ソニーシティ大崎のファブ施設で行われたBambu Lab開梱の儀に潜入!
最近X(旧Twitter)界隈で話題になることも多い、マルチカラーに対応した3Dプリンター「Bambu Lab」。2023年9月3日に、Bambu Labを段ボールから取り出し試験造形する3Dプリンター開梱イベントがソニーの大崎オフィスで開催された。日曜日の開催ながら30人以上の参加者を集めたイベント主催の福馬 洋平 氏は、ソニーの技術開発研究所でプロダクトデザイナーを務める傍ら、人事部にも籍を持ち、社内ファブスペースの工房長も務めるマルチな活動を行っている。取り組みの概要や今後を伺った。(取材:シェアラボ編集部 衛藤誓。撮影・編集・文:伊藤正敏。写真は会場風景)
すでに10回以上開催されている3Dプリンター開梱イベントとは?
シェアラボ編集部:この会の主催は誰になるのでしょうか?
福馬氏:このイベントは私が個人的に開催しているイベントです。ソニーでは社員が会社や従業員に役立つ情報発信イベントを推奨していまして、このイベントスペースでも平均して1日2回のイベントが開催されています。内容も幅広く、ラズパイでホームサーバを作るイベントもあれば英会話やヨガ、スポーツ鑑賞など多岐にわたります。その一環で3Dプリンターの開梱イベントを開催していまして、すでに10回以上の実績があります。
シェアラボ編集部:このスペースはどういった位置づけで運営されていますか?
福馬氏:社員であれば誰でも自由に使えるスペースです。こういったファブスペースは各事業所に存在しますが、運営方針はそれぞれの事業所で異なります。予算を出す事業部の意向が強く反映されるのですが、大崎では、安全講習を受けることを条件に誰もが自由に使えることを方針にしています。困った時に気軽に使えるネジ棚や電子部品棚のほか、ボール盤やレーザーカッターなどをそろえています。3Dプリンターに関していうと個人でも買える範囲の3Dプリンターを多く揃えるようにしています。
シェアラボ編集部:個人向けの3Dプリンターを多く導入しているのはなぜですか?
福馬氏:高い頻度で気軽に使える、小回りの利く運用の方が使いやすからです。私はかなり早い段階から業務で3Dプリンターを利用してきました。利用者のニーズとしては小型製品の試作として外装やケースを作りたいというニーズが多いのですが、最近の3Dプリンターは性能がかなり向上しています。業務用の高価な3Dプリンターの性能は良いのですが、台数を揃えることは難しいです。また材料費も個人ユースの機種に比べると格段に高価であることも理由の一つです。
シェアラボ編集部:経費的には社員の方であれば無料で使えるのでしょうか?
福馬氏:はい。年間予算を工房として持っていまして、利用者は無料で利用できます。
シェアラボ編集部:上長やプロジェクトに申請しなくても使えるということでしょうか?
福馬氏:そうです。口頭やデータをもとに打ち合わせることもできますが、実際に作って見せた方が早いことも多いです。利用する側もそれに慣れてきまして、一度に10台に造形指示を出して、複数部品を後で組み立てるようにする場合もあります。また造形失敗に備えて同じ部品を同時に出力することもあります。そうすると一台の高性能機よりも複数台が気軽に利用できる環境の方が効率的になってきます。私も自宅に自作3Dプリンターを含めて数台3Dプリンターを持っていますが、ここで使い方を覚えて、良かったら自宅に自分専用の3Dプリンターを購入してもらってもいいんじゃないかと思います。
シェアラボ編集部:自作3Dプリンターってすごいですね!今日も会場に持ってきてデモをしている方がいらっしゃいましたし、旧型機を改造しようとしている方もいますね。
福馬氏:みなさん思い思いに楽しんでくださっているので主催としてもうれしい限りです。自作3Dプリンターに関しては、コロナで年末年始することがなかったので、私自身も取り組み始め、庭の木にあやかりFraxinusと名付けて設計データや作り方を配布しています。その時に情報交換をしていた有志が今日も来てくれています。
シェアラボ編集部:ご自身のオープンソース・ハードウェア活動がこうしたイベントに発展した感じなんですね?
福馬氏:そうですね。会社の枠を越えて交流があり、Bambu Labの8色印刷を組立リードしててくれている2人の若手は社外の仲間です。
シェアラボ編集部:日曜日なのに、多くの方が参加されていますよね。お子さん連れもいてかなり自由な雰囲気がすごく学生サークルの部室的な感覚で、懐かしい雰囲気だと勝手ながら感じました。
福馬氏:ありがとうございます。ちょっと気になった話題の機種を購入して、一緒に初期稼働させるまで、もっていくのがこの会の趣旨です。セキュリティの関係で出入り自由というわけではありませんが、かかわり方はそれぞれで、みなさん自分たちなりに楽しんでくださっています。各会30人から50人程ご参加いただいています。
シェアラボ編集部:今後についてはどのようにお考えですか?
福馬氏:今後も個人でも購入可能な手が届く機種をファブスペースの設備として購入していきます。その度に開梱イベントを開催する予定です。すでに来月にも予定があります。こうしたファブスペースの運営やイベント開催は企業への親近感向上に貢献している部分もあります。特に人材採用の面では良い影響も感じること多く、自分のアイディアを形にする場所が、自由に取り組めることにやりがいを感じてくれる学生が入社してくれる方が多いのもうれしいです。
シェアラボ編集部:昭和的な飲みニケーションに抵抗感がある人も、仕事以外での関心時でつながる場があることで職場への愛着も深まるかもしれませんね。
社員の交流・共創・成長の場を用意する懐の深さが革新的価値を生み出す
ファブスペースをはじめ、フリードリンクコーナーやシアタースペース、VRヘッドセット、ゲーム機、ビリヤード台など遊び心をくすぐるアイテムのほか、50種類のボードゲームなども備え付けてあり、一日いても飽きない場所だった。ここで関心をともにする仲間と一緒に最新の技術動向を語り、知見を共有することで社員の成長や意図しない共創を生み出す効果が期待できるのだろう。
また上長承認なしに3Dプリンターで試作をし放題という環境から生まれたブレイクスルーや検討時間短縮効果も多いことだろう。こうした環境を用意し、自由に使うことができるように運用し続ける点、そしてその制度を自ら作り出し、参加する社員層の分厚さにソニーの底力を感じた。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。