フード3Dプリンターのメリットとは?~3Dプリンターでつくる食べ物最新事例~
そもそも、なぜ3Dプリンターで食品を作るのか。その理由は以下の3つであると考える。
- 食品業界における 製造コスト削減・人手不足に貢献
- 環境に優しい食品製造方法の開拓としての活用
- パーソナライズされた食事としての活用
今回は3Dプリンターでつくられた食べ物の進化を、3Dプリンターで作るメリットごとに事例をもちいてご紹介する。
食品業界における 製造コスト削減・人手不足に貢献
この高級チョコレート店で売っているようなチョコレートは、実は3Dプリンターで作られている。
この興味深い試みを手掛けるのは、オランダに本社を置くFoodJet社だ。家族経営で40年の歴史を持つ同社は、3Dプリンターを扱う企業の中でも食品にフォーカスを置き事業を展開している。
同社の技術はチョコレートだけではなく、 ドーナツ、ワッフル、ピザ、ビスケットを含む、多くの食品にも活用が可能だ。 通常の製造ラインを使用しながら、既存のベルトコンベヤーの上にFoodJet社の精密なコーティングシステムを置くだけで、他では作ることができないオリジナルの製品を簡単に作ることができる 「表面コーティング」×「グラフィック装飾」 の技術を強みとしている。
多種多様なデザインをつくりだすだけではなく、そのデータを保存し活用できる点は製造コストの削減や人手不足など業界の課題に対する解決策としても注目を集めている。
≫ 詳しい活用事例はこちら「まるで高級店のチョコレート-FoodJet社の食品用3Dプリンター活用事例」
スイーツ専門の食品3Dプリンター
また、ナショナルデパート株式会社(以下、ナショナルデパート)は、複数種類の食材のインジェクションが可能な新方式のスイーツ専用の食品3Dプリンティングシステム「Topology」(トポロジー)を開発している。もともとバターの製造工程の中で、手作業で行っていた部分を3Dプリンターを活用することで製造コスト削減に成功していた同社は、その技術を活用した食品3Dプリンターを完成させた。
スイーツづくりに特化したトポロジーの特徴はいくつかあるが、中でも画期的だったのは複数種類の食材をシームレスに射出できるようになった点だ。
これまでの食品3Dプリンターは食材をシリンダーに収めてピストンで押し出す構造だったが、それでは複数種類の食材を切り替えながらシームレスに射出することができなかった。しかしトポロジーは食材の種類ごとに独立したポンプで制御することで継ぎ目のない射出が可能になった。
それにより、立体的な造形で複雑な食味を実現可能でき3Dプリンターでつくるスイーツのバリエーションに広がりが増えた。さらに、専用のテクスチャ剤を利用するとスポンジケーキなどの固形物も粘体として送液することができるため、この写真のような様々な食材を合わせたスポンジケーキを作ることができる。 (写真:バターサンドケーキ/引用: ナショナルデパート )
≫ 詳しい活用事例はこちら「スイーツ専門の食品3Dプリンター、バレンタイン商戦で一部運用開始」
また、2022年6月23日にWiibooxも3Dフードプリンター用のエクストルーダー「LuckyBot」を発表している。この3Dプリンターの最大の特徴はその「手軽さ」だ。
「LuckyBot」 は同社の対応するFFF方式3Dプリンターに搭載することで、3Dフードプリンターとして利用できるエクストルーダーである。そのため、自宅の3Dプリンターを使って、フード専用3Dプリンターのようにさまざまな食材を使ったデザインを楽しめるという体験を気軽に挑戦できる。
写真は実際に部品を取り付けている様子。誰でも数分で設置できることが特徴だ。
簡単な設置だけではなく、デジタル表示と3つのボタンでの簡単な操作性や、温度制御やリードスクリューの設定が容易にでき、操作は標準ソフトウェアで対応する点、そして価格は199ドル(約2万7100円)と比較的手に入れやすい価格帯で提供されている。
対応可能な食材は、チョコレート、ピーナッツバター、クリーム、チーズ、ジャム、マッシュポテト、サラダドレッシングなどで、イラストを2Dで描いたり、3Dモデルを造形したりできる。
手軽さだけではなく、食品で特に気にかかる安全性についても同社は言及している。
