課題解決のための3Dプリンター、3Dスキャナーを着実に日本に根付かせる―Raise3Dだけではない日本3Dプリンター株式会社の全貌に迫る
日本3Dプリンター株式会社は間違いなく現在の日本の製造業の3Dプリンター活用を活性化させた立役者の一角だ。その功績は100万円以下の価格帯に工業用3Dプリンターのサービス基準を打ち立てたことにある。業績もコロナを挟んでも右肩上がりで、2024年段階での3Dプリンターの累計出荷台数は4,000台以上にのぼり、売上も年間20億円以上を誇っている。着実に日本の製造業に3Dプリンターを送り届けてきた日本3Dプリンターの今までとこれからを取材した。(写真は金属フィラメントに対応することが発表されたMarkforgedのFX10を説明する日本3Dプリンター株式会社の北川 士博 社長。取材・文・写真:シェアラボ編集部)
目次
累計4,000台を超える工業用3Dプリンターを出荷してきた日本3Dプリンター
シェアラボ編集部:展示会で大きなブースを毎回出展されているなと社名に見覚えがある方も多いと思いますが、簡単に自己紹介をお願いできますか?
日本3Dプリンター 北川社長:日本3Dプリンター株式会社の北川です。私たちは製造業向けに工業グレードの3Dプリンターを販売しています。主力はフィラメントを材料としたMEX方式の3DプリンターでRaise3D社の製品やMarkforged社のプリンターですが、Formlabsの光造形機やFarsoonのPBF機などの取り扱いもあります。総代理店として装置を販売するだけではなく、装置メーカーがまだ扱っていない材料の試験を材料メーカーさんと一緒に行い、私たちが責任をもってご提供しサポートしていくというオープンフィラメントの活動にも力を入れてきました。装置性能だけではなく、業務課題を解決する使い方のご提案や日本語での安心感あるサポートも3Dプリンター導入に求められる品質だと考えています。
シェアラボ編集部:ただ販売するだけではなくしっかりサポート体制があると、ユーザーさんとのお付き合いも長くなりますよね。かなりの台数を日本の製造業に届けてきたと思うのですが、累計何台くらい Raise3D を出荷してきましたか?
北川社長:今年累計3,000台を突破しています。 Raise3D 以外のメーカーの3Dプリンターを合わせると4,000台以上ですね。
シェアラボ編集部:2019年に取材させていただいた際にも、総代理店とは言え、販売店がそこまで責任をもって材料に取り組んでいくのか、と驚いた記憶があります。装置のステータスコードを見ながら電話でのサポートも丁寧に行っていましたよね。かなりの台数がでて、サポートも大変じゃないですか?
日本3Dプリンター 北川社長:現在もカスタマーサポートの担当者9名と技術担当が連携してサポート体制を組んでいます。メールでご相談いただいたご相談に関しては2時間以内に対応を開始する取り組みを行っていまして、現在のところ94%以上のお問い合わせに対して実現しています。また2017年から合計10万回以上の造形経験から、お客様が使いたい造形物に最適なパラメーター設定や材料選定などのアドバイスも無制限で行っています。
シェアラボ編集部:故障時の対応はセンドバック(故障機を配送で受け取り、修理後返送する方式)ですか?
日本3Dプリンター 北川氏:はい。購入した際に3Dプリンターが入っている段ボールを使ってセンドバックできればよいのですが、かさばります。いちいち保管していられないというお声も、カスタマーサポートに寄せられました。そこで引き取りに伺う配送業者が梱包して持ち帰る体制もご用意しました。
個人用3Dプリンターと工業グレードの3Dプリンターの違い
シェアラボ編集部:買う時だけのお付き合いじゃないんですね。カスタマーサポートに力を入れている様子が伝わってきました。こうした取り組みが工業グレードの3Dプリンターとして受け入れられた背景にあるんだろうなと感じます。一方で、最近ではすそ野が広がってきたというか、最近はBambu Labさんのような廉価帯の3Dプリンターの品質向上が著しいです。Raise3Dを扱う日本3Dプリンターさんとしては脅威ではないですか?
