「JAXA / 3Dプリンタ AMワークショップ」参加報告
2024年12月6日に「【JAXA / 3Dプリンタ】AMワークショップ Academia(1)+ Industry(1)> 2/金属3Dプリンタ技術による新規宇宙産業の創出と飛躍」がJAXA相模原キャンパス/宇宙科学研究所(神奈川県相模原市)で開催され、シェアラボも招待を受け丸岡が参加した。JAXAの研究部門の方々からの発表と、AM装置販売企業からのプレゼンテーション、トークセッションがあり、大変有意義な交流と情報交換のイベントであった。その中から重要なポイントに絞り、以下に報告する。(上部画像はJAXA イベントウェブページhttps://jaxasma-amws2024.peatix.com/から許可を得て引用 )
【 JAXA / 3Dプリンタ】AMワークショップの概要
今回のイベントは国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) 安全・信頼性推進部の主催で、JAXA相模原キャンパス/宇宙科学研究所内会場とオンライン配信のハイブリッドで開催された。開催目的をJAXA イベントウェブページhttps://jaxasma-amws2024.peatix.com/から以下に引用する。
金属積層造形(Additive-Manufacturing / AM)技術は、多種多様な構造が実現できることから新たな価値を創造し宇宙開発に革新的な進化や開発プロセス刷新をもたらすことが期待されています。一方、新しい製造技術であることから、技術は日々発展、成熟を続け、それゆえに従来の常識では予測しがたい課題が生じたり、複雑な課題の解決策があっという間に公開されたりすることが起こっています。多様な技術領域が複合した複雑なAM技術を、さまざまな領域のエンジニアや研究者がそれぞれのプレーヤが得意とする技術で結びつくことでより高い価値を発揮したり、共通の目的や目標を掲げる個別に活動するプレーヤを繋げて相乗効果を生み出すことで、知見の共有と共に航空宇宙開発を変革する環境を構築することを目指しています。
プログラムは下記の通り。
タイトル(発表順) | 発表者(敬称略) |
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Nidecの金属3Dプリンタと、活用ノウハウ(最新アプリケーション) | ニデックマシンツール マシニングセンタ事業部 第2営業部 微細加工グループ 部長代理 成瀬 貴規 |
ロケット設計製造の自動化、夢と挑戦 | JAXA 研究開発部門 第4研究ユニット 齊藤 俊哉 / 川上 幸亮 |
国内外AM技術の「今」から宇宙産業の「飛躍」へ | 大陽日酸 イノベーションユニット イノベーション事業部 AMイノベーションセンター 所長 尾山 朋宏 |
積層造形による製造システムの効率化に関する研究 〜インペラ・インデューサを例に〜 | JAXA 研究開発部門 第2研究ユニット 馬場 満久 |
学生主体の国際ローバー開発におけるAM活用の展望 | KARURA 高松 俊介(エンジニアリーダー) / 堀江 優菜(ビジネスリーダー) |
金属AM技術への取り組み | NTTデータザムテクノロジーズ 技術開発統括部 製造部 部長 樋口 官男 |
金属積層造形技術を用いた逆止弁付き自励振動型ヒートパイプの開発 | JAXA 研究開発部門 第2研究ユニット 安藤 麻紀子 |
Colibrium Additive(旧GE additive)各種装置について | 三菱商事テクノス アディティブ・マニュファクチャリング・ソリューション部 課長 横島 圭太 |
JAXA 小型技術刷新衛星研究開発プログラム(刷新プログラム) 衛星DX研究会におけるAM技術の宇宙機開発への適用に向けた取り組み | JAXA 研究開発部門 研究戦略部 渡辺 健 |
AM新技術へのアプローチ_マルチマテリアル造形への挑戦 | ニコン アドバンストマニュファクチャリング事業部 開発部 第一開発課 藤井 竜平 |
金属3Dプリントだからこそ作れる機械構造?~機械的メタマテリアルを用いた衝撃吸収構造~ | JAXA 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 助教 安田 博実 |
