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AM製造工程の適格性を定めるISO/ASTM52920とは?ISO 9001と何がちがう?導入で何ができる? ― テュフズードジャパン

AM製造工程の適格性を定めるISO/ASTM52920とは?ISO/ASTM9001と何がちがう?導入で何ができる? ― テュフズードジャパン

DIN SPEC17071など各国個別に進んできたAM分野の規格整備。この度、国際規格ISOでもAM製造工程の適格性を定める規格ISO/ASTM 52920:2023が、2023年7月4日に正式に制定された。ISO 9001やISO 14001となにが違うのか、取り組むことで、どんなメリットがあるのか気になっている方もいるかもしれない。

そこで、 ISO/ASTM 52920の元になったDIN SPEC 17071の制定やISO/ASTM 52920の制定でも中心的な役割を果たしたテュフズード社に話を伺った。解説してくれたのは、同社の永野 知与氏だ。(話し手: テュフズード ・ジャパン 永野 知与 氏、聞き手:シェアラボ編集部 伊藤 正敏

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まずはAM規格で混乱しやすい「言葉のレベル感の違い」を整理

シェアラボ編集部: 「AMには規格がないのでとっつきにくい」という声をきくこともある中で、最近はJISでもAMに関して規格整備の成果が発表されたり、今回の国際規格の発表があったりと状況が変わってきていると思います。今日はそのあたりに関して解説をお願いしたいと思います。

永野氏: AMをめぐる規格は実は複数存在します。ですが規格という言葉のレベル感が違うせいで混乱もあると感じています。例えば製造現場の方がいう「AM製造品には規格がない」という場合、製品や検査に関する詳細が決まっていないという内容を意味していると思います。 ISO/ASTM 52920は「国際規格」で「マネジメントシステム規格」ということでより上位の概念になっています。

順を追って説明すると、規格は利用されているエリアをもとに、以下のように分類できます。

  • 地区規格 : 業界規格や社内規格など、あるひとつの業界内、あるひとつの会社内で使われる規格
  • 国家規格 : 日本のJIS規格やドイツのDIN規格などのように、主にある一つの国内で使われる規格
  • 地域規格 : EN規格などのように、地域内の複数の国で共通して使われる規格
  • 国際規格 : ISOやASTM、IEC規格などのように世界中の国で共通して使われる規格。

国際規格の制定団体であるISOとASTM Internationalは、それぞれのAMの規格化を担当する委員会ISO/TC 261とASTM F42のジョイントグループでAMの規格を制定し、ISO/ASTMを冠した規格番号で発行しています。

次が「マネジメントシステム規格」に関する説明ですが、規格はその役割から以下の4つに分類できます。

  • 基本規格 : 用語の意味や概念の関係性を定義する規格
  • 方法規格 : 検査方法など作業方法を定義する規格
  • 製品規格 : 製品の形状や性能といった仕様を定義する規格
  • マネジメントシステム規格 : 仕事の仕組みが「ちゃんとしている」というための条件を定義する規格

つまり今回の ISO/ASTM 52920はAM製造を行う製造現場の体制がきちんとしているかを定義する品質マネジメントシステム規格の一つと言えます。

シェアラボ編集部:同じ規格でも運用されているエリアや定めている内容が異なるんですね。決めている範囲をちゃんとふまえないと確かに話がかみ合わなくなりそうです。そういう意味では、マネジメントシステム規格としておなじレイヤーにある ISO 9001等とは、どういった棲み分けがあるんでしょうか?

AM製造現場のマネジメントシステム規格としての ISO/ASTM 52920

永野氏:ISO/ASTM 52920は、そのAM製造プロセス・製造現場が品質保証されたAM部品を一貫して製造できるかどうかの基準です。「品質」という名前が付く規格で有名なものに、品質マネジメントシステム(QMS)規格があります。ISO 9001、ISO 13485(医療機器)、AS 9100(航空宇宙、防衛産業)、IATF 16949(自動車産業)などです。

これらは、組織が品質マネジメントシステムを持っているか、また、その品質マネジメントシステムが有効に機能しているかの基準です。つまり、その組織が品質や顧客満足に主眼を置いた経営をしているか、品質・顧客満足を実現するための仕事の仕組みがあり、きちんとその仕組みが機能しているかを見るための規格なんです。

ISO/ASTM 52920は右記のURLから購入できる。「https://www.iso.org/standard/76911.html」

では、QMSが存在し、有効に機能している=ISO 9001の認証を取得している八百屋さんがあったとします。その八百屋さんがAM製造事業に参入した場合、そこで製造されたAM部品は顧客の要求品質を一貫して再現できる品質保証されていると判断できるでしょうか?また、その判断をするのにQMSの規格は活用できるでしょうか?

答えは、組織として妥当性は認証されているが、AM製造に関しては、AM製造技術としての観点で品質保証できるかどうかを確認しないとわからない、です。「AM製造技術としての観点で品質保証できるかどうかを確認」するのに利用できるのがISO/ASTM 52920です。

シェアラボ編集部:ISO 9001やISO 14001を持っていても、AMでモノづくりする工場は ISO/ASTM 52920から学べることがたくさんある、ということですね。

永野氏:そうです。 ISO/ASTM 52920の元になったDIN SPEC 17071というドイツの規格を日本国内で認証取得している企業はありません。ですがAM製造に関する品質保証規格の国際規格化は2021年からすでにされていて、日本国内でもすでに認証取得の動きがあります。正式制定後、かなり早い段階で正式に認証取得するスケジュール感でうごいていますので、まもなく発表できると思います。

シェアラボ編集部:もうそんな段階まで進んでいる日本企業もいるんですね。具体的にいうと ISO/ASTM 52920 ではどんなトピックスが扱われているのでしょうか?

