木材のようなテクスチャでの3Dプリントが可能に―Luxion/ストラタシス
フルカラー3Dプリンターは素材である材料に自由な色を付加できる装置だが、単色の塗りだけであれば塗装との違いがなかなか分かりづらかった。後処理で表面を磨くのであれば、その後に塗装したほうが仕上がりがよいと考える方も多いだろう。しかしフルカラー・マルチマテリアルの3Dプリンターであれば、色だけではなく布や木材のような質感も表現できる可能性がある。(写真は米プライオリティデザイン社のモバイルスピーカー:プレスリリースより)
そんな可能性を引き出すためのソフトウェアと3Dプリンターの連携をよりスムーズに実現したのが、3DプリンターメーカーのStratasys(以下、ストラタシス)が開発製造するPolyjet方式フルカラー・マルチマテリアルの3DプリンターJ55/J8シリーズとLuxion社の3Dレンダリングソフトウェア「KeyShot 10」の連携だ。
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3Dプリンターが木目や布の質感まで表現する
写真を見てみると自然な木目柄が表現できていることがわかる。こうした木目の表現には、色、材料、仕上げ(CMF:カラー、マテリアル、フィニッシュ)の正確なシミュレーションが必要になってくる。従来こうしたシミュレーションは材料ごとの特性や発色を考慮するために、何度も試験造形を繰り返しながら設定を煮詰めていく必要があった。
この従来手法を変えることができた一つの理由が、STL、OBJ、VRML形式ファイルに比べ大幅な色味や質感を表現できる3MFファイル形式である。ストラタシスのフルカラー・マルチマテリアル3DプリンターJ55/J8シリーズとLuxionの「KeySho」tの最新バージョンは、この3MFファイル形式に対応している。
3MFファイル形式は、ストラタシスが主要メンバーとなっている3MFコンソーシアムが作成したオープンソース・ファイル・フォーマットだ。この3MF形式のファイルはモデルの内部やメタデータのボクセル・レベルでの制御を可能にしており、すべてのモデル情報を1つのパッケージに収めている。集約管理することでワークフローの改善を目指しているファイル形式だといえる。
3MF形式ファイルでストラタシス社の3Dプリンターができること
他の3Dプリンティング企業も3MF形式に対するサポートを提供している中で、2020年11月現在、ストラタシスだけが3MFフォーマットの機能のメリットをフルに発揮できるPANTONE®認証済みフルカラー・マルチマテリアル3Dプリンタを提供しているようだ。(「KeyShot」に加え、ストラタシスはSOLIDWORKS®など、多数のアプリケーション向け3MFのサポートも提供している。)
この3MF形式で設計データを保存することで、「KeyShot 10」で布や木材のようなテクスチャを3次元でシミュレーションするための正確な色やバンプ/ディスプレイスメント・マップとともに、3D造形用ファイルの作成が可能になるという。今回のストラタシスとLuxionの連携を皮切りに、2021年に更なる機能強化が予定されているとのことだ。
発展:STLファイルと3MFファイルの原理上の違い
よく耳にするSTLファイルと3MFファイルの原理上の違いにも触れておく。STLは、層を積み重ねた輪切りのデータを立てに積み重ねていく考え方でつくられたデータ形式であるのに対して、3MFは本格的にボクセルを念頭において作られたデータ形式だ。
ボクセルとは、x方向とy方向から構成される平面に点をならべて画像を表現するピクセルという概念を元に、z方向(高さ方向)に点をならべて立体を表現する考え方である。
ボクセルの原理に基づいたデータを扱える3Dプリンターでは、点の積み上げ方の密度や、個々の点に色や物性が異なる粒子を正確に配置することで、複数材料の混合や高い密度での造形などを3Dプリンターがコントロールすることができるようになる。例えば、一本の棒の先端と中ほどの部分で、まるで違う材料で造形したような材質の違いを一体造形して再現できる。
プライオリティ・デザイン社の場合
実際にストラタシスのPolyJet方式3Dプリンター「J55」と3MF形式で実現できる色や質感の再現性を活かしたモノづくりを行っている企業が、アメリカの工業デザインを専門に行う設計会社プライオリティ・デザイン社だ。プライオリティ・デザイン社では主に試作分野でストラタシスのPolyJet「J55」を利用しており、試作品のデザインを評価する際に活用している。
最初にSolidworksで設計されたプロダクトの設計データに対してKeyShotを用い、色・材質・仕上げに関するデータであるCMFオプションを選択する。ここで色や木肌の質感といったテクスチャをデータに付与するわけだ。その後、3MFファイル形式で書き出し、ストラタシスが用意している造形用のアプリケーションGrabCADPrint™にデータを取り込み、3Dプリンターで造形しているという。
以前は、この部分をモデル化するのに1週間以上かかっていたでしょう。KeyShotとJ55を使用すると、ファイルを送信して印刷し、翌朝それが完了します。
Billy Rupe、PriorityDesigns, proto type specialist
「J55」ではパントンカラーに対応しているので、手書きのラフデザインを描く際に見ていた色見本帳のパントンカラーをそのまま指定できるなど、3Dプリンターの付属ソフトウェアも長足の進歩を遂げている。しかしながら、仕上がりの質感や詳細な色指定を、手動でパラメータ設定を行っていくのは大変な作業だろう。それぞれ違う質感に見えるように後加工を加えていくと複数の加工者の手を経ることになるので、リードタイムも加工費用も発生する。
プライオリティデザイン社には社内にCNC切削加工機など複数の加工設備が備わっているが、3Dプリンターで直接製造することができることで、試作造形のリードタイムの軽減を実現していると言えそうだ。実際に同社のスタッフによると、3Dデータから直接造形できることで、一晩で5個の試作品を造形したとのこと。人材が競争力の源泉であるデザイン会社にとって、時間の削減はコストの削減に等しく、大きな効果を得ているといえるだろう。
デジタルなモノづくりは設計者に負担がかかる。負荷を軽減するツールの活用がカギに。
3DCADに精通した熟練設計者にとってさえ、設計は単純な作業ではない。製造可能で意図通りの設計に落とし込むためにスキルとノウハウを費やす。ましてや、設計者のデジタルデータを直接3Dプリンターで造形できるデジタルなモノづくりにおいては、設計担当者、製造担当者がそれぞれ分担していた試行錯誤やノウハウを設計者が負担する傾向にある。
こうしたデジタルなモノづくりを円滑に活用していくには、やはりデジタルツールによる支援が有効だ。名称や概要説明だけみても違いが分かりにくいが、AM関連分野では複数のソフトウェアが存在しており、それぞれ補完し合って足らずを補っている状況だ。設計者、造形者の負担を軽減するためのソフトウェアを見極めながら上手に活用していくことが必要だろう。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。