3Dプリンターで製作したキノコのなる柱。その製造理由と活用方法とは
3Dプリンターと生物学的なアプローチを取り入れたデザインスタジオBlast Studioは、使用済みコーヒーカップの破砕片に菌糸を練り込んだ材料で構造材(柱)を作り、Tree Columnと名付けた。立体造形物からキノコがランダムに生育し、これまでの構造材にない不思議な光景を作り出している。
キノコのなる柱から始める、廃棄物を生まれ変わらせる計画
Blast Studioは2018年にPaola Garnousset、Martin Detoeuf、Pierre de Pingonの3人の若者が作り上げたデザインスタジオだ。その目的は、都市の廃棄物を構造材へと生まれ変わらせること。そして、その過程として自然環境と技術を上手く融合させることにある。
彼らが発表したTree Columnは、キノコの菌糸が表面を覆った構造材だ。複雑な立体構造は 3Dプリンターで製造されている。
なぜ3Dプリンターでキノコのなる柱を作ったのか
その疑問の前に、Tree Columnの作り方について解説する。このきのこの柱は使用済みコーヒーカップ(つまり紙)とキノコの菌糸で出来ている。
まず、回収したコーヒーカップを細かく粉砕する。破砕片を煮沸洗浄した後、混錬、加熱することで、粘度の高いペーストとなる。これにキノコの菌糸を配合したものがTree Columnの原材料だ。
菌糸の生育のためには、風や日光の当たらない奥まった構造が必要で、木の幹のような複雑な立体構造が必要となる。
こうした場面に力を発揮するのが3Dプリンターだ。
彼らは自作の 3Dプリンターで複雑な立体形状を作り上げ、キノコの生育に必要な環境(日照量、水分量など)を上手く制御した。出来上がった構造物は、数日のうちに菌糸が覆う。場所によってはキノコの傘も見られた。
キノコのなる柱の3D設計図。複雑な立体造形となっている。 実際に3Dプリンターで造形する様子
Tree Columnを約80度で加熱乾燥させるとキノコの生育は止まる。加熱乾燥した Tree Column は、MDF(中密度繊維板)に近い強度を有し、構造材として利用可能だ。
実際にキノコのなる柱ができる上がるまでの動画を同社がアップしているので、気になる方はぜひチェックしてほしい。
キノコのなる柱、活用方法は? 〜Blast Studioの目指すもの〜
Tree Column の表面には食べられるキノコが生育するわけだが、もちろん、ここで回収したキノコで食料不足を補おうという話ではない。生育するキノコはごく僅かであるうえに、それを食べたいか、という問題もある。
Blast Studio の目指すところは、菌糸を使ったアートやエクステリアに近い。Webサイトには Tree Column についての幻想的なコンセプトアートが掲載されている。
菌糸の成長はある程度ランダムで、偶然に任せることになる。自然に菌糸が成長し、出来上がる形状を見て楽しむことができる、という仕組みだ。自然と人と技術のコミュニケーションを取り入れた、これまでにない構造材を目指していることが分かる。Tree Columnのコンセプトから考えると、構造材と言うよりは、観葉植物や植木鉢に近いのかもしれない。
高度に実用的な用途だけでなく、Tree Columnの例のように、人々に娯楽や豊かさを提供するような用途にも 3Dプリンターが使われ始めている。改めて、3Dプリンターが多様な広がりを見せていることを痛感させられる取り組みだ。
近年では、最新技術を取り入れた全く新しいアート作品も数多く見られる。3Dプリンターがこれまで注目されてこなかった分野においても、まだまだ活躍の場があるのではないか、と期待は高まるばかりだ。
関連情報
≫ 3Dプリンターを活用した廃棄物を生まれ変わらせる事例一覧はコチラ
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。