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ShareLab NEWSハイライト記事 ー 2023年8月

serendix50(フジツボモデル)

毎日こまめに3Dプリンター関連のニュースを追いかけるには、時間と労力が必要だ。そこでShareLab(シェアラボ)編集部では月に1回、その月で何があったかをまとめるハイライト記事をまとめている。2023年8月の日本は酷暑や異常気象に見舞われたが、住宅・建築関連で大きな動きがあった。世界的にはメディカル分野でのいままでにない取り組みも多く報告された。

医療業界と3DP活用

★3Dプリント矯正器具の事業拡大に向けて8,000万ドルを調達 ― LightForce Orthodontics

歯科分野における3Dプリント技術の導入は著しく、Grand View Researchによると、歯科用3Dプリンティングの世界市場規模は、
2022年だけで25億ドルと評価されている。アメリカのマサチューセッツ州に拠点を構え、3Dプリント技術を使用した歯列矯正システムを製造するLightForce Orthodontics社が、新たに8,000万ドル(約116.5億円)の資金を調達したことがわかった。2021年に行われた5,000万ドル(約73億円)の資金調達に続くものとなった。調達した資金は生産規模の拡大やAIを用いたデジタルワークフローの導入、教育への投資に加え、マサチューセッツ州ウィルミントンにおける36,000平方フィート(約3350㎡)の製造施設の新設などに活用される。その中で今回のLightForce Orthodontics社の8,000万ドルに及ぶ資金調達は歯科用3Dプリンティングの需要と
市場規模の大きさを象徴するものとなった。

がんの新たな治療法となりうる3Dバイオプリント技術を開発 ― KRIBB・KIMM

韓国科学情報通信部が所管する韓国バイオサイエンス・バイオテクノロジー研究院(KRIBB)は、韓国機械材料研究院(KIMM)との共同研究で、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)をハイドロゲルに内包するバイオ3Dプリント技術を開発した。NK細胞はウイルスや腫瘍細胞の形成に反応し、人体に有害な細胞を選択的に除去する白血球だ。外部から侵入したウイルスではなく、内部で感染した苦痛を受けた細胞を除去する点に特徴がある。今回開発された技術を用いれば、NK細胞の損失を防ぎ、大部分が腫瘍細胞に留まれるため、がん細胞への効果的な働きかけができるようになると期待される。今回、KRIBBとKIMMが共同開発したのは免疫細胞の働きを利用してがん細胞を除去する3Dバイオプリンティング技術だ。これは世界で初めてのものとなる。この技術を用いることで、3Dプリンターで作製したハイドロゲルにNK細胞を封じ込め、細胞の損失を防ぐ。それによって細胞の大部分は腫瘍細胞に向かうことができる。ハイドロゲル内に孔が形成され、細胞生存能力を保持したNK細胞が一定時間後に放出されることで、免疫機能が発揮される仕組みだ。

★子供の成長に合わせて成長する3Dプリント人工心臓弁を開発 ― ハーバード大学

小児心臓弁膜症は世界中の子供たちに発症する病気で、患者の成長に合わせて何度も弁置換術が必要だが、高リスクの手術を繰り返すため、体に対する負担も大きく、さらに費用も高額になる。こうした課題に対して、研究チームが取り組んだのは、生体適合性の高い樹脂3Dプリント製部品を患者の心臓が取り込むことで、心臓弁手術を不要にするアプローチだった。開発された「FibraValves」は生分解性ポリマー繊維を使用して製造されており、患者の細胞が移植された足場に付着して再構築することが可能。最終的には生涯を通して成長し、子供とともに生き続けることができる自然な弁を構築できる。このFibraValveはPLCLと呼ばれるポリカプロラクトン(PCL)とポリ乳酸(PLA)の合成材料を、わずか10分で3Dプリントすることができる。患者個人個人で求められる心臓弁の形状や大きさが異なる場合でも、設計変更を行うことで、最適な形状、大きさを実現できる。

人間の心臓の鼓動を模倣した構造を3Dプリントする方法が開発される

ハーバード大学のJohn A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences(SEAS)が主導する研究において、人間の心臓の鼓動を模倣した構造を3Dプリントする新しい方法が開発された。ハイドロゲルにゼラチン繊維を注入した繊維注入ゲル(FIG)インクを用い、研究チームは、追加のサポート材料を必要とすることなく、心臓心室の3Dモデルを正確にプリントすることができたという。研究成果は『Nature Materials』誌上で発表された。

