を得意とし、自社独自ブランドを展開しており、製造に関しては自社工場を持たないファブレス経営を基本としている。そんなJINSにあって最も尖った、時代の最先端を行く事を目指しているハイエンド層向け新ブランドが「J Eyewear Lab」だ。

Neuron4D製品画像

世界初、Carbon社の3Dプリンタ技術でしか実現できない「ラティス構造」のクッションを装着したサングラス。

格⼦状に組み上げられたラティス構造は、締め付けることなく頭の形合わせて変形する⾼解像度のフィット感と、通気性、強度など、メガネのフレームに求められるあらゆる要素の共存を⾼いレベルで可能にしている。

Neuron4Dはインドアからアクティブまで、シーンを問わずシームレスにフィットする。
(画像は、ウェビナー資料より一部引用)

その「J Eyewear Lab」から、世界で初めて米国Carbon社の最新3Dプリンター技術を活用し、革新的構造と掛け心地の良さを実現したのが最新鋭サングラス「Neuron4D(ニューロンフォーディー)」だ。価格は税込み27,500円(JINS Webサイトより)。


今回、このNeuron4DでCarbonの3Dプリンターが造形している箇所は、眼鏡装着の際、肌に触れるつると鼻パッドの部分。柔らかく劣化しにくいポリウレタンを部位によって硬さが変わるように、ラティス構造の柱の太さを0.1㎜単位で変える精密な設計を行うことで、最適なかけ心地とホールド感を実現している。またラティス構造は強度を保った軽量化の他、通気性の向上にも貢献しており、炎天下でのサングラス利用時にも蒸れにくく快適なかけ心地に貢献しているという。

通常の構造(画像右)と比較し格段に高い放熱性を実証。格⼦状の構造によりフレームと顔が接する⾯を最⼩化することで、通気性を確保。ムレにくく、アクティブなシーンでも快適なフィット感を提供します。

ラティス構造による⾼い柔軟性とクッション性、さらに0.1mm単位での硬さのグラデーションを施したテンプル構造により、動いてもずれにくいホールド感を実現しています。

Neuron4Dの屋外シーン

快適性はレンズにも。紫外線に反応して⾊が濃くなる調光レンズを採⽤することで、屋内外シーンを問わず⼀⽇中かけていられるアイウエアに。

(動画はJ Eyewear Lab Webサイト、画像はウェビナー資料より引用)

プロジェクトの体制と開発の裏側

JINS J Eyewear Lab Div.からは中屋氏、浅田氏を含む3名、Carbonのアメリカ人アプリケーションエンジニア、JSRの銅木氏の5名が開発プロジェクトとして参画した。

研究開発で新しいものを生み出す姿勢を持つJINSは、元々新しい付加価値を生み出すことに積極的です。今回のプロジェクトに際し、JINS社長から「最高のものを作ってくれ」という指示を頂いた上で、最高とは何か?を考えながら、エッジの立ったものを付加価値として提供していきたいと考えていました。」(JINS J Eyewear Lab, Div. ディレクター 中屋氏)

社長のオーダーにあった『最高のサングラス』を3Dプリンターを使って実現する。自社工場を持たないファブレス企業であるJINSだが、試作では3Dプリンターを活用してきた。最終製品を3Dプリンターで造形することに不安はなかったのか。

「Carbon社の3Dプリンターを知ってからAM技術の価値観が変わりました。
今までも試作レベルで3Dプリンターを活用してきましたが、今回のCarbon社の3Dプリンターを用いた造形では、柔らかい素材を用いつつ繊細で綺麗な造形物の出力ができたことに驚きました。」
(株式会社JINS J Eyewear Lab Div. ディレクター 中屋 氏)

これなら最終製品も行ける、という事でプロジェクトがスタートするが、当初はフレーム全体を一体で造形しラティス構造をとりいれる、という方向性だった。しかし実際に取り組みが進むと軌道修正を迫られたという。

「デザイナーの立場としては「やってみて初めて分かったこと」が沢山ありました。プロジェクトの初期段階では、Carbonの造形サンプルを見て“すごい”という感覚しかなかったのですが、実際に造形してみると、Carbonは光で造形してから焼くという2段階のプロセスのため、焼く際に寸法が多少縮むし、プレートから取り外して焼結させる際に形状も若干差異がでる懸念がありました。」(株式会社JINS J Eyewear Lab Div. デザイナー 浅田 氏)