永野氏: ISO/ASTM 52920は産業用AM製造のプロセスと製造現場に対する要求事項を定義している規格です。正式名称は「Additive manufacturing — Qualification principles — Requirements for industrial additive manufacturing processes and production sites」でして、AM分野の適格性評価の原則について書かれる規格で、産業用のAM製造のプロセスと製造現場に対する要求事項が規定されています。

AM製造はご存じのように外観からは品質が確認しにくい内部の中空構造や複雑なラティス構造をもった部品を製造できる点が大きな特徴です。造形後の非破壊検査では検査が難しい部品も製造できるため、従来の試験方法では試験が難しい場合もあります。そこで鋳造などで取り入れられているプロセス保証の考え方で品質を担保していきます。

プロセス保証は、製造工程を明確に定義してその工程通りに製造すれば品質を保証できると製造側が発注側と合意しておく保証の形です。ISO/ASTM 52920は、製造工程が適切に定義、管理、実施、報告されていることを証明するための規格です。つまり、AM製造工場としての適格性を保証するものと言えます。

ISO/ASTM 52920の導入メリットは?

シェアラボ編集部:規格導入は結構大変なんじゃないかと想像するわけですが、現場からみた際に、導入するメリットはなんでしょうか?

永野氏:導入する側からすると4つほどメリットがあると思います。

ISO/ASTM 52920 に基づいた製造体制を整備する際に、業務フローやドキュメント類を整理するのですが、そのアプトプットの工程設計や品質文書を制作する際に、ひな形として利用することができると思います。

すでに9001などのQMSを導入している場合、AM製造工程に関する品質マニュアルを制作することになると思いますが、ひな形として利用することができるでしょう。

AM製造に対する顧客の要望で過剰に要求されることもあるでしょうし、顧客からなんの指定もないケースもあるでしょうが、品質対応の標準を定めることで個別対応を減らすことができると思います。

新規の営業を行う際にも対応品質をアピールできますし、国際的な標準規格ということで、顧客との目線合わせにも活用できます。

ISO/ASTM 52920は発注者と受注する工場の合意形成のツール

シェアラボ編集部: 「製造方法をばっちり決める」んですね。でもちゃんと決められた通り作っているかどうかを発注者側はどう確認するんでしょうか?

永野氏: 発注する側は発注する前や発注後に監査をしないと工程がきめられた通りに行われているか確認できません。すごく大変な作業です。複雑で何日もかかる工程の場合、何日もかけて現場に入ってやり方を確認する必要があります。

シェアラボ編集部:でも発注者が側が見てもわからない場合はないんでしょうか?製造する人の方がその作業には詳しいから発注をもらっているわけですよね。発注者側に確認や監査の能力がない場合はどうしたらいいんでしょう?

永野氏:まさにその為に規格が役に立つんです。こういう工程です、という定義やこの工程ではこうした観点で評価しますといった考え方や、評価した結果をこうしたドキュメントにまとめます、といった正しい考え方ややり方をまとめたのがマネージメント規格なんです。

ISO/ASTM 52920でもAMによるモノづくりを行う際には、こうした工程がある、こうした考え方で記録を取るべき、評価を行うべきという指針が示されています。もちろん作る部品によって個別の数字はことなるのですが、この分野であれば参考になる別の詳細な規格があるよ、といったリファレンスを用意してくれていますから、共通認識を作りやすいし、その結果を確認しやすいんです。

シェアラボ編集部:技術に惚れこんでこの工場さんに発注したい!となった発注者さんも、品質管理部門などほかの部門に説明しやすくなるんですね。

永野氏:そうした観点もあると思います。例えばISO/ASTM 52920に準拠している工場であれば、見るべきポイントが明確になっているわけです。その上で、認証取得まで行っている工場であれば、その管理方法で運営されていることが第三者機関の監査を受けて、問題ないというお墨付きを得ている状態になります。発注者として監査を行う人の工数を大きく削減できると思います。

シェアラボ編集部: すごく詳しい第三者の監査を経て認証されている工場なら安心できると社内説明も楽ちんそうです。まだAMで大量に製造するというケースは多くないでしょうけれど、そうした未来にむけて役に立ちそうな規格なんですね。

永野氏: そうですね。ISO/ASTM 52920では、AM製造工場におけるマネジメントシステムの要件が各プロセスごとに規定されています。具体的な要件としては、製造工程の適切な定義や設計情報の管理、原材料の選定と取扱い、検査や評価の方法、製品の識別とトレーサビリティ、記録の文書化などが含まれます。さらに、人材の教育や訓練、リスク評価、内部監査、改善活動なども重要な要件です。今後AM製造が広がる中では避けては通れない内容になっていると思います。

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ISO/ASTM 52920でAMの「プロセス保証」の考え方が明確に!

AMの品質保証の基本はプロセス保証、つまり事前に作りこんだ手順を再現すれば品質が保たれるという顧客と作り手の相互信頼に基づく合意だ。工程ごとに作業標準に沿って作りこまれているかどうかを発注者側が詳しく監査するにも限界がある。この壁を越えやすくする取り組みが第三者による認証だ。

その第三者の認証の基準になるのが規格だ。 今回AM製造工場のモノづくりプロセスが妥当かどうかを定めた国際標準規格が正式発布するということで、いままで過剰に求めたり、過小に評価していたプロセスの重要性に関して、妥当な水準を同意しやすくなることでスムーズな受発注を実現できるだろう。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

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