潰瘍性大腸炎治療用3Dプリント医薬品の初のヒト試験に成功! ― Triastek

中国で3Dプリンターを用いた医薬品開発を行うTriastek社が、2023年6月20日に、中等度から重度の潰瘍性大腸炎(UC)治療用の3Dプリンティング医薬品T21錠剤のヒト初(FIH)試験が完了したと発表した。現在市販されている経口薬では困難とされる大腸をターゲットに薬剤を放出できるため、UCに悩む患者にとって大きなニュースであると同時に、T21の新薬承認申請(NDA)取得に向けた大きな一歩にもなると予想される。
FIH試験ではX線による画像診断で消化管内での移行タイミングと位置が観察された。診断の結果、T21錠剤が大腸に正確に送られ、薬物が放出されたことが確認されている。

糖尿病性足部潰瘍の治療用3Dプリント包帯を開発 ― 英クイーンズ大学

イギリスのクイーンズ大学の研究者グループは、糖尿病性足部潰瘍(DFU)を治癒するための革新的な治療法を提供する「3Dプリント包帯」を開発した。この研究は糖尿病管理における画期的な成果といわれておりBiomaterials Advances誌に掲載されている。
この糖尿病用「3Dプリント包帯」は、パーソナライズされた皮膚のような包帯で、3Dプリントの足場の作成に使用される脂質ナノ粒子とヒドロゲルを組み合わせ作成された。「3Dプリント包帯」は、糖尿病性潰瘍を治療するために抗生物質を充填した分子を、大量放出および持続放出する能力を持っている。患者の糖尿病性足場潰瘍を大幅に改善することが示されており、病院内で簡単に製造できる。そのため、将来的にはこれらの「3Dプリント包帯」がより持続可能で費用対効果の高い治療法となるというさらなる利点も見込める。

米3Dプリント研究団体、飛行中の機内で医療用ギプスを3Dプリント ― CAMRE

米3Dプリント研究団体、飛行中の機内で医療用ギプスを3Dプリント ― CAMRE


アメリカの海軍大学院(NPS)で3Dプリントの研究と教育を行う団体「CAMRE」が、2023年6月21日に南カリフォルニアで飛行中のオスプレイ機内での医療用ギプスを3Dプリントすることに成功した。
この実証実験は、CAMREとMarine Innovation Unit(MIU)がカリフォルニア州トゥエンティナイン・パームス海兵隊航空地上戦闘センターで実施された統合訓練に参加する部隊に提供した演習支援の一環として実施された。
演習では海兵隊員の腕を3Dスキャンしたのち、ソフトウェアを使って医療用ギプスの図面を作成。その後、オスプレイが滑走路へ向かうところから離陸・飛行といった動作を行う間に、ギプスそのものが3Dプリントされた。
米海兵隊中佐のMichael Radigan 氏は、「飛行中に3Dプリントできるようになることで、どのようなことが可能になるかは、まだ表面しか見ていません。何十台ものプリンターが航空機にモジュール方式で設置されることで、これまで経験したことのない規模のモバイル生産が可能になります。」と述べている。

3Dプリントを用いた歯科施術トレーニングサービスにおける業務提携を発表 ― DMM.make・DentalPrediction

株式会社Dental Predictionは、合同会社DMM.comが展開するDMM.make 3Dプリント事業と、3Dプリントを用いた歯科施術のトレーニングサービスに関する業務提携を発表した。DMM.make 3Dプリントは、3Dプリンターを活用した製品開発および製造において、国内最大級の設備、顧客基盤、運用ノウハウを備えたサービスビューロだ。一方、Dental Predictionが進めるDenPre 3D Labは、3Dデータ解析技術を駆使して口腔内3Dデータの作成とAR(Augmented Reality)の構築を行い、歯科診療の革新を促進してきた。
両社の業務提携により、Dental Predictionが作成した患者の口腔内3Dデータを、DMM.make 3Dプリントに提供し、DMM.make 3Dプリントは、提供されたデータを基に3Dプリンターで、患者の歯科模型を作成し、依頼歯科医院への郵送手配を行う。