使用部材は、本体のABS、ノズルのステンレス鋼、チューブのPPなどいずれも食品向けグレードのものを使用し、FDA、FCC、CE認証を取得している。また、安全機能として、0~50℃の範囲の温度制御と自動電源オフ機能を搭載。0.5℃の精度で温度をコントロールする高度な温度制御アルゴリズムと、モーター制御システムにより樹脂フィラメントと同等レベルの精度のプリントが可能だという。
環境に優しい食品製造方法の開拓としての活用事例
また、スイーツだけではなくSDGsに貢献する培養肉としても3Dプリンターが活用されShareLabでもいくつか取り上げてきた。鶏肉、牛肉などさまざまな培養肉の製造事例として3つご紹介する。
事例1│3Dプリントで作るケンタッキーフライドチキン
ロシアではケンタッキーフライドチキンがバイオプリンティング企業3D Bioprinting Solutionsと共同で3Dプリント・チキンナゲットが開発され、2020年には実店舗で販売された。
健康志向の高まりに応じて需要が高まる代替肉と、より環境にやさしい食品生産方法の開発のために実施されてた世界で初めて研究所で生産されるチキンナゲットである。味や見た目もKFCオリジナル商品に限りなく近いが、従来の食肉よりもヘルシーで環境にやさしいものとなっている。
以前より研究は進んでおり、チキンナゲットに似た食感の植物由来「鶏肉」を試験的に製造していた。2019年にアトランタで試験販売を行ったところ、5時間足らずで完売するほど多くの注目を集めていた。ただし、鶏肉の食感をの実現は困難であり、より完璧に再現するために今回共同開発した3Dバイオプリンティングソリューションズの独自技術を応用し鶏の細胞組織や植物素材を用いて、鶏肉の味や食感を再現するバイオプリンティング技術を開発。この技術は細胞パターンを作り出す技術で、医療現場などでは臓器を再現し外科医の練習モデルなどで活躍している。
≫ 詳しい活用事例はこちら「世界初 研究所で生産された3Dプリント・チキンナゲットを提供」
事例2│ 和牛ステーキを3Dプリンターで完全再現する培養肉の事例
ふたつめは、大阪大学が培養した牛肉の筋繊維と脂肪、血管を線維組織ファイバーとして細長く作り、和牛肉の組織構造を基にそれらを束ねて、3Dプリンターで和牛のステーキ肉を作ることに成功した事例だ。
この事例の特徴は肉の複雑な組織細胞の再現度の高さにある。
ケンタッキー・フライド・チキンのように筋肉繊維のみでミンチ肉のような構造は以前より研究が進み実用化に至っていたが、肉の複雑な組織構造を再現することは難しかった。
そこで、松崎教授らの研究グループは、3Dプリンター技術を活用した「3Dプリント金太郎飴技術」を開発し、複雑な肉の構造を再現することに成功した。筋・脂肪・血管という異なる線維組織を3Dプリンターで作製し、それを金太郎飴のように結合して肉の複雑な構造を再現する。その技術が「3Dプリント金太郎飴技術」である。
この技術により、和牛特有の霜降り構造を本物の肉のように再現できたとのこと。
「この和牛は美味しいのか」という気になる部分については、実はまだ研究者自身も食べていない。というのも、培養する液など食べられる成分だけでできていないためだ。しかし、製造工程、使用する成分などの調整を経てゆくゆくは食べられるようにしていくとのこと。
≫ 詳しい活用事例はこちら「和牛ステーキを3Dプリンターで完全再現!SDGsに貢献する培養肉の進化」
事例3│本物の脂肪と筋肉の細胞だけで構成された持続可能な培養肉製造事例
最後の3つ目の事例は、イスラエルの食品技術企業MeaTechは 本物の生きた筋肉や脂肪細胞を使用する3Dバイオプリンターを開発し、持続可能な培養肉製品の開発に向けた戦略を発表した事例だ。
イスラエルのネス・ジオナにある同社の研究所で3.67オンス(104グラム)の養殖ステーキを3Dプリンターで出力。このステーキは、本物の脂肪と筋肉の細胞だけで構成されている。つまり、大豆やエンドウ豆のタンパク質のような肉を使わない代替品に頼っていないことを意味している。
今までの事例と比べて、代替肉として大豆など植物由来の原料を利用していないため「本物の培養肉」であると主張している。
製造工程
- 組織サンプルから牛の幹細胞を分離し、十分な細胞量になるまで増殖させる。
- 必要な細胞量に達すした幹細胞をバイオインクに配合し、自社の押し出し式3Dバイオプリンタを使用して、本物のステーキのような構造のデジタルモデルを使ってステーキを成形。