初めての設備を活用した取り組みということで、約三か月の間に20回以上の試作を行ったという。その結果、フレーム全体の造形を3Dプリンターで行うことは断念し、サングラスのつると鼻パッドの部分を3Dプリンターで造形し、フレームは既存工法で用意することになった。鼻パッドもつるも、かけ心地を大きく左右する重要な部品だ。金型ではできない、柔らかい材料を自由に造形できる3Dプリンターならではの特徴を活かしたモノづくりを目指したという。

眼鏡のつる全部をやわらかい材料を使って造形すると、メガネ全体が柔らかくなりすぎて、かけ心地が悪くなります。段階的に硬さを出すという工夫とラティス構造で最適なかけ心地とホールド感、長くかけても心地よい通気性の良さを実現するまでに試行錯誤はかなり行いました。(株式会社JINS J Eyewear Lab Div. デザイナー 浅田 氏)

ラティス構造を活かした通気性の良さ、やわらかい素材を使ったフィット感と、部位によって剛性を変える事でかけ心地の良さを実現することができたという。ラティスの柱の太さは1㎜以下の細さ。1㎜以下の構造はCarbonとしても前例のない取り組みで、世界初のチャレンジだった。

ラティス構造が実現されたNeuron4Dのつる
ラティス構造の柱の幅は1㎜以下。しかも部位によって太さを変えかけ心地もデザイン(ウェビナー資料)

「Carbonとしても1㎜以下の微細な造形は前例がありませんでした。JINS J Eyewear LabさんのNeuron4Dに対する熱量は大きかったので、Carbon社のエンゲージメントをしっかりと高めていくことが重要でした。アプリケーションエンジニアだけではなく、ソフトウェアエンジニアの支援も引き出しながら、週単位で連絡を取り、プロジェクトを進めました。」(JSR株式会社 Carbon事業推進部 銅木 氏)

またJINS側では3Dプリンターで最終部品を作るための品質評価基準は当然存在しなかった。だれが何をやるかという体制構築から調整を行う必要があった。社員からの反応もさまざまな中、プロジェクトを比較的スムーズに進めることができた一因として、JINSの中屋氏は社長によるトップダウンの体制を組めたことの重要性を強調していた。

「”保守的な人”はどこの組織でもいると思いますが、調達という観点では生産性を尺度にして説明しても、3Dプリンターの良さは理解されません。また品質評価という意味では、社内に前例がないので社内での体制を整備するところから調整が必要な状態でした。トップの協力を仰ぎながら、『D2Cを実現する手段』、『今後の新しい価値を生み出すための取り組み』という点を丁寧に社内説明して協力を得ていきました。」(株式会社JINS J Eyewear Lab, Div. ディレクター 中屋 氏)

最終製品に3Dプリンターを活用する事例は今後も増えてくるだろう。特に眼鏡やサングラスといったアイウェア分野では、個々人の顔の大きさや形、耳や目の位置に合わせてカスタマイズしたボディーフィットでの活用が今後期待される。

「一般の人は街中を歩いていても3Dプリンターを見かける事はまずありません。こうした優れた新しい技術を(生活の中に)マッチングさせることが重要になってくると思います。」(株式会社JINS J Eyewear Lab Div. デザイナー 浅田 氏)

量販最大手の一角であるJINSが、オンデマンド製造できるサングラスを3Dプリンターを使って実現した今回の取り組みは、店舗で個々人に合った最適な寸法を計測し、Web上で好きなデザインを選び注文するという未来のマス・カスタマイズ市場を予感させる先駆的な挑戦として大きな意味を持っているだろう。

「開発はCarbonのアメリカにいるアプリケーション・エンジニアを交えて行いましたが、現在は日本国内でCarbonの3Dプリンターに対応している企業に生産をお願いしています。」(株式会社JINS J Eyewear Lab, Div. ディレクター 中屋氏)

ウェビナーでは、ATRUSがこのビジネスを受注し製造していることが明らかにされたが、JSRによれば、現在日本国内でCarbon Production Network(CPN)と呼ばれる公式サービスビューロとしてATRUS、KURIMOTO、DAIMEI、3Dプリンティングコーポレーションの4社が存在しているという点も紹介しておきたい。

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