2つの材料特性と耐久性を実現する新たな3Dプリンター用樹脂素材の販売開始-デスクトップメタル
アメリカのマサチューセッツ州に本社を置くDesktop Metal社は、光重合誘起相分離(Photo PIPS)と呼ばれる材料化学プロセスを使用して画期的な材料特性を実現する3Dプリンター用素材「DuraChain」の発売を開始した。
画期的な材料特性をもつ新たな樹脂素材「DuraChain」の特徴
DuraChainは単一のシステムで二つの材料特性と耐久性を併せ持つ新しいタイプの3Dプリンター用樹脂だ。PhotoPIPSプロセスにより、デジタル光加工(DLP)プリント用に画期的な弾性と強靭な材料特性を実現した。DLPプリント時に光を照射すると、DuraChainはナノレベルでそれぞれの成分に分離し、硬化して弾力性のある高性能素材に変化する。
また、従来の2液性樹脂と異なり使用可能期間が約1年と長く、大量生産に適している。未使用の材料が腐敗することによる廃棄物の発生も抑制できる。
DuraChainは、テキサスに拠点を置くAdaptive3D社が開発したもので、2021年にDesktop Metal社が買収している。
現在、DLP 3Dプリントで素材として使用されている標準的なアクリレートベースの樹脂で作られた部品は、衝撃によって粉々になったり割れたりする傾向がある。3Dプリント業界では、こうした材料特性を段階的に改善し、より耐久性の高いゴムのような弾性を実現するための取り組みが行われてきた。
PhotoPIPsプロセスで硬化する素材は、長年研究者によって研究されてきたが、広く商品化されることはなかった。これは主に、DLP 3Dプリンターがこのプロセスを利用するために必要な高粘度樹脂のプリントに苦戦してきたことが背景にある。
DuraChainはPhotoPIPsプロセスを活用した画期的なアプローチでこの課題を解決するものになると期待されている。
Desktop Metal社の共同設立者兼CEOであるRic Fulop氏は、「DuraChainは、長期間使用可能な材料で熱硬化性樹脂と競合する材料特性を実現し、DLPプリントの新時代を告げるものです。DuraChainで印刷された部品は、幅広い温度範囲で高い性能を発揮し、その他の重要な利点もあるため、DLP印刷の新しい材料イノベーションに速やかにつながるでしょう。」と述べている。
DuraChainはDLP式大型3Dプリンター「Xtreme 8K」でのみ対応
DLP方式の3Dプリンターの多くは、造形エリアの下にプロジェクターを設置し、透明なトレイを通して各パーツ層に光を当てながら、パーツを造形トレイに吊り下げて上方に進めるボトムアップ方式の印刷を採用している。しかし、DuraChainは、一般的な樹脂に比べて硬化に必要なエネルギーが大きく、重量もあるので、ボトムアップ方式のDLP印刷では、ビルドプレートに吊り下げることが困難だった。
そこでDuraChainの製造のために採用された3DプリンターはDLP方式3Dプリンターとしては唯一のトップダウン方式印刷であるETEC社の「Xtreme 8K」だ。トップダウン方式は重力や剥離力の影響を避けるために、硬化するモデルを引き上げるのではなく、樹脂に沈めるやり方の印刷方式だ。
DuraChainは、Elastic ToughRubber(ETR)をはじめとした原料を素材としている。ETRは3Dプリント素材として市場で最も強靭なものの1つで、航空、自動車、医療、電子、軍事の各業界で既に使われている。
例えば建設・産業用真空システムメーカーであるDustless Tools社では、高いエネルギーリターン、引裂強度、復元力が求められる解体用ハンマーの製造にETRが使用されている。
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