- 成形された3Dプリントステーキをインキュベーターに入れて熟成させることで、最終的に幹細胞が脂肪や筋肉の細胞に分化。
豚の細胞を3Dプリントするための最適な方法の研究にも着手しており、これが成功すれば対応可能な代替肉市場を大幅に拡大できると考えている。
パーソナライズされた食事としての活用
3Dプリンターで食品を作るメリットは健康面でも注目されている。その中でも注目度と研究が進んでいる事例を2つご紹介する。
事例1│食感や栄養素を確保する「フェイクミート」
中国浙江大学の研究チームは、肉のような食品を3Dプリントするために使用できる、植物由来の新しいゲル素材を多数開発したと発表。
3Dプリント可能な代替肉には、大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質、小麦グルテンなどの成分が含まれており、健康や持続可能性に関するコストをかけずに本物の肉のような栄養を取ることが可能だ。
写真は、 大豆、小麦、ココアバターを使用した3Dプリンターによる「フェイクミート」だ。この配分は食感や栄養素を確保するために最も適した配合であるとされている。特に、3Dプリンターでつくるうえでカカオ豆から抽出された脂肪であるカカオバターを加えることで大豆、小麦でできたゲルの質感コントロールや、高温の印刷工程でシェルを押し出しやすくし、射出後は適度な硬さに固まるなど、重要な役割を果たしていると研究データで意外な発見として発表された。
タンパク質や糖分、ビタミン、ミネラルの量を細かく調整することができる。特別な食事を必要とする人、遠隔地の軍隊など特定の人のみならず、高齢の人など健康面を気にする人にとって効率的かつ低コストで提供できるパーソナライズされた3Dプリンター食品は大きな期待を寄せられている。
事例2│介護食の常識を覆す「食の楽しみ」を提供
そもそも介護食とは、一般の調理法で作られた食事を食べるのが難しくなった人に向けて作られた食事のことをいい、今までも大手食品メーカーが取り組んできた。その多くは高齢者向けに食事をペースト状として流動食をメインにしており、見た目や食感で食を楽しむことは難しかった。
そんな中、3Dプリント技術を利用し、出来る限り本物の食べものに近い見たの食事を用意し、利用者の食欲を刺激しようとする取り組みが国内外で注目を集めている。
超高齢化社会が進む日本では、山形大学の川上准教授は3Dプリンターの食品開発による「介護食」の課題解決への試みが始まっている。もともとタンパク質の研究を進めていた川上氏は、複雑な構造のタンパク質の分子模型をカラー3Dプリンターで製造する方法を開発。その研究から発展し、今回介護食の開発に関連する3Dゲルプリンタを進めていくこととなった。
見た目も食感もおいしい介護食を目指し、食べる楽しみを感じてもらうため、複数のノズルや味の違う食材を組み合わせて、色味・歯ごたえに変化を持たせる「介護食」の開発に着手している。
また、このような取り組みは海外でも注目されている。スウェーデン南西部の都市ハルムスタッドの自治体では、食品プロバイダー Findus and Solina、バイオ3Dプリンタ企業のCellink及びその他大学の研究者等と協力し高齢者向け施設で3Dプリンター製の介護食の提供を計画している。
このように、さまざまな材料の開発が進んでおり、ゆくゆくは自分が食べたいものを、パーソナライズされた栄養素をいれて3Dプリンターで出力して食べる、そんな未来がくるかもしれない。
まとめ
現在、実際に販売されているものはスイーツとKFCのチキンナゲットだけで研究段階のものはあるが、すでに実用に向けた実証実験は進んでいることが今回ご紹介した事例からも読み取れる。
単なる代替品としてではなく、3Dプリンターだからこそつくれる食品という点は今後さらに進化されていくだろう。食という生活に欠かせない点において3Dプリンターが活躍することで、多くの人に3Dプリンターのメリットにいづいてもらえるチャンスでもあるためさらなる続報を期待したい。
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3Dプリンターの繊細で創造性豊かなところに惹かれます。そんな3Dプリンターの可能性や魅力を少しでも多くの人に伝えられるような執筆を心がけています。