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ShareLab NEWSハイライト記事 ー 2022年11月

pet&3D

毎日こまめに3Dプリンター関連のニュースを追いかけるには、時間と労力が必要だ。そこでShareLab NEWS編集部では月に1回、その月で何があったかをまとめるハイライト記事をまとめている。2022年11月はJIMTOFなどの大型イベントがあり、情報量が多い月だった。

市場動向:マクロ環境は逆風だが、堅調に成長する3Dプリンティング関連市場

コロナ禍、半導体不足、船舶の輸送料金の高騰、飛行機便がロシアのウクライナ侵攻で迂回航路を強いられる、米ドルの高騰、円安と非常に装置や材料を輸入に頼る割合が高い日本の3Dプリンター業界にとっては風向きが悪い状況が続いている。そんな中ではあるが、世界的にみると、3Dプリンティング関連産業は順調に成長を遂げているようだ。

3Dプリンター世界市場は前年同期比で27%成長!2022年第2四半期ーSmarTech Analysis
スマーテックアナリシス社によると、2022年第二四半期は前年同期比で27%の成長を遂げているという。また金属3Dプリンターに関連市場に関していうと、年率23.9%の成長を遂げているという報告もある。
金属3Dプリンティング市場は年率23.9%の成長を続ける見込みと報告ーグランドビュー・リサーチ
マクロ環境は悪化しているが、それにも関わらず、市場が成長しているのは、それだけのポテンシャルが3Dプリンティング技術にあることの証左でもあるが、逆にグローバルなサプライチェーンのシステムリスクに備えるために、3Dプリンティング技術に注目が集まっているという側面もある。

見直されるローカルな調達

アメリカのバイデン大統領は、フォワードという国内産業を支えるトップ企業に参画を呼び掛け、自社調達で3Dプリンティング技術を活用するように働きかける政策を採用した。ロシア・ウクライナ戦争は世界経済がもはや一枚岩とはいえないことを明確に示してしまっただけに、ローカルな調達網に対する再評価がされた形だ。

日本の取り組みの現状と課題

そんな情勢下ではあるが、日本はまだ海外に比べるとAM導入、活用が限定的と言われている。その理由をJ3DPA(日本3Dプリンティング産業技術協会)の三森氏に伺うと国産の3Dプリンターベンダーが少ないために、日本の製造業が求める技術サポートが十分提供されていないという問題提起がなされた。

「AMに取り組まない3つの理由」を乗り越えるためにはバリューの理解が必要ー日本3Dプリンティング産業技術協会(J3DPA)日本のメーカーであれば、日本のユーザーの徹底的な品質への取り組みを理解できる。しかし外資のメーカーでは日本のユーザーの徹底的な技術探求への姿勢が過剰な品質を求めるクレーマーに見えているのかもしれない。契約上ここまで、と線を引く文化である欧米系企業は特にそうだろう。明確に日本メーカーが求める精度でモノづくりができる装置であれば問題がないだろう。しかし3Dプリンターはまだ発展途上中、粗削りな面も否めない。そうした点を指摘した三森氏は、しかし日本の製造現場に強い可能性も見い出していた。3Dプリンターにとり組むべきバリューが明示できれば、現場は動く。まずバリューの理解が重要だとするJ3DPAの理解には説得力がある。

JIMTOFでは精度に向き合ってきた工作機械メーカーがユーザー事例を数々紹介

そんな中ではあるが、11月はJIMTOF(ジムトフ)が2年の1回の開催を迎えた。今回はリアル開催としては、実に4年ぶり。東京ビッグサイトを丸ごと一つの展示会が借り切るのは並大抵の集客力ではない。本丸の東棟では、工作機械のメーカーたちが、赤じゅうたんの左右に実機をならべて非常に豪勢な陣容で来場者にアピールを行っていた。

JIMTOFでは1台数千万円から1億円以上する高級機に金属3Dプリンターが組み込まれた複合装置の利用ユーザーの事例が数々紹介されていた。中でも注目したいのが、金型を金属3Dプリンターで造形しながら、切削加工で仕上げるタイプの工作機械だ。金型の製作にはノウハウが求められるが、従来の工法では、加工点が多すぎて造形が不可能だった構造も金属3Dプリンターで造形できる。金型が安く早く用意できれば、モノづくり全体の開発プロセスが早くなる。また金型が高機能化、複雑化すれば、金型を利用して生産できる商品や部品が大きく変わる。

金型がかわればモノづくりが変わるのだ。そんな可能性の話を、金型メーカーが率先して取り組み、実例を発表している姿が非常に印象的だった。まさに細かい点までもユーザーに向き合って答えてくれる存在が工作機械メーカーなのかもしれない。

【速報】JIMTOF2022!東京ビッグサイト南館のAMエリアの熱気

<アプリケーション紹介>

日本で世界で着実に進む3Dプリンティング技術活用。毎月のように取り上げている建築分野以外にも2022年11月は軍事、フード、ペットに関しても取り上げる。

軍事産業と3Dプリンター活用

3Dプリンターを誰がどんな目的で活用しているかは、多くの人の興味を引き続けている問題だ。いままで切削や鋳造で対応していた兵器開発にも3Dプリンターは利用されている。航洋護衛艦として対潜防空の任を負うハンター級のフリーゲート艦の建造に金属3Dプリンター製の部品を活用することとなった。
AML3Dがオーストラリア海軍向けの軍艦用試作部品を金属3Dプリンターで製作
軍艦に実際に利用される最終部品ではないようだが、金属3Dプリンターを利用して、試作品を造形する動きがオーストラリアで進んでいる。