トークセッション テーマ「AMの航空宇宙適用のこの先の”未来のかたち”と”期待”」 | 宇宙科学研究所 教授 佐藤英一 全企業発表者 |
発表のポイントと所感
まず本イベントの副題「 Academia(1)+ Industry(1)> 2 」の通り、学術と産業の交流が1+1以上の成果を生むという点から、発表プログラムも企業と研究者が交互に発表する順となっており、また最後にトークセッションで情報意見交換を行うという、主旨に沿った良い構成であった。研究発表は、主にロケットや人工衛星の実用機器の顕在化している課題に対し、従来工法では難しく、AMの形状や材料による改善解決を目指した研究や、実証実験で有効性が確認できた例から、次世代の革新的な製造につながる夢のある研究、また民間企業との共同研究例など、JAXAの研究において広い分野でAM活用が着実に広がっていることを知ることが出来た。一方、宇宙分野にAM製造を適用する課題として、製造条件が無数にある、指針がない、個社で取り組むには負担が大きい、信頼性、品質保証の整理、AM企業と衛星メーカーの役割分担の整理などが具体的に示され、これらはJAXAだけではなく、今後国内外、産学官連携にて解決に取り組む必要があると感じた。
KARURAの発表では、プロジェクト概要として、日本とアメリカに拠点を持ち、模擬火星ローバーの研究開発に挑む学生団体で、国際大会に参加し、日本人所属団体初の決勝進出を果たしたとのこと。来年のURC2025に向けた開発では、インホイールモーター構造部品、アームのギアボックス、採取ドリル部品などにAMを使う検討をしている。一方、日本の学生が金属AMを利用する例が少ない現状を示し、背景として金属AMへの理解不足、座学授業だけで実習がない、使用までのハードルの高さ、また学校が導入する装置は研究用であり、このようなプロジェクトには使えないなどを挙げ、対策として企業とのつながりの必要性、AMについての周知活動、試作環境の整備などを示した。まず学生が国際的に、自発積極的にものづくりに挑戦していること、またAMの利点と課題、対策を適切に理解し、かつ発信していることは素晴らしいことであり、このような動きが増えることが、今後の日本のAM技術と発展の大きな要因のひとつとなるのではないだろうか。支援者を募集しているとのことで、下記ウエブサイトを参照いただきたい。
KARURA PROJECT https://karura-project.studio.site/JP
トークセッションでは、なぜ日本のAMがまだ黎明期なのかについての問いに対し、設計者のマインドが古い、どう作るかを考えずに設計してしまう課題、導入ハードルが高すぎる課題などが述べられ、対策として、例えば設計者や依頼者と製造者のコミュニケーションの工夫やAM設計ソフトウエアの活用、JAXAでも作っているプロセスガイドラインの必要性、「日本はこうやってきた」ではなく、海外に見られる産学官のタッグを組むなどが示された。また以前は装置メーカー指定材料しか使えなかったが、今は制限が少なくなり、日本の材料技術に期待するとの発言もあった。また最後にAMワークショップの宣言として、2024年度は「AM業界を取り巻く環境の大きな変化に対応し、ワークショップを核とした非宇宙・宇宙業界に限らない垣根のない連携により適用促進知見共有を深めるとともに、標準文書の整備を加速する」、2025年度は「宇宙適用を想定した有識者によるAMに関するJAXA標準のWGを立ち上げ、品質保証標準の制定を目指す」が主催者から発表された。これらから、これまであまり知り得なかった、JAXAの方々が組織的にAM活用研究にかなりの尽力されてきたこと、また日本の宇宙研究開発におけるAMの価値と課題、向かうべき方向性が、適切に認識共有されてきていることを知る貴重な機会であった。今後も年1回程度継続して開催される意向とのことで、これを機会により多くの産学官の方が研究開発に参画され、発展していくことを期待するとともに、ShareLabでも情報発信を通じて微力ながら支援をしていきたい。
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設計者からAMソフトウエア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、AMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしていきます。