株式会社Lib Work(以下、Lib Work)は、3Dプリンター住宅「Lib Earth House model B」に採用している建築材料について、3Dプリンター用建築材料、その製造方法、ならびに建築物の製造方法に関する特許を取得したと発表した(特許第7784587号)。今回特許化された材料は、土を主原料とし、セメントを一切使用しない点が特長である。従来モデル(model A)と比較して約5倍の強度を達成しながら、建設時のCO₂排出量を一般的な木造住宅よりも抑えられるとしており、3Dプリンター建築における材料面での実用性を大きく高める技術と位置づけられる。
目次
ひび割れ課題を克服する材料設計
Lib Workは、3Dプリンター住宅の実用化を進める過程で、従来モデルにおける材料収縮によるひび割れを課題としてきた。今回の特許技術では、土・砂・消石灰・自然繊維といった自然由来素材の配合を最適化することで、収縮ひび割れを抑制しつつ高い構造強度を確保している。
セメントを用いずに強度を向上させている点は、3Dプリンター建築において材料選定の自由度を広げる要素となり、将来的な用途拡大にもつながる可能性がある。
木造住宅を下回るCO₂排出量
環境性能も本材料の大きな特長である。主原料である土や石灰は製造時のエネルギー消費が少なく、CO₂排出量を抑えやすい。Lib Workの試算によると、延床面積100㎡の住宅において、RC(鉄筋コンクリート)住宅と比較して約50.2%のCO₂排出削減が可能とされている。
この数値は一般的な木造住宅の排出量をも下回る水準であり、3Dプリンター建築が環境負荷低減の観点からも有効な選択肢となり得ることを示している。
循環型を志向した自然素材構成
材料構成の約65%は土と砂で占められており、結合材には消石灰、補強材には自然繊維を使用している。化学物質やセメントを含まないため、将来的な解体時には土へ還すことが可能で、廃棄プロセスを含めた環境負荷低減を意識した循環型材料と言える。

3Dプリンター建築普及に向けた次の段階へ
Lib Workは、今回の特許取得を技術的な基盤として、本材料を用いた「Lib Earth House model B」の建築実証をさらに進める方針だ。3Dプリンター建築は、施工の自動化や省人化が注目されがちだが、実用化に向けては材料性能が大きな鍵を握る。
自然由来材料による高強度・低環境負荷というアプローチは、日本国内における3Dプリンター建築の社会実装を後押しする事例として、今後の展開が注目される。
シェアラボ編集部コメント
3Dプリンター建築は装置や施工プロセスに注目が集まりやすいが、実用化の成否を左右するのは最終的には「材料」である。Lib Workが特許化した本技術は、セメントに依存せず、自然由来素材で強度と耐久性を確保している点が重要だ。特に、従来モデルで課題となっていた収縮ひび割れを克服しつつ、CO₂排出量を木造住宅以下に抑えている点は、日本の建築分野における3Dプリンター活用を現実解に近づける成果と言える。今後、量産性や法規対応を含めた社会実装フェーズでどこまで踏み込めるかに注目したい。
用語解説
| ■ 3Dプリンター建築 建築用3Dプリンターを用いて、壁や構造体を積層造形によって形成する建築手法。型枠を必要とせず、施工の自動化や省人化、自由度の高い形状設計が可能とされる。 |
| ■ 3Dプリンター用建築材料 3Dプリンターによる押出・積層造形に適した建築材料。流動性、硬化特性、積層後の強度などが求められ、通常のコンクリート材料とは異なる配合設計が必要となる。 |
| ■ セメント不使用材料 ポルトランドセメントを用いずに構成される建築材料。製造時のCO₂排出量を抑えられる点が特長で、近年は環境配慮型建築材料として注目されている。 |
| ■ 収縮ひび割れ 材料の乾燥や硬化過程で体積が縮小することにより発生するひび割れ。3Dプリンター建築では積層構造のため、材料設計による抑制が重要となる。 |
| ■ 消石灰 石灰石を焼成して得られる生石灰に水を加えて生成される結合材。古くから建築材料として使用されており、自然由来で調湿性や耐久性を持つ。 |
| ■ 自然繊維 植物など自然由来の繊維材料。建築材料に混合することで、補強効果やひび割れ抑制効果を持たせる目的で使用される。 |
| ■ CO₂排出量削減 建築材料の製造・施工・廃棄までの工程において発生する二酸化炭素排出量を低減する取り組み。セメント使用量の削減は、建築分野における有効な手段の一つとされる。 |
| ■ 循環型建築材料 解体後の再利用や自然還元を前提とした建築材料。廃棄物削減や環境負荷低減を目的とし、サステナブル建築の重要要素とされる。 |
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