住宅産業と3Dプリンター活用

マイティービルディングはZEH住宅と日本で呼ばれるような、住宅で生活する際に必要となるエネルギー消費量を自家発電などの手段で自給自足できる住宅を目指している。3Dプリンターで造形した住宅でエネルギー効率が良く、消費エネルギーを充足できる仕組みを実現している点で世界初を名乗っている。

世界初!3Dプリント住宅による「ゼロ・ネット・エネルギー」住宅建設ーーMighty Buildings

セレンディクスは、慶応義塾大学などと連携し、3Dプリンターで造形できる住宅を開発してきたが、施工は施工会社とのパートナリングで実現する方針だ。今回は世界5カ所で同時に建材を生産するという世界平行生産を実施したが、3Dプリンターで異なる拠点で同時にモノづくりを行うことができることを証明した。並列生産を実現できたことで、大規模な建材生産設備を持たなくてもパートナリングを通じて生産能力を維持できることを証明した。現在非常に多数の引き合いを得ているセレンディクス社だが、大量の受注が実際に成約しても、対応できるキャパシティを確保できることを示すデモンストレーションは成功だったといえるだろう。

日本の3Dプリント住宅メーカー、3Dモデルを世界5カ国で並列生産に成功!ーセレンディクス

食品業界と3Dプリンター活用

将来を見据えた際に、最も私たちの生活に密着した3Dプリンターとして生活に溶け込む可能性があるのが、フード3Dプリンターだ。介護食やダイエット食のような一人ひとりの体調や健康上の目標に応じて最適化された食生活を具現化するために3Dプリンターが家電の一つとして導入されている可能性も十分ある。(家庭用のウォーターサーバーのような位置づけになっている可能性もあると思われる。)そんなフード3Dプリンターに関して日本の大学機関でも研究が進んでいる。
大阪大学の研究チームは、2次元コードの形状を食品の内部構造に埋めこんで、光を当てることで読み取れるかを実証実験した。二次元コード経由でウェブサイトに誘導すれば、食品の持つアレルギー物質の有無やおいしい食べ方などの他に、企業のPRなどにも利用できる。二次元コードが印字された食べ物は食べるのに抵抗がある人でも、内部構造に埋め込まれていれば抵抗感は少ないだろう。
フード3Dプリンターを活用し食品の内部に2次元コードを造形し食をDX化ー大阪大学

また武庫川女子大学では、豆腐をインクにしたフード3Dプリンティング技術に取り組んでいる。添加物で栄養素や味を整えることで自由な形状を持った食品を生産できるようになれば、個人の好みに応じたダイエットや適切な食事療法の可能性がひらけるし、歯が不自由になったシニアにも食べる喜びを取り戻すことができるだろう。
3Dフードプリンターのインクとして豆腐を使う研究ー武庫川女子大学
発展途上中の段階だが、フード3Dプリンターによる食生活提案は着実に進展していると言えるだろう。食品製造ラインとの親和性も高い機構なので、技術的な確率を見た後に実際に大量生産が始まる未来もあるかもしれない。

ペット産業と3Dプリンター活用

ペットを飼っている人の中には、ペットは家族の一員と考えている人も多いだろう。そんな飼い主のペットへの愛に着目し、
愛をまさに形にするサービスが始まっている。ペットを全方位からカメラで撮影し、3Dモデル化し、3Dプリンターで造形するサービスが始まっている。同種の取り組みは複数存在するが、好きな大きさに造形できるので、職場に連れていけないペットをフィギュア化して机の上に飾るなどの楽しみ方もできるだろう。
3Dフォトスキャンで自分のペットのフィギュアを造形できる世界唯一のサービス「Pet & 3D」が開始

こうした直球の愛以外にも、目が不自由になったペットの身を守るツールを開発し、販売している事業者もいる。犬は鼻がよい生き物だが、目が見えなくても何不自由なく歩けるわけではない。けがや病気で目が不自由になった犬は、壁や障害物にぶつかると、意気消沈して外出を嫌がるようになるという。痛みと自尊心を失う犬の心痛は考えるだけで痛ましい。そんな犬の苦しみを軽減するために、体を守る専用のバンパーの販売を始めているという。体のサイズに合わせてバンパーの大きさを調整できるということで、一人一様の取り組みを実現している。
失明した愛犬の歩行を補助するバンパーを開発ーAtomicWorks合同会社

11月も多くのテーマを取り上げたが、非常に具体的なアプリケーションが増えてきた印象だ。しかも私たちの生活により近い事例や挑戦が増えてきた。生産現場で製造を支える工業用生産装置としての進化とあわせて、生活に入り込み、私たちの毎日を豊かにしてくれる家電としての成長の可能性も秘めている3Dプリンター。マクロな経済環境の好不況に影響を受けつつも、着実に存在感を増していると言えるだろう。

 

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