SDGsに貢献する注目の3Dプリント素材・リサイクル素材【事例紹介】
SDGsという言葉を耳にするようになり久しいが、3Dプリンター業界でも「持続可能性」を考慮した、環境に優しいさまざまな素材(フィラメント)の開発が進んでいる。
今回は多方面で開発されているそれぞれの素材について、特徴を紹介する。
事例1│生分解性の高い素材に注目が集まる
環境に優しい3Dプリンター素材として、多くの企業が注目しているのが生分解性の高い素材だ。生分解性とは微生物の働きにより土の中や海中といった自然環境中で分子レベルまで分解され最終的にはCO2(二酸化炭素)と水になる性質のこと。分解スピードが速いほど、早い循環サイクルでの利活用が可能になる。
3Dプリンター業界では、素材としてさまざまな高生分解性の素材の開発が進んでいる。その例を紹介していく。
小麦のふすまの廃棄物
ふすまとは、小麦の外皮の部分や胚芽などの「表皮の部分」を指す。「ブラン」とも呼ばれることも多い。小麦からふすまを取り除いたものを精製すると小麦粉になる。
オーストリアのヨハネス・ケプラー大学リンツ校の研究チームが、廃棄される小麦のふすまを一部利用した生分解性インクを用いて、3Dプリンターでソフトロボットの開発を進めている。ぐにゃぐにゃとして柔らかいソフトロボットは、動きの柔軟性が優先されるシーンに有効だ。
セルロースナノクリスタル(CNC)
セルロースナノクリスタルは、植物に含まれる有機ポリマーの鎖のことだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者は、合成プラスチックとセルロースナノクリスタルを混合して作る、3Dプリント素材を開発した。この複合素材はレンガやモルタルに似た高強度構造を有しているとのこと。
研究では、複合素材におけるセルロースナノクリスタルの含有率を90%まで高めることで骨よりも強く、アルミニウムよりも硬いという高強度素材の開発に成功した。
複合素材には合成プラスチックが含まれている。当然合成プラスチックの生産には石油が必要だ。セルロースナノクリスタルの割合を高めることは、そのまま石油の使用量を減らすことにつながる。この新しい素材は、歯科用途への活用が特に期待されている。
酢酸セルロース
酢酸セルロースは、植物由来のセルロースと酢の主成分である酢酸を原料に作られる。身近なものではたばこのフィルターとして使用されている。酢酸セルロースの⾃然界における分解速度は1年から3年と、高スピードなのが特徴だ。
酢酸セルロースを主成分とする素材の1つに、株式会社ネクアスが開発した生分解性酢酸セルロース素材「NEQAS OCEAN」がある。また、「NEQAS OCEAN」をベースにした3Dプリンター用フィラメント「C38TS」も、Nature3D社から販売が開始されている。
また、同じくネクアスが開発した素材を活用したバイオマス素材を使った循環型都市を実現するプロジェクトも進捗している。このような取り組みは今後も広がっていくだろう。
事例2│ポリプロピレン(使用済プラスチック)
環境に優しいという点で生分解性の高い素材開発が進む中、素材の再利用という方向からのアプローチも活発になっている。その一例がオーストリアのデザインスタジオEOOSが開発した電動自転車「Zero-Emissions Utility Vehicle」(ZUV)だ。ボディ部分はスーパーマーケットで廃棄される使用済プラスチックを素材に3Dプリンターを用いて製造されている。
同様に使用済プラスチックを活用した例としては、東京2020オリンピック・パラリンピックにおいて、P&Gジャパン社が3Dプリンターを用いて製作した表彰台が挙げられる。
3Dプリンターは複雑な形を機械の力で量産できるという点が特徴だが、その3Dプリント素材によっては、環境負荷を大きく下げることにも貢献できる。3Dプリンターだからこそできることの可能性は、これからも広がっていきそうだ。
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