日本3Dプリンター 北川氏:今後もどんどん個人向けの3Dプリンターの性能は向上するでしょうし、選択肢も広がっていくことはこの仕事をはじめたときからわかっていたことです。そういう意味ではBambu Labさんのような高品質な個人向け3Dプリンターの登場は、業界のすそ野が広がるという意味で、歓迎するべきと思います。今までは他の選択肢がなかったのでRaise3Dを買ってくれていた個人ユーザーや利用頻度が低い法人ユーザーは、より廉価な個人向けの3Dプリンターを選択するケースも増えるでしょう。
一方で、趣味でモノを作る個人ユーザーと業務の課題を3Dプリンターで解決したい法人ユーザーでは3Dプリンターを導入する目的自体が異なります。当然期待される内容も違ってきます。
個人向け3Dプリンターと工業用3Dプリンターを比べると、繰り返し造形を行った際の精度や、装置の耐久性といった信頼性の観点、組織として利用することを想定したソフトウェアの機能の有無、導入時や3年、5年と運用していく際のサポート体制の観点など、もとめられるものが違うわけです。
特に機械の安定性とサポート体制ですね。現場で使うと、いかに”問題が生じない””問題が生じたときはすぐ解決してくれる”のかが何よりも重要です。プロトタイプでも、治工具や最終製品でも、機械の造形不具合が原因でプロジェクトの進行に影響したり、造形品質の問題で担当者の時間が費やされたりすれば、いよいよ導入する意味がなくなります。ROI(投資対効果)の観点から、弊社の製品やソリューションがお客様にとって、価値ある投資となるよう、私たちも日々研鑽しています。
さらに言えば、製品単体ではなく、課題解決につながるソリューションとしてご提供してく体制をご用意しておくことが重要になってきます。
シェアラボ編集部:個人ユースと法人ユースで棲み分けが当然あるというわけですね。確かに通販で購入できる3Dプリンターは据え付けや、初期の利用方法の説明も担当者がついて説明してくれるわけではないですし、コールセンターでのサポート品質でも目指しているものが違いそうです。
いまソリューションという言葉が出てきたのですが、抽象的な言葉なので、もっと具体的に伺いたいです。日本3Dプリンターさんの考えるソリューションってなんですか?
3Dプリンターの使い方を越えて、業務課題に対する解決案を提案するのがソリューション
日本3Dプリンター 岡本氏:私たちもまだ道半ばではあるのですが「この3Dプリンターの使い方がわからない」「不具合がある」という不満を解消するのがサポートだとすれば、「お客様がお持ちの課題に対し、3Dプリンターや3Dスキャナーでどのような解決ができるかという視点で、課題の最初期から伴走する力」がソリューションだと考えています。
シェアラボ編集部:装置の仕様確認やクレーム対応以外に、業務課題を相談できるといったイメージでしょうか。とはいえ、かなり難しいイメージもあります。
日本3Dプリンター 岡本氏:おっしゃる通り、製造現場の課題は幅広く奥も深いです。私たちができるのは3Dプリンターや3Dスキャナーを適切に使えるベストプラクティスや現実的な考え方をお伝えしながら、最適な3Dプリンターの選定や使い方を具体的にお手伝いすることです。こんな課題を解決したいという目的も違えば、どんな材料で何を作りたいか、すでに装置を持っているかどうかなど、各社の状況が異なるため最適解は各社異なります。
シェアラボ編集部:そういう意味では総代理店として深くRaise3Dを深く知りながらも、複数の装置メーカーを扱ういままでの経験値が活きてきそうですね。
日本3Dプリンター 岡本氏:1台あればいろいろなことができる3Dプリンターですが、得意不得意もあります。Raise3Dのこの機種だけあれば何でもできるというわけではありません。だからお客様のためにMarkforgedも扱うしFormlabsも扱うというわけです。それに3Dプリンターは年々進化しています。過去の印象だけを元に判断すると大きなチャンスを逃してしまいます。例えば電気自動車関連のグローバルバッテリーメーカーがRaise3Dを活用して、燃料電池生産用の治具を量産しています。その規模はかなり大きく100台単位で3Dプリンターを並べ、並列生産に取り組んで大きな成果を上げています。
いままでは「1台あれば試作や治具を内製化できるのでコストメリットがありますよ、納期を短縮できますよ」という身近な利用シーンをお伝えしていたわけですが、弊社のお客様でもリピートオーダーが多く、1企業に複数台あるのが当たり前になってきました。もっと大規模に導入するとより大きな効果が見込めるという事例もお伝えしていかなければと思っています。
シェアラボ編集部:材料を増やすオープンフィラメントの取り組みも、そんなより業務課題を解決する取り組みだったわけですね。先ほども3Dスキャナーに触れられていましたが、最近展示会ブースでも大きく面積を取ってアピールされていますよね?
