AMは「二極化」へ進むのか?
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
イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。
AMの「二極化」とは?
2月も終わりに近づき、自宅周りの梅の花も満開から、終わりかけの木を見かけます。今年は花粉の飛ぶ量が多いとか、夏は昨年のような猛暑になる可能性は低いとかのニュースを聞く時期にもなりましたが、それが当たっているかは毎年過ぎてしまうと忘れてしまいますし、起きてしまうことは「予測と違う!」と言っても変えられず、結局は起きたことは受け入れて、対応していくことになります。それでも、少し前に大きな流れや、起きそうなことを知らないより、知って心づもりをしておくだけでも、予測が少し外れたにしても良い対応ができるのではないでしょうか。今回はそのような話題です。
ShareLabのイベントニュースでも事前にお知らせしましたが、「Additive Manufacturing Strategies」というイベントが2025年2月4~6日にアメリカ・ニューヨークで開催されました。これには「ネットワーキング・ビジネス・サミット」という副題がついていて、正にこの3つの単語が特徴を表していて、欧米が中心ではありますが、AMの供給側(プリンター、ソフトウェア、サービス)の主な企業、需要側の企業や団体に加え、投資をする企業の経営者や管理職が年1回集まって話をする場です。残念ながら私は1回も参加したことは無いですが、毎年トピックスのニュースは世界のAMの流れや、どうなっていくかを予測する材料になるので、楽しみにしています。今年もいくつかのニュースが海外メディアから出され、去年とは参加メンバーも、話されたことも変わってきたなと思いました。実はShareLabの動画配信チャンネル「ShareLabTV」で、実際に参加した方からお話を伺う動画を収録したので、例年以上に多くの情報が得られました。近い内に公開できると思いますので、みなさんもぜひ楽しみにお待ちください。
そのイベントのトピックスでも見られましたが、最近AMについて様々な「二極化」の傾向が見られ、それがこれからもっと進むという予測が出てきていると感じています。いくつか例を挙げますと、これまでAM産業が成長発展しているのは「欧米」とひとくくりだったのが、最近は「米中」は成長が続き、「欧」が鈍化する傾向があり、世界の地域でも、企業でも明暗の二極化の傾向が見られます。また3Dプリンターも、売れるのは「何でも出来て安い」か「特定なことが出来て高い」の二極化が進むという声が聞かれます。
AMの「二極化」は進むのか?
そのような二極化は、急に起きたように見える一方で、AMの歴史を振り返ってみると起こることは当然で、私はむしろ良い傾向と考えています。例を挙げると、私自身約20年前から、AMの用途について話すときに下のような図を示してきました。
3Dプリンターも材料も、初めは性能・種類も限られ、主に試作用途に使われていましたが、性能・種類も発展するに伴って製造用途に使われるようになってきたので、「どちらにも使える」製品が多く作られ、売れてきた時代がありました。しかし、よく考えてみると、試作と製造では、求められることや使われる条件や環境が、どちらかが低い高いではなく、根本的に違うことが多く、需要が広く深くなるほど万能な製品はどちらにも不足となってしまうとすれば、2つの用途それぞれに適した製品や材料が「二極化」するのは当然で、個人的には使う方にも売る方にも良いことだと考えています。
その反面、売る側もその製品がどのような狙いで開発され、どのように使ってもらいたいかをわかりやすく、正しく伝えることがますます大事になってきますし、使う側も「求めること」をわかりやすく、正しく売る側に伝え、適する製品やサービスを正しく選んで買うことも大事になってきます。AMも昔より複雑かつ多様化していますが、それは発展に必要なことであり、分かりにくいからこそ、情報と対話が必要で、そこから大きな流れをつかみつつ変化に対応していくのが良いと考えています。ShareLabでもそれに役立つ情報と対話を提供していきたいと思います。
余談ですが、先日自宅であるテレビ番組の録画を見ました。老舗の日本の靴下受託製造メーカーで、かつて経営危機に陥った時、2代目社長が「Change or Die(変わるかつぶれるか)」というメッセージを全社に出し、そこから3代目社長が奮闘して独特な自社製品を開発販売し、それがいまヒット商品となり売上利益を伸ばしている話題でした。さらに革新的な編み機も開発中で、その研究開発室の背景には、デスクトップ樹脂3Dプリンターが映っていました。変わるかつぶれるかの二極化は多くの日本の製造企業にも起きていることで、「変わる」を選ぶ企業がAMを変わる道具として活用されることを、ShareLabとしても応援していきたいと思いました。

AMをうまく使って利益を出す企業とそうでない企業も二極化が起きていて、初めに小さい成功にたどり着くと、その後の発展が急速に進む傾向にあり、このニュースもその例だと思います。Daimler Truck社はかなり前からスペアパーツ製造にAMを使い始めたことで知られていました。その時はごく限られたパーツへの適用でしたが、自社以外に「特定なことが優れて出来る」企業と協働することで、ユーザーの車両の稼働時間を増やし、それが自社の利益を増やすという好循環が回せているようで、どの産業でも参考になる例だと思います。

これも「特定なことに優れる」企業が協力して、次の日本の製造業を担う人材を育てるという、素晴らしい活動だと思います。これから日本でも、このような協業ができる、できないによって、明暗の二極化が起きる可能性がありますが、できればそうならないよう、このような事例を広く知っていただきたいと思いますので、皆さんからの情報提供もぜひお願いします。
ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!