住宅・建設業界と3DP活用

50㎡の二人世帯向け3Dプリンター住宅を愛知県小牧市で竣工 ― セレンディクス

セレンディクス株式会社(兵庫県西宮市)は、2023年7月25日に百年住宅株式会社(静岡県静岡市)の愛知県小牧市工場内において、日本初となる二人世帯向け3Dプリンター住宅 「serendix50(フジツボモデル)」を竣工した。延床面積は50㎡、最大高さは4m。今後は、安全性試験を実施したあと、限定6棟の先行販売を開始する予定だと発表された。販売予定価格は550万円としている。中国メーカーから無償提供を受けた建築用3Dプリンター5台を稼働させて現在も建築を続けている。

日本初の3Dプリンター住宅タウン実現に向けて業務提携を開始 ― セレンディクス

日本初の3Dプリンター住宅メーカーのセレンディクス株式会社(兵庫県西宮市)が、2023年8月21日に不動産会社のヤマイチ・ユニハイムエステート株式会社(大阪府大阪市)と業務提携を開始することを発表した。両社は「世界最先端の住宅開発に関する基本合意書」を締結し、住宅不足や住宅価格高騰化の解決、およびワークライフバランスを両立する、3Dプリンター住宅が立ち並ぶ未来の街づくりについての業務提携を行う。
3Dプリンターの最先端技術を用いた住宅も、建てるには土地が必要だ。そこでヤマイチ・ユニハイムエステート社との業務提携により、土地の価値を活かす開発の知見がセレンディクス社に加わった。「serendix10」や「serendix50」をはじめとした3Dプリンター住宅によって、社会課題を解決した次世代のスマートシティデザインにともに取り組むとしている。

セメントを用いない世界初のジオポリマー製3Dプリントハウスが実現

3Dプリント関連企業のRENCA社が開発したジオポリマー3Dプリントモルタルが、世界初の3Dプリントジオポリマーハウスの建設に使用された。ジオポリマーとはアルミナシリカの粉末とアルカリ溶液を混合したセメントの代替材料だ。セメントよりも製造過程における二酸化炭素の排出量を大きく削減できる環境配慮型の建材として、注目を集めている。
ジオポリマー3Dプリントモルタルには以下のような特徴がある。
・硬化するまでの時間が短いため、作業を中断せずにプリントできる
・強度が高い
・1200℃まで耐えられる優れた耐火性がある(1000℃で2時間の耐火性試験に合格)。
・耐食性があり、海の塩や潮風の影響を受けない。海辺の構造物にも使用可能。カビや酸にも強いので下水管や水道管の改修や化学容器などにも使用できる。
・また、セメント、石灰、石膏を一切含まないため、通常のセメント系類似材料よりも最大90%持続可能であるとされている。
RENCA社のジオポリマー3Dプリントモルタルを使った3Dプリント住宅の建設は、アメリカ西部の砂漠で行われた。そこは強風が吹き荒れ、湿度はほぼ0%の乾燥した場所で、昼夜で気温が40℃から10℃まで変化するほどの過酷な環境だったという。そのような場所での3Dプリント住宅の建設が成功した要因の1つとしては、建設材料として優れていることが挙げられる。
今回のジオポリマー3Dプリントモルタルは混合手順に特別なアプローチが必要であり、セメントベースの製品とは異なるため、安定利用のためのノウハウ開発が進んでいるという事だ。

英ケンブリッジ大学がコンクリート3Dプリントプロジェクトの開発を支援

イギリスのケンブリッジ大学とNational Highways社などが参画する合同プロジェクトにおいて、国道に用いられるコンクリートの建造物にセンサーなどを埋め込んだ3Dプリントプロジェクトに取り組んでいる。
最初の取り組みは、暗渠やトンネルに用いられる「ヘッドウォール」と呼ばれる箇所の施工が選ばれた。「ヘッドウォール」の構造は一般的にプレキャストコンクリートで作られており、大規模な鉄筋補強を利用し形状は限られていた。
今回のプロジェクトでは土木用3Dプリンターを利用。大規模な鉄筋補強を使わずに、湾曲した形状でも強度を維持する構築だ。その際の強度は鉄筋からではなく、3Dプリントの幾何学形状から得られるという。わずか1時間ほどでプリントされた壁は、高さ約2メートル、幅約3.5メートルだ。グロスターシャーにある先進的エンジニアリング会社Versarienの本社で、ロボットアームベースのコンクリートプリンターを使用して印刷された。3Dプリントを使用して壁を作成すると、コストや二酸化炭素排出量が大幅に削減できる。

