【事例3選】航空宇宙業界で活用が進む、3Dプリンター製ロケットエンジン
人工衛星や航空宇宙の分野において、3Dプリンターを利用する動きが活発化している。この記事では3つの事例を紹介し、3Dプリンター利用の大きな流れにある背景について考えたい。
事例1:X-BOW SYSTEMS社
アメリカのニューメキシコ州に本社を置くX-Bow Systems 社は3Dプリントされた固体燃料とロケットモーターの開発に特化している企業だ。固体燃料ロケットエンジンは、固体状になっている推進剤に依存しており、そのシンプルさと堅牢性が評価され、空軍研究所、ロスアラモス国立研究所、サンディア国立研究所、国防研究計画局(DARPA)といった米国政府機関と既に契約を結び、軍事活用もされている。
X-BOW SYSTEMS社は、先日軌道上と軌道下両方の打ち上げに適した小型ロケットのラインアップを発表した。
事例2: AEROJET ROCKETDYNE社
アメリカのカリフォルニア州に本社を置くロケットとミサイルの推進器の製造会社であるAEROJET ROCKETDYNE社は、宇宙ロケット打ち上げ会社のUnited Launch Alliance(ULA)社と116基の3Dプリント製ロケットエンジン「RL10C-X」の納入契約を結んでいる。
ULA社は、この新しい3Dプリントエンジンを使って、電子商取引大手のAmazon社が計画している世界のブロードバンド・アクセスの拡大を目的としたKuiper衛星群の打ち上げを支援する予定だ。このプロジェクトでAmazon社は5年間で最大83回のロケット打ち上げを行うという。
RL10C-Xは、2021年5月にNASAの熱間燃焼試験手順に合格した。3Dプリントされた銅製の部品を含むこのエンジンは、宇宙空間でのシミュレーション内で点火と長期耐久性が保障されたことになる。
事例3: Launcher社
アメリカの民間航空宇宙企業であるLauncher社は、NASAステニス宇宙センターにおいて、3Dプリントした液体ロケットエンジン「E-2」のテストを成功させた。
エンジンには軌道に乗るために必要な推進剤を少なくするために、高性能な銅合金製の3Dプリント部品が含まれている。3Dプリントされた銅合金の燃焼室は、40秒間の試験燃焼後も完璧な状態を維持し、再利用可能であることが実証された。
ロケットエンジン開発に3Dプリンターが活用される背景
エンジン開発に3Dプリンターが活用される大きな理由は、低コスト化とスピードにある。複雑な形状のものであってもデータを基に自由に作成できる3Dプリンターは、素材開発や人件費、時間といったコストを大きくかけることなく製品を生み出せる。複雑な構造物が作成できるのなら、部品の数も減らせるのでさらなる軽量化や低コスト化も見込める。金型を1から制作する必要がなくなるので、短期間で多くの試行錯誤が可能になり、結果として開発スピードも速くなる。
莫大な費用がかかるロケットエンジンという分野だからこそ、質を保った低コスト化の需要は大きい。今回紹介した3社はすべてアメリカの企業だが、3Dプリンター活用の動きは世界のスタンダードとなるだろう。
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