化学産業向け触媒の大手メーカーであるBASFは、ドイツ・ルートヴィヒスハーフェンにおいて、3Dプリント触媒の量産工場を開設したと発表した。3Dプリント触媒を産業スケールで生産する世界初の施設となる。近年、付加製造(AM)の活用は試作から量産へと広がりを見せているが、化学触媒という基幹プロセス領域での本格導入は、製造業にとっても注目すべき動きである。
目次
触媒を「形状」で最適化する3Dプリント
触媒とは、化学反応の速度を高める一方で自身は消費されない物質である。従来の触媒は主に成形・焼成などの工程で製造されてきたが、形状設計の自由度には限界があった。BASFは独自の「X3D®」技術により、2019年から触媒の3Dプリントを開始。従来の活性材料と新しい成形アプローチを組み合わせることで、設計自由度と性能を両立させている。
特徴は以下の通りである。
- 開放構造による圧力損失の低減
- 高い機械的安定性
- 触媒活性表面積の増大
これにより、反応器内の流体抵抗を抑えつつ、反応効率を高めることが可能となる。結果として、処理能力向上、製品品質改善、エネルギー消費削減を同時に実現できる。

実証済みの経済効果 年間数千万円〜数億円規模の改善
すでに複数の化学プラントで導入が進んでおり、具体的な成果も報告されている。例えば、日産32トン規模のスルホン化プラントでは、従来の触媒層(1.2m³)をX3D®触媒に置き換えた結果、年間10万ドル(1ドル150円換算で約1,500万円)のコスト削減を実現した。
内訳は以下の通りである。
- 収率1%向上による生産増
- 苛性ソーダ使用量の削減
- 圧力損失低減による省エネ
さらに、N₂O除去触媒の事例では、年間300万ユーロ(1ユーロ160円換算で約4億8,000万円)以上のコスト削減が報告されている。中国の化学メーカーでは、導入後に生産量が過去最高を記録するなど、実運用においても明確な成果が確認されている。

量産体制で普及加速へ
今回の量産工場の稼働により、これまで限定的だった3Dプリント触媒の供給が拡大する見込みである。顧客ごとのプロセスに最適化された触媒を、短期間かつ大規模に提供できる体制が整った。これは単なるコスト削減にとどまらず、化学プラントの設計思想そのものを変える可能性を持つ。従来は設備に合わせて触媒を選定していたが、今後はプロセスごとに触媒形状を最適設計する流れが現実味を帯びてきた。
編集部コメント
3Dプリンターの産業用途として「治工具」や「最終部品」はよく語られるが、今回のBASFの事例はそれとは異なるレイヤーにある。触媒は製造プロセスの“中核機能”であり、その形状を変えることでエネルギー効率や収率が直接変わる。つまり、これは部品置き換えではなく「プロセス最適化そのもの」である。日本の製造業でも、化学・エネルギー・環境分野を中心に同様のニーズは確実に存在する。特に脱炭素や省エネが求められる中で、こうしたアプローチは今後さらに重要性を増すと考えられる。3Dプリンターが「設備改善ツール」から「プロセス設計ツール」へと役割を拡張していることを示す好例である。
用語解説
| ■ 触媒(Catalyst) 化学反応の速度を高める物質であり、自身は反応後も消費されない特性を持つ。工業プロセスでは生産効率やエネルギー消費に大きな影響を与える重要な要素である。 |
| ■ X3D®技術 BASFが開発した3Dプリント触媒技術。従来の触媒材料に加え、3Dプリントによる自由な形状設計を組み合わせることで、反応効率やエネルギー効率の向上を実現する。 |
| ■ 圧力損失(Pressure Drop) 流体が装置内を通過する際に生じる圧力の低下。圧力損失が大きいほどエネルギー消費が増加するため、化学プラントでは重要な設計指標となる。 |
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