3Dプリンターだけではなく、3Dスキャナーに力を入れている理由
日本3Dプリンター 岡本氏:はい。当初はリバースエンジニアリングで3Dスキャナーを使いましょうというご提案だったのですが、装置自体の高性能化もあって、最近では品質検査のための計測目的での導入も増えてきました。
シェアラボ編集部:具体的に伺っていきたいのですが、リバースエンジニアリングで活用されている事例はどんな事例ですか?
日本3Dプリンター 岡本氏:さまざまな業種で広がっているのですが、わかりやすい例としては、自動車のドレスアップパーツの制作・販売を行っているDAMDさんの事例です。自動車のドレスアップパーツは、自動車メーカーの正規部品を取り外して、ドレスアップパーツに交換するわけですが、自動車メーカーから設計データを支給されるわけではありません。独自に用意しないといけないわけです。自動車は複雑な構造をしているので、計測を行いながらの設計に大きな手間がかかっていました。
ですが3Dスキャナーを使えば、複雑な形状でも正確に3Dデータを取得できます。3Dデータがあれば相手部品の形状を踏まえて、組付けが問題なく行うことができる部品を設計できるわけです。量産時は数量に応じて別の工法を選択することもできますが、試作には当然3Dプリンターを活用できます。これがリバースエンジニアリング的な使い方です。
シェアラボ編集部:なにかモノを作る際に相手部品があるケースの方が多いでしょうから、自動車のアフターパーツメーカー以外にもニーズは多そうですね。
日本3Dプリンター 三橋氏:その通りです。リバースエンジニアリング目的の3Dスキャナーは1年で何回も新機種が投入されるほど注目が集まっているマーケットでどんどん良い製品もでているので、高い、重たい、操作が難しいという先入観を持っている人は一度触ってみてほしいです。
シェアラボ編集部:もう専用の計測室に大型の装置が置いてあって、接触プローブで計測する、みたいな感じではぜんぜんないんですね。
日本3Dプリンター 三橋氏: そうですね。非常に小型化されています。性能の向上とともに信頼性の面でも進化が著しく、最近では計測機器として品質管理部門が品質保証の目的で導入するケースも増えてきました。
シェアラボ編集部:おなじ3Dスキャナーですが、リバースエンジニアリング用途と計測用途で何が違うんですか?
