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フード3Dプリンターの現在と未来 ― できること・課題・展望

世界的なフードテックの盛り上がりにより、培養食肉や嚥下食、フードロス対策に3Dプリンティング技術を活用して開発する取り組みが数多く報じられるようになってきた。

⽇本においてもフード3Dプリンターの研究開発事例が大学等の発表で報じられ始めたが、まだ大多数の人はフード3Dプリンティングの現状に関して詳しい情報を持っていないだろう。そこで販社としてフード3Dプリンターを販売しながら啓蒙活動にも取り組んでいるミツイワ株式会社の本多 隆史 氏に世界と日本におけるフード3Dプリンターの現状と可能性に関して語ってもらった。

(語り手:ミツイワ株式会社 本多 隆史 氏  聞き手:シェアラボ編集部 衛藤誓)

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フード3Dプリンターと関わることになった経緯は?

シェアラボ編集部:本多さんはいつからフード3Dプリンターに関わっているのでしょうか?ミツイワさんとしてはビジネス的にどのような位置付けなのでしょうか?

本多氏:私がフード3Dプリンターに関わるようになってから7,8年経ちます。そもそもミツイワは製造業向けのITソリューションを提案する会社です。取引先のとあるITベンダーから3Dプリンターを活用してビジネスをやろう!というお声がけをいただき、取り組み始めたのがきっかけです。フード3Dプリンター以外にもXYZプリンティングさんの3Dプリンターなども扱っているのですが、フード3Dプリンターの分野はまだメーカーも販社も少ないですね。

ミツイワ会社概要
ミツイワ株式会社

何故フード3Dプリンターが注⽬されているのか?

本多氏:元々は工業用が認知されてきた2012年ごろに食べ物にも活用できるのではと、海外のメーカーなどがテスト的に行なってきたのが始まりです。そのような中で近年になって食料問題や環境問題などを背景としたフードテックの流れの中で、今そこにある社会課題に対する具体的な解決アプローチとして注目され始めました。

フードテックと3Dプリンター
フードテックと3Dプリンター(提供:ミツイワ)

シェアラボ編集部:少し意地悪な質問をさせて下さい。そもそも食品をわざわざフード3Dプリンターで作る意味ってあるのでしょうか?具体的にどのような事が可能になるのですか?

本多氏:「フード3Dプリンターだからこそできること」があるからこそ、新しい装置と導入する意味があると思います。その話の前に、フード3Dプリンターでできることを簡単にお伝えしますね。フード3Dプリンターは、調理する前の食品を作れます。調理する前というのが忘れてはいけないポイントで、現状のフード3Dプリンターでは練り物や生パスタのように、加熱調理が必要な状態のペーストのような状態のものになります。調理の一歩手前までを担当することができる装置だと言えます。

フード3Dプリンターとは
フード3Dプリンターとは(提供:ミツイワ)

シェアラボ編集部:そのままでは食べられないんですね……

本多氏:そうです。蒸したり、焼いたり、揚げたりなどの調理工程が必要になります。そこだけ聞くと大したことない装置に聞こえるかもしれませんが、フード3Dプリンターの真価はマス・カスタマイゼーションと自働化にあります。ひとそれぞれ健康状態や体質は違うものです。人によってはアレルギーや糖尿病などで困っている人もいるでしょう。嚥下障害といって、うまく食べ物を呑み込めない障害に苦しんでいる人もいます。加齢で歯が悪くなり、固いものが食べられなくなる人もいます。食べ物の硬さや栄養素を適切にコントロールしながらも、見た目や食感、味を周りの少しでも健康な人と同じように楽しめる。そうした活用方法がフード3Dプリンターには期待できます。

シェアラボ編集部:フード3Dプリンターが個々人、一人一人に向けて、最適な食を用意できる装置になる、という事ですか。パーソナライズされた食の提供が可能になるんですね。

本多氏:そうなんです。もちろん前提として、個々人の体質や好みを登録できるプラットフォームのようなものが必要ですし、その情報をもとに、数ある味や触感、栄養を再現できる材料や造形レシピの開発や蓄積が必要になりますが、フード3Dプリンターが洗練され、普及すれば、登録された情報をもとに食卓を囲むすべての人が楽しく一緒に食事を楽しむことができるようになるはずです。

シェアラボ編集部:なるほど。海外の方でハラルなど宗教的な制限がある人にも良いかもですね。フードロス対策としてはどうでしょうか?

本多氏:各地の農協やカット野菜の工場などに機器を置いておけば、見た目の悪い野菜や、キャベツの芯など使わない部分を都度他の野菜や栄養素とミックスして野菜のペーストとして気軽に活用や販売できるようになるかもしれません、工場などで生産しなくても。ポータブル化が進めばお店に置いておいてその場で活用というのもあるかもしれませんね。

シェアラボ編集部:その場で調合して活用というのは漢方薬のお店みたいですねw

⽇本でもフード3Dプリンターを製造しているメーカーは存在

シェアラボ編集部:日本製の3Dプリンターはあるんでしょうか?

本多氏:はい。私たちが実際に販売しているのは武蔵エンジニアリング社の3Dプリンターになります。一台百万円台から、食材を自由な形状で加工できる装置になっています。世界にはベンチャーなどでフード3Dプリンターを作っている会社は沢山あるのですが日本はまだ少ないですね。

未来にむけて取り組んでいる企業や事例は?