環境負荷低減に貢献する建設物の製造実験を開始 ― 金沢工業大学

金沢工業大学(石川県野々市)は、3Dプリンターで造形した部材に、CO₂を強制的に吸収させるための「炭酸化養生装置」を設置し、環境負荷低減に貢献する建設物の製造実験を開始した。実験は金沢工業大学やつかほリサーチキャンパス内の「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」で行われている。
これまで、金沢工業大学は鹿島建設株式会社(東京都港区)と共同で、建設分野向けのセメント系3Dプリントに使用する材料に、環境配慮型のCO₂吸収コンクリート「CO₂-SUICOM」の技術を取り入れる「カーボンネガティブ3Dプリンティング」に関する研究開発を進めていた。
「CO₂-SUICOM」は、鹿島建設と中国電力株式会社、デンカ株式会社の3社によって開発されたもので、その製造過程で大量のCO₂を強制的に吸収・固定化させる。コンクリート製造におけるトータルのCO₂排出量をゼロ以下にできる世界で唯一のコンクリートとして、2023年度中にはカーボンネガティブ3Dプリンティングによる製作物を北陸地方の自治体の公共の場に設置することが目標であると発表している。

日本初!3Dプリンターで印刷したサウナ施設のオープンを発表 ― Polyuse

株式会社Polyuseは、高知県の和(かのう)建設株式会社と、「建設用3Dプリンター」で作られた一般利用が可能な常設のサウナ施設を2023年11月にオープンすると発表した。同社によると日本で初めての3Dプリンター製サウナ施設になるという。
サウナメランジュは国内初となる3Dプリンターによって製造されたフィンランド式サウナ施設となる。洞窟をイメージした内部空間では天井部の小さな穴から差し込む自然光と間接照明により、ほんのり浮かび上がる3Dプリンター独特の波のような積層模様を見ることができる。サウナの隣には水風呂棟を併設し、外気浴はサウナメランジュの屋上部分に設けたウッドデッキで波の音をBGMに海を眺めながらの贅沢なひと時を過ごすことができるようだ。設計・運営監修は全国的にもファンの多いSAUNAグリンピアの吉永幸平氏が担っている。

その注目の取り組み

さわれる!ユニバーサルデザインの落語絵本制作に3Dプリンターを活用

落語家の春風亭昇吉氏が、古典落語の点字絵本と登場するモノの触図を3D化して、誰もが楽しめるユニバーサルデザインの落語絵本を制作する。支援を募るためクラウドファンディングプロジェクトを立ち上げた。支援募集は2023年9月30日の23時まで。
制作される絵本には、落語に登場する人やモノ、長屋などの建築物を触って楽しめるよう、3Dプリンターで立体化するための3Dデータが付属する。プロジェクトの目標金額は300万円で、目標金額を達成した場合のみ、集まった支援金を受け取れる「All-or-Nothing方式」で行われる。今回、春風亭昇吉氏が触って楽しめる落語絵本制作のクラウドファンディングプロジェクトを立ち上げたのには、学生時代に行った盲学校でのボランティア公演がある。そもそもきちんと伝わるのかという不安のなか行われた公演は、予想に反して大成功だったという成功体験を持っている。
今回はより実感できる落語体験を目指し、点字の絵本を作るだけでなく、落語に登場する人やモノ、長屋などの建築物を触って楽しめるよう3Dプリンターで立体化するといった工夫を施す。落語の世界観を具現化し、目が不自由な人だけではなく、どんな人でも楽しむことができる「ユニバーサルな落語のカタチ」の実現は果たして成功するか。刮目して見届けたい。

2023年8月まとめ

メディカル分野と建築分野のトピックスが多く取り上げられた2023年8月。また米国企業の四半期決算の報告も相次いだ。3Dプリンター各社の決算に関しては9月度にまとめて報告したい。

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