日本3Dプリンター 三橋氏:リバースエンジニアリング用途と計測用途の3Dスキャナーの違いは、精度の面も違いがあるのですが、検査品質に対する保証の有無が大きな違いです。計測用途の3Dスキャナーは国際規格で定められた計測機器の規格に準拠しているので、計測結果も保証されています。
シェアラボ編集部:装置の信頼性が高いだけではなく、その計測結果を発注主に計測規格に準拠した形で説明したり提出したりできるというわけですね。
日本3Dプリンター 三橋氏:そうですね。試験結果として提出する際にも、きちんとした試験をしているとご理解していただきやすいと思います。卓上3Dプリンター 三橋氏:そうですね。試験結果として提出する際にも、きちんとした試験をしているとご理解していただきやすいと思います。
シェアラボ編集部:具体的にはどんな方が導入されているんでしょうか?事例があれば教えてほしいです。
日本3Dプリンター 三橋氏:鋳造を行う加工業の会社さまの事例なのですが、鋳造後に切削仕上げを行う部品ではあるものの、切削前と後に公差範囲に収まっているか試験を求められるそうです。タッチプローブ型の三次元測定機を導入されていたのですが、タッチプローブタイプはティーチングにも計測にも時間がかかります。いままで5,6時間かけて行っていたようなのですが、非接触のハンディータイプの3Dスキャナーに入れ替えてからは作業時間が1時間程度まで削減できたそうです。切削加工前と加工後に2回おこなうわけですので、大幅な工数削減が実現できました。
シェアラボ編集部:ティーチングが必要なタイプは専門の計測者しか作業できないですが、ハンディータイプなら一般の作業者でも対応できそうですよね。
日本3Dプリンター 三橋氏:3Dスキャナーは試験の自動化、最適化という意味で大きな価値を生み出せる可能性があると思います。計測に利用する3Dスキャナーは検査の国際規格にも準拠しているので、信頼性の高い試験結果であることも大きな意味があると思っています。
シェアラボ編集部:価格的にはどれくらいなんでしょうか?
日本3Dプリンター 三橋氏:リバースエンジニアリング目的の機種は30万円台から、計測用途に使用できる3Dスキャナーも300万円台から導入可能になってきました。適正に測定するための定期校正や落としてしまった時の補償や代替機提供などもサポートプランとしてご提案しています。運用に落とし込んだ際も視野に入れて業務に組み込むことができるようお手伝いしているわけです。毎年、数十台レベルで導入されるようになってきていますが、まだまだ困っている方がいらっしゃるように感じています。
シェアラボ編集部:3Dプリンターにしろ3Dスキャナーにしろ装置自体の進化も早いですし、汎用的な装置でもあるので、具体的に道使うべきかわかりにくいことも多いです。装置をどう選び、どう活用するか相談できるのは助かりますね。
日本3Dプリンター 北川社長:はい。総代理店ということもあってRaise3Dは主力製品ですが、どんな装置も万能ではありません。使い分けが重要ですので、MarkforgedやFormlabsの製品も取り扱っています。ソリューションという意味で、メーカー各社の優れた製品を適切におすすめし、円滑に利用できる体制を作るのが重要だと考えています。私たちは日本で100億円の3Dプリンター企業になりたいという目標をもって活動していまして、ソリューションはそのために欠かすことができない取り組みです。まだまだこれからですが、これからも取り組んでいきます。
取材を終えて
日本3Dプリンターのショールーム兼オフィスはファクトリーテイストの近未来的なデザインでRaise3DやMarkforgedの装置がずらりと並ぶ。それだけでも一見の価値があるのだが、単なる販売店のイメージを超えて真摯にモノづくり企業を支援するための取り組みを積み重ねる姿勢が印象的だったし、4,000台を超える出荷先を支えてきた豊富な知見が感じられる説明にあっという間に時間が過ぎた印象だ。装置に対してもフラットにこの部分がよい、この部分に注意が必要ときちんとした説明をしてくれる姿勢にも好感が持てた。
「気軽に遊びに来てください」とショールーム見学はウェルカムの様子だったが、驚くべきことに2024年9月5日にはMarkforgedのCEOシャイ・テレム氏を招いた滅多にない来日イベントも日本3Dプリンターのオフィスで予定している。Markforged社のCEO来日講演という滅多にない機会だが、無料で参加できるということでシェアラボ編集部も取材予定だ。まだ申し込み受付中ということなので、あわせてお知らせしておきたい。
日本3Dプリンター株式会社
2016年の創業以来、Raise3Dの総代理店として累計3,000台以上の3Dプリンターを日本の製造業に供給。独自にオープン材料対応とサポート体制を敷くなど製造業の声を元にした活動で支持を集める。近年は3Dスキャナーの販売やソリューション型提案にも力を入れている。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。