日本初(※1)、3Dプリンターによる二階建て住宅が完成 ― 多層階建築の壁を越えた次世代の建設プロジェクト

2025年11月27日
2階建て3Dプリンター住宅。出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)
2階建て3Dプリンター住宅。出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)

2025年11月7日、株式会社築(KIZUKI)および株式会社オノコム(ONOCOM)は、宮城県栗原市において、日本初(※1)となる3Dプリンターによる二階建て住宅の建設を完了した。建築確認・完了検査・販売に至る一連のプロセスをクリアし、次世代建築の実現に向けた大きな一歩を踏み出した。本プロジェクトには、建設、材料、機械、技術など、国内外の20社以上が共創・協業し、産学連携のもとで遂行された。熟練技能者の減少や建設現場の人手不足といった業界課題を背景に、3Dコンクリートプリンティング(3DCP)技術の社会実装に挑んだものである。[※1:日本国内で建築確認を取得し、完了検査を経て販売まで完了した2階建て3Dプリンター住宅としては日本初。(株式会社築(KIZUKI)社調べ/建築確認申請・完了検査・販売実績を基準、調査年月:2025年11月)]

3DCPの課題を突破、多層階建築の可能性を証明

従来の3DCP建築は、国内では主に平屋に限定されていた。これは、建築基準法や構造強度、安全性の制約から多層階施工が困難であったためである。本プロジェクトでは、これらの制約を一つずつクリアし、3DCPによる二階建て建築を国内で初めて実現した。本建築は、基礎から2階建て構造体までを一体で現場印刷した点に特筆性がある。従来の分業体制を排し、一台の大型3DプリンターでRC・鉄筋を除く構造の大部分を一貫施工した。

技術とデザインが融合した「多機能壁」の実装

使用された材料は、タイの大手建材メーカーSCG(Siam Cement Group)製の3Dプリント専用モルタルである。日本の気候や建築基準に合わせた調整を施し、大型プリンターとの組み合わせによって、安全性と精度の両立を実現した。本住宅では、壁面に構造フレーム・設備スペース・デザインの三機能を一体化した「多機能壁」を採用。これにより配管計画の自由度が増し、工程短縮、施工ミスの削減が図られている。内装には、Spacewasp社による樹脂系3Dプリンター製キッチン、積彩社によるインテリアが取り入れられ、先端テクノロジーと意匠性の融合が実現されている。

キッチン(Spacewasp社)出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)
キッチン(Spacewasp社)出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)
インテリア(積彩社)出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)
インテリア(積彩社)出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)

再現性と拡張性を備えた次世代住宅モデル

本プロジェクトは、3DCP技術を多層階住宅に応用したモデルケースであり、将来的な量産によって価格の低減と消費者へのメリットが期待される。また、一度モデルを設計すれば、専門家による都度設計を不要とし、同品質の住宅を短期間で再現することが可能となる。

技術の特徴と成果(既存3DCPと比較した新規性)

出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)
出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)

各社が描く3DCP技術の未来

出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)
出典:株式会社 築(KIZUKI)、株式会社オノコム (ONOCOM)

株式会社 築(KIZUKI)

株式会社築 五十嵐理香(代表取締役)出典:株式会社 築(KIZUKI)
株式会社築 五十嵐理香(代表取締役)出典:株式会社 築(KIZUKI)

「競争から共創へ」を理念に、土木構造物や防災・復興インフラなどへの応用を見据える。今後はデジタル施工管理システムや施工教育プログラムの開発を進め、持続可能な建設産業モデルの構築を目指す。

同社はフィリピンにおいてONOCOMと連携し、技術開発にも着手している。

株式会社オノコム(ONOCOM)

株式会社オノコム 那須 貴寛(General Manager)出典:株式会社オノコム (ONOCOM)
株式会社オノコム 那須 貴寛(General Manager)出典:株式会社オノコム (ONOCOM)

社内にADC推進室(Advanced Design & Construction)を設置し、3DCP事業を本格始動。国内では2階建て住宅の建設に取り組み、海外ではフィリピンにCOBOD社の「BOD3」プリンターを導入。現地の材料を活用し、住宅不足問題(年70~90万戸の不足)への貢献を目指している。

将来的には、商業施設の3D印刷や、コンクリート以外の素材による家具・内装製品の展開も視野に入れている。

建築概要

  • 建物名:Stealth House
  • 所在地:宮城県栗原市
  • 延床面積:49.92㎡(1F:30.52㎡、2F:19.40㎡)
  • 最高高さ:約6.3m
  • 設計期間:2024年9月~12月
  • 工期:2025年3月~11月

設計・構造設計・詳細検討には、ZKIdesign、構造計画研究所、白矩など複数の専門家・企業が関与し、東京都立大学が共同研究を実施している。

プロジェクト参加企業(一部)

LIXIL、積水化成品工業、SCG、昭和化学工業、シーカ・ジャパン、Spacewasp、積彩、JFDエンジニアリング、Studio55、CUPIXなど、国内外から20社以上が参画。


シェアラボ編集部コメント

3Dプリンター建築の国内事例が、ついに“平屋”の枠を超えた。今回のプロジェクトは単なる技術実証ではなく、構造・意匠・設備の統合施工という実用段階に到達している点が特筆に値する。特に、「多機能壁」やデザインの一体成形など、建築プロセスの抜本的な再構築を感じさせる試みだ。

建設業界では、労働力不足や技能継承といった慢性的課題が深刻化するなかで、3DCP(3Dコンクリートプリンティング)の社会実装は“待ったなし”の技術革新といえる。今後は、建築基準法や住宅性能表示制度との整合性が鍵となるが、それを乗り越えれば、住宅建設のあり方そのものが変わる可能性を秘めている。

日本発の“二階建て3D住宅”が示したのは、「建設は印刷できる時代」の幕開けである。


用語解説

■ 3Dプリンター建築(3DCP:3D Concrete Printing)
セメント系材料を用い、型枠なしで建築物の構造をプリントする工法。自由形状の構造物に対応可能で、建設の省人化・短工期化に寄与する。
■ 多機能壁
構造、意匠、配管などの機能を一体化して成形した壁構造。3Dプリンターで一括造形することで、工程短縮と設計の自由度向上を両立。
■ COBOD社 / BOD3
デンマークの建設用3Dプリンターメーカー。BOD3は住宅や中規模建築向けの大型3DCPプリンターで、世界各地で導入実績がある。
■ SCG(Siam Cement Group)
タイ最大の建材メーカー。3Dプリンティング建材を世界展開しており、日本向けに性能調整されたモルタル材料を供給している。
■ ADC推進室(Advanced Design & Construction)
株式会社オノコム内に設置された技術開発部門。3DCP技術の社会実装、国内外での技術連携などを担う。
■ ジオメトリエンジニアリング
複雑形状の建築設計を可能にする幾何学的工学技術。自由曲面や構造強度を両立させるために活用される。
■ デジタル施工管理システム
ICTを活用し、建設現場の工程・品質・進捗を一元管理するシステム。3DCPにおいてはプリンター制御や品質トレーサビリティの要。
■ Spacewasp / 積彩
Spacewasp社は樹脂3Dプリントによるキッチンや家具を手がける企業。積彩はフルカラー3Dプリントによる意匠性の高い製品を展開。
■ Inkjet 4D Print
特殊なパターンをインクジェットプリンターで印刷した熱収縮シートを加熱することで、立体形状に自律変形する技術。東京大学の研究グループが開発。

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