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試作・開発の可能性を拡げる森林由来の新素材「リグニン」とは

シェアラボ編集部は農業分野の最先端を紹介する展示会、アグロイノベーション2019に訪れた際、 森林総合研究所という森林などに関する研究開発に取り組む機関を取材させて頂いた。一見”森林とモノづくりのデジタル化”という馴染みの薄い両分野に思われるが、世の中の動きと製造業のシーンという二つの視点から見たとき、その類似性は極めて高いことがインタビューをさせて頂く中で分かった。
今回は森林総合研究所が開発に携わった “改質リグニン” という3Dプリンター用の素材を含め、さまざまな用途が期待される成分に関するお話を伺ってきた。

今回お話をお伺いしたのは……国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 新素材研究拠点 拠点長 山田 竜彦 さん。
森林総合研究所 は110年を超える歴史を持ち、 森林・林業・木材産業、そして林木育種にかかわる研究開発業務を主に行っている。

昨今、化石燃料の利用を伴う社会経済活動は二酸化炭素の増加をもたらし、地球環境を徐々に変化させている。世界中で叫ばれている環境悪化と密接に絡むこのような問題に対処するための機関が、森林総合研究所になる。循環型社会、サステナビリティ、 国連が掲げるSDGsを始め、今後期待される役割は増々高まっていくであろう。

山田さんはその森林総合研究所の一拠点である、 新素材拠点 拠点長である。 新素材拠点では再生可能エネルギーとしても注目度の高い、 ”バイオマス”を原料に用いた新素材と、それらを製造するためのバイオマス変換技術の開発を行っている。今回は、木材に含まれる成分「リグニン」の安定品質な工業材料化に成功したリグニン由来の新素材「改質リグニン」のお話を伺うことが出来た。

――森林由来の新素材ということで、改質リグニンを出されたのですよね?

改質リグニンは、木材中のスギ木材ですと30%ぐらいにリグニンという成分が入っているんですけども、その成分を使える形で取り出して工業材料化に成功したというバイオ由来の新素材になります。その素材を用いると、非常に加工性が高いので色んなものが出来ます。3Dプリンター用の素材という一つのアプリケーションとして提示していると言うことです。

ブースにおいて、改質リグニンが展示されていた

――主にどのような用途に活用できますか?

リグニンというのは、耐熱性や耐薬品性というものに高強度を出す、という素材ですのでがっちり固めてしまえば非常に強いです。樹脂開発が自動車用の外装部材になるようなレベルになったり、耐熱性を要する電子基板、そういう貴重の機能性の素材として開発できます。加えて加工性が高いので、3Dプリンターのフィランメントとしても使用できます。

改質リグニンを材料に、3Dプリンターで成形されたカブトムシの模型

―― 非常にエコな素材ですので、いろいろな所に活用ができそうだ、という。何年前くらいから研究はされていたのですか?

本格的にやりだしのは、五年もののプロジェクトでして、五年半ですかね。

―― 具体的な用途が提案できるところまで、研究が進んできたということですね

そうですね。まだいろいろな用途があるんですけれども、その新素材が開発できたので、素材を作ったという。そしていろいろな会社さんに開発して頂いているということですね。

――例として光岡自動車さんの車が展示されているんですね

身近な自動車の車の部材にも利用されているということで、活用用途は非常に広いです。内装だったり電化製品などいろいろなところがあります。電子基板も耐熱性を要しますから、フィルムとしは九千円レベルの樹脂で出来ています。バイオ素材でコストパフォーマンスが高いというのは、長年研究をやっていて初めてです。経済性にも優れています。

――今後、例えば共同開発とかは募集されていらっしゃるのですか?

はい、募集しています。リグニンネットワークというコンソーシアムを作りまして。いろいろな方に入って頂き、産学官連携した体制を今年の四月に立ち上がったところです。セミナー、イベント等をやっておりまして、今では七十五社ぐらいが集まっており、まだどんどん入れます。それぞれの会社のビジネスを、育てて頂けると思うので。


雑感


以上、森林総合研究所の活動を取り上げさせて頂いた。研究機関としても研究開発に徹するに留まらず、リグニンネットワークに見られるようなハブ的な役割も担っていることが知れ、精力的な活動が伺える。
試作・開発のデジタル化が前進するための土壌が、徐々に築かれて来ていることも感じるお話であった。 3Dプリンタ周りの話題だけでなく、その基となる原料もシーンとして盛り上がってきている。いずれのトピックも車の両輪のようなものであり、双方向的に発展することによって、3Dプリンタ 実用化の道が開かれるのではないか。
また今回お伺いできた話をもっと広い視野で眺めたとき、循環型社会、サステナビリティ、 SDGsなどのトピックはべき論で議論が留まるのではなく、その方向へ着実に歩みを進めているといったものであった。これは製造業の世界にも言えることであり、試作における3Dプリンタ、製造におけるIoT化、マーケティングにおけるデジタル化がそれを体現している。
しかし森林総合研究所による改質リグニンのプロジェクトが五年掛かりであったように、 新たな方向へと歩みを進めるには、当然お金と時間がかかる。シェアラボ編集部で取り上げてきたモノづくりのデジタル化も同様、その普及にはまだ時を要するかもしれないが、遅かれ早かれその時は来るのではないだろうか。

関連情報

シェアラボ編集部

3Dプリンタ―の”先進っぽさ”を感じさせる作りに男心をくすぐられる毎日。さまざまな業界にて活用されるアディティブ・マニュファクチャリングの今をお届けします!最近のニュースは、鳥を飼い始めたこと。

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