1. HOME
  2. 業界ニュースTOP
  3. 武蔵精密工業が3Dプリンターで全固体電池を作る米ベンチャーKercelに出資

武蔵精密工業が3Dプリンターで全固体電池を作る米ベンチャーKercelに出資

POINT

  • バイク向けミッションで世界シェア30%を占める武蔵精密工業が米固体電池ベンチャーKercelに出資。
  • Kercelはセラミック系電解質を3Dプリンターで非常に薄く造形し高性能バッテリーを製造できる。
  • Kercelは同一3Dプリンターを活用してライン組み換えなど不要で複数仕様の製品の造形を可能にするという。

武蔵精密工業はバイク・自動車のパワートレイン製造メーカー

武蔵精密工業は愛知県に本社を置くバイク、自動車向けのデフ/トランスミッションなどのパワートレイン製品の設計、開発、製造のメーカーだ。主要OEMや直接メーカに納品している一次受け企業としてバイクのトランスミッションでは世界シェア30%を誇る。パワートレイン製品ということでエンジンがモーターに代替されるEV化が進展すると大きく影響を大きく受ける事業ドメインといえる。そんな武蔵精密工業は米電池ベンチャーKeraCel社に対し、2019年8月に出資をおこなったと発表した。

金額は非公開だが、これから実用化が期待される全固体電池の生産・供給に関する優先的な交渉権利を獲得し、特に電動バイク市場における事業展開や同社の3Dプリント技術を活かした新たな商品開発、事業領域の開拓を目指すとしている。

全固体電池は次世代のリチウムイオン電池

全固体電池はリチウムイオン電池の一種。現在のリチウムイオン電池は液体の電解液を用いているが、この電解質を固体化 (固体電解質:Solid Electrolyte) することで耐熱性、耐冷性を高めることができる。また液漏れ等のリスクがないので宇宙などでも利用が可能になる上、耐熱性に優れるため集積化が可能なので、小型化、急速充電対応に優れるという。

イオン電導率の高い固体の電解質の開発が難易度が高いため2030年代の実用化が目指されていたが、2020年代前半での実用化(限定的だとしても量産ラインに乗せる)を目指すというトヨタの発表もあり、急速に技術革新が進んでいる。

Kercelは3Dプリンティングで「すごく薄く」「様々な形」「いろいろな大きさ」を実現

武蔵工業が資本参加した「Kercel」 はカリフォルニア州に本拠地を置く固体電池メーカー。 セラミックベースの電解質とリチウム金属アノードをもとに電池を構成する方式で開発を進めていたが、高エネルギー密度の電池を構築するために不可欠な非常に薄いセラミック層を3Dプリント技術で造形することで、1000Whr / lt のエネルギー密度を実現したという。

Kercelはセラミックベースの電解質を3Dプリンティング技術により造形する。非常に薄く造形できる上に、同一の3Dプリンターで様々な大きさ、形状の電池製造を実現できる事を強みとして打ち出している。例