デザイン×AI×3Dプリンターでこれまでにない器を作るー「mitate」プロジェクト
デザインスタジオ quantumは、独自開発したAIや3Dプリンターの活用により、動植物を模した器の開発を行った。日本古来の美的アプローチ「見立て」を現代風にアレンジしたアートとテクノロジーを融合させた取り組みだ。(写真はブロッコリーとブロッコリーから見立てられた器。出典: quantum)
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伝統の「見立て」をAIと3Dプリンターを使って現代風にアレンジ
日本庭園の枯山水や、和菓子、陶芸の器などでは、対象を他のものに「見立て」デザインがなされる。そこに水など存在しないのに、流れる水を感じさせるのは、対象の特徴を上手く捉える作り手の表現力によるものだ。
では、この見立てをAIにさせるとどうなるのか?
デザインスタジオ「quantum」が取り組む「mitate」プロジェクトでは、器の画像を学習させたAIを用い、動植物に見立てた器のデザインを試みた。デザイナーの知識・経験だけでは創造し得ないアイデアをAIと共に考え、デザインを完成させることを目指す。
そして、完成したデザインは、ストラタシス社の高精度フルカラー3Dプリンター(J850 Prime)によって実際に製作され、2022年10月21日~30日まで開催されたデザイン&アートフェスティバル DESIGNART TOKYO 2022の出典プロジェクトで展示された。
アート分野でも進むAIによる自動設計「mitate AI」
このプロジェクトの核となるmitate AIは、GAN(Generative Adversarial Network)というAIの一形態を基に、quantumが独自に作り上げた。
まず、mitate AIに、用意した数百種類の器画像を学習させ、色、模様、輪郭、光沢などの特徴を抽出させる。すると、学習したmitate AIは、「器のような画像」を作り出す能力を獲得する。
こうして学習したmitate AIに、特定の画像データを入力し、「この画像を元に、器の画像を作成せよ」と指令を下すと、「AIが見立てた器の画像」が完成する。
この時点では「2次元の画像データ」であるため、現実の器とするためには、これを3Dデータに変換しなければならない。ここでは、デザイナーの手も介在する。
画像データには存在しない「手触り」や「重量感」を補足し、完成した3Dデータをプリンターに入力して、器の完成だ。
「mitate」プロジェクトは、本プロジェクトのために構築した、器の画像を学習させた画像生成系AI(GAN)=「mitate AI」がニューラルネットワークを介して、動植物や景色などの画像の「見立て」を行い、器の画像を生成するところから始まる。例えばパパイアの画像を入力すると、パパイアのような特徴を持った器の画像を、ブロッコリーの画像を入力すると、ブロッコリーのような特徴を持った器の画像をmitate AIが生成する。
3Dプリンティング技術とアート・・・最先端技術で美を表現するチャレンジは続く
思い描いたあらゆる立体形状を現実にする3Dプリンターという装置は、アートやデザインの分野でも広く注目を集めている。
従来、巨大な金属彫刻は、技術面、及びコスト面から、その自由度に制限が存在した。しかし、3Dプリンターを利用することで、その制限は取り払われつつある。
>>オランダの金属3DプリンターメーカーMX3Dが地中を泳ぐクジラの群れの彫刻を金属造形
厳密な構造制御が可能となる3Dプリンターでは、微細加工によって「構造色」という現象をアートに取り入れた。
>>3Dプリンティングを用いた独自の色彩表現「構造色」を生み出した積彩が初の個展開催
ストラタシス社は、主として産業分野で幅広く事業展開しているが、テクスチャを表現する精密加工技術によって、アートやデザイン分野の開拓にも取り組んでいる。ストラタシス社の過去の取り組みについては、以下の記事も参照していただきたい。
>>ストラタシスが7つのデザイングループとコラボレーション、多数の作品を発表
>>画期的な新技術!ストラタシスが生地や衣服に直接プリント可能なファッション向けの新3Dプリンターを開発
>>木材のようなテクスチャでの3Dプリントが可能に―Luxion/ストラタシス
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