シェアラボ編集部:まだ研究段階の取り組みが多いとは思うんですが、未来に向けて取り組んでいる団体・企業があれば教えてください。またこんな取り組みがあるよ、という事例があれば是非伺いたいです。

本多氏:例えば、山形大学さんでは未来のコンビニというテーマでセブンイレブンさんが行ったコンテストにフード3Dプリンターを備えたお店のプラン「コンビファブ」で応募し、賞を受賞しています。

https://cnvfab.yz.yamagata-u.ac.jp/cnvfabtimes/post_conveniencestore.htmlより
「コンビファブ」のイメージ画像
(https://cnvfab.yz.yamagata-u.ac.jp/cnvfabtimes/post_conveniencestore.htmlより)

本多氏コーヒーやお湯がおいてあるコーナーにフード3Dプリンターが並んでいるんです。冷凍コーナーや冷蔵コーナーで食材になる材料を買って、フード3Dプリンターに投入すると、持って帰れる自分だけの食材を手に入れることができるわけです。ネットで注文して持って帰れるようになったら便利だ、など発想が広がるとても面白いプランですよね。

その他でいうと有名な取り組みが「Sushi Singurarity」というプロジェクトです。海の食材を3Dプリンター用に加工して、いままでにないアートな形状の新しい寿司店を出店するという計画なのですが、『測定キットを事前に送り、来店者の健康状態を測定し、その方に合った食材を提供する』というコンセプトが、エポックメイキングだったと思います。(編集部注: Sushi Singurarity の公式サイトでは202X年、東京に開店予定とあるが時期は未定の様子)

フード3Dプリンターが普及していく上での課題は?

シェアラボ編集部:今までにない取り組みがフード3Dプリンターで実現できる可能性があるのですね。食は非常に身近なテーマなので一消費者としても楽しみです。そんな未来が到来するために解決しなくてはいけない課題はどんなものがあるのでしょうか?

本多氏:そうですね。私が感じているのは、フード3Dプリンターを使っても、調理しないと食べることができない点が大きな課題だと思います。また、味や匂い、食感に取り組んでいる食品メーカーがまだ少なく、フード3Dプリンターに実際に触れることができる場所がない点も課題でしょう。私たちは実験的にスーパーのイオンでフード3Dプリンターを使った体験試食イベントを行ったことがありますが、その際は大変な活況でした。やはりまだ知っている方が少ないので物珍しいのでしょう。ただ気に入っても、まだフード3Dプリンターは高額なので、どこにでもあるものではありません。街角のお店にあるわけではないんです。この辺りは本当に卵が先か鶏が先か、という話なのですが。大きく導入を促進するきっかけになるキラーコンテンツのようなものが見つからないとこの流れを変えるのは難しいと感じています。

3年後、5年後、フード3Dプリンターはどのように活⽤されているのか?

シェアラボ編集部:3年後、5年後のフード3Dプリンターはどんな発展を遂げていると思いますか?どのように活用されるようになってくるのでしょうか?

本多氏:いま上げた課題が全部解決されているのが、3年後、5年後だと思っています。豊富な選択肢で見た目や味、食感や食べたいメニューを選ぶことができて、それが個々の人の健康や宗教やなどを加味した内容になっている。必要な情報がデータベースとして蓄積されていて、だれでも自分の情報に自由に安全にアクセスできるプラットフォームがあり、必要な場所にフード3Dプリンターが設置されている、そんな姿ですね。

シェアラボ編集部:まだまだ課題は多そうですが、家電のような感じで普及しているのかもしれないですね。そんな未来になったらダイエットも簡単そうです。。。是非そんな未来を体験してみたいです。その際に気になるのは、どんな人たちが未来を作っていくのでしょうか?農水省などの政府機関の支援はありそうでしょうか?

本多氏:アカデミアの研究者の方々の活動はさまざまな可能性を切り開いてくれると思います。山形大学さんや大阪大学さんの取り組みは今後数年でさらに進むでしょう。農水省も本流の方々が、フードロスの削減や六次産業の推進など、さまざまな観点からフード3Dプリンターに大きな関心を払っている状況もあります。食品メーカーや飲食店の方々の関心も大きいといえるでしょう。ですがまだまだ関心以上のものではないので、イノベーターとなる人たちが、社内で啓蒙活動を行っている状況です。彼らが突破口となり、革新的なサービスを生み出し始めると、大きく動きがでてくるのではないでしょうか。

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編集後記

世の中でバリアフリーが叫ばれてもう結構経つ。ただ現状は肉体的なバリアフリーにしか触れられていない事が多い。食は生きるために必要な大きな要素だ。コロナの後遺症で味覚がなくなり、食べることに対してのストレスが大変だという話を聞いた事がある。単に奇抜なだけの見た目は必要ないが、最低限の食の豊かさが人々の生活や人生に活力を与えてくれる。まだまだ課題は多いが「食のバリアフリー化」は今後必須になってくるのだろう。

シェアラボ編集部では、研究開発や政策立案、実証実験などを通じてこうした未来を作ろうとする取り組みを今後も取り上げていく予定だ。

フード3Dプリンティングの関連情報

システム開発会社のエンジニア、WEB制作会社のディレクターなどを経て独立。現在は企業コンサルティング、WEBサイト制作の傍ら3Dプリンターをはじめとしたディープテック分野での取材・情報発信に取り組む。装置や技術も興味深いけれど使いこなす人と話すときが一番面白いと感じる今日この頃。

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