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M&Aで積極拡大!炭素繊維材料で世界を席巻したマークフォージドが見据える次の市場

マークフォージドの会見写真。左:トーマス・パン氏、右:ロス・アダムス氏

マークフォージドは2013年創業でアメリカのボストンに本社を置く3Dプリンターメーカーだ。特徴としては、ナイロンベースの樹脂にカーボンファイバーの長繊維を取り入れた独自材料を開発して注目を集めた。3Dプリンターで造形できる部品は強度的に弱いと言われていた中で、アルミの代替材料としても使える強度を実現し、治具をカーボン材料で製作するニーズを本格的に開拓した立役者だと言える。

2022年10月に都内で開催したマークフォージドのプレス向け説明会ではM&Aによって、得意の樹脂コンポジット材料をさらに活用しやすくするためのシミュレーション機能の増強と、金属部品の量産を可能にするバインダージェット方式の老舗デジタルメタルを買収し、量産機をラインナップに加えたという報告があった。(写真左:マークフォージド・ジャパン株式会社 トーマス・パン氏、写真右:ロス・アダムス氏)

世界の3Dプリンティング市場は成長基調

マークフォージドのトーマス・パン氏は自社開催のイベントの中で、コロナの状況にも関わらず世界の3Dプリンター市場は成長し、受託加工だとかメーカー、それから素材も全部含んだ経済規模は、2022年度で約18億ドル(約3兆円)に達するという見通しを語った。まだ世界の製造業の中でいうと0.1%ぐらいの水準でだとしながらも、今後の年平均成長を19%という見通しを示した。毎年売り上げが1.2倍成長するという強気な姿勢だ。

「ご存知のようにバイデン政権では、サプライチェーンの課題に対応するために、AMフォワード」という政策を5月に発表しております。これに伴って、我々も前々から掲げておりました分散型のものづくりで世界のサプライチェーンの課題を解決していこうと思っています」(トーマス氏)

成長する市場に対してマークフォージドが取り組んだのは、M&Aによる提供サービス・ラインアップの強化だ。今後の需要拡大において求められるシミュレーション機能と量産できる装置ラインアップを持つ企業を相次いで買収した。

ソフトウェア面での強化:カーボンファイバー材料を使った造形シミュレーション

もともとマークフォージドは、設計者が特殊なトレーニングを受けなくても直観的に利用しやすい独自ソフトウェアEigerを強みとしていたが、機能拡張にも積極的だった。M&Aでシミュレーションソフトウェアを強化した。

「基本はカーボンファイバーの3Dプリンターの強度をシミュレーションをして、どのようにカーボンファイバーを敷き詰めるとどういう強度になるかというのが明確に計算できるシミュレーションソフト」(マークフォージド社 トーマス・パン氏)ということで、マークフォージド社の材料、装置での精度の高いシミュレーションが実現できることで、より金属部品をカーボンファイバー材料に代替させるニーズを広げていくことが期待できるだろう。

本格的なCAEに取り組んでこなかった企業も、自社ですでに取り組んできたが、材料や装置のパラメータを持っていなかったがために活用できなかった企業もこれで、造形後に試行錯誤しながら性能評価することなく、設計時点で検証が可能になる。より重要な部品に対して使っていこうという動きが出てくるはずだ。

ハードウェア面での強化:バインダージェット方式老舗のデジタルメタル買収

また樹脂の3Dプリンターに続いて、マークフォージドが力を入れてきたのが、金属部品が造形できる金属3Dプリンターだ。金属粉末を混錬したフィラメントを使って、部品を造形した後に、脱脂、焼結プロセスを経ることで金属部品を生産できるメタルXをリリースしていた。

この方式で大きく課題になるのは、脱脂・焼結時に部品の収縮が発生することで、炉をもって熱処理などを行ってきた企業には知見があるが、そうでない企業にとって、収縮の制御や緻密帯に仕上げるノウハウが必要になる点が大きな課題になる。マークフォージドは自社のソフトウェアで装置を制御することで、ノウハウがなくても収縮を加味したモデル調整を行い、脱脂や焼結プロセスもソフトウェアが一体的に制御し、狙った金属部品を造形できるシステムとして販売を行ってきた。その公差は数ミリから0.04mmを目標にしているということで、アプリケーションごとに精度を煮詰める必要はあるが、実用的な水準と感じる企業も多い範囲に納めてきたと言えるだろう。

試作品や少数部品の面で成果があげられると次に出てくるのが、量産対応への声だ。そうした課題感に対してマークフォージドが取り組んだのが、バインダージェット方式の老舗メーカー、デジタルメタルの買収だった。金属粉末大手のヘガネス傘下だったデジタルメタルは、MIM(金属射出成型)の技術を応用した金属3Dプリンターで年間数十万個の生産能力を持つ。マークフォージドはヘガネスからデジタルメタルを買収することで、生産能力の面で弱いとされてきた3Dプリンターの中でも大量生産に取り組むことができるラインナップを加え競争力を強化した。

「マークフォージドとデジタルメタル、買収統合という形になりまして、新しくバインダージェット、メタルバインダージェットという仕組みが私どもの傘下で統合できたわけですね。我々のこの分散型ものづくりを推進するために、デジタル工場を構築していくという話の中では、この下の金属3DプリンターのところでメタルXというフィラメント形式の金属3Dプリンターに対して、バインダージェットという非常に強力な装置が付いてきたんです。」(トーマス・パン氏)

気になる導入価格だが、カーボン材料を利用できる現行の樹脂3DプリンターでMark Twoで大体300万円台、上位機種であるX7が約1200万円前後ということだ。最上位機種のFX20は、大体5000万円台となっている。また金属部品を造形できるメタルXは3千万円前後、デジタルメタルの装置は脱脂・焼結装置を含め1億前後とみられる。為替の問題もあるので随時確認したほうがいいだろう。

M&A戦略を効果的に使っている世界の3Dプリンティング企業たち

分散型モノづくりを樹脂部品だけではなく金属部品でも実現する。この目的に向かって、マークフォージドはM&Aという手段で、カーボンファイバーを交えた樹脂材料による一層の市場拡大のために、シミュレーション機能を自社ソフトEigerに取り込み、少量製造を越えて量産に対応できる金属3Dプリンターを自社のラインナップに取り込んだ。

半導体不足、輸送代金の急激な上昇などがソフトウェア・ハードウェアメーカーに大きな逆風として吹く中で、米国のハイテク株の株価下落も続いている。しかしそれ以前に上場し内部留保を持った3Dプリンター企業は積極的なM&Aで人材や知財を吸収し、事業スピードを加速させてきた。まさにピンチはチャンスを地で行く取り組みだが、同様の戦略は、競合となる3Dプリンター関連企業も取り組んでいるところだ。

以前の記事でも、コロナ禍の中にあって、M&Aで自社の事業拡大を目指す3Dプリンティング関連企業の取り組みに触れたが、その中でもデスクトップメタルはマークフォージドと事業上ぶつかる領域が大きい。デスクトップメタル社も、試作や少数生産を行うStudioシステムという製品を持つほか、量産ではバインダージェット方式を採用しているが、デスクトップメタル社はバインダージェット方式の老舗ExoneをM&Aし人材・知財を吸収していた。そしてすでに世界上でバインダージェット方式の3Dプリンターと焼結炉がセットになったShopシステムの販売を開始しており、StudioシステムよりもShopシステムを買うというユーザーが増えている状況だ。

今回のデジタルメタルの買収はこうした動きへの対抗措置として理解するべきだろう。デジタルメタルは自動車業界での納入事例も持つ。マークフォージドはデジタルメタルを買収したが、これから1年をかけて人材や事業の統合を行っていくという。今後の取り組みの中で、材料やソフトウェアの面で互換性がある取り組みがなされるかどうか、その結果、同社の取り組みがどう進化していくか、非常に興味深いところだ。

ShareLab編集部

メーカーの研究開発職として新素材開発に従事後、特許庁で特許出願の審査業務を10年以上経験。弁理士として独立後は、企業の知財戦略をサポートする傍ら、3Dプリンターをはじめとした先端技術に関する情報発信を行っている。趣味は深夜のショッピングチャンネル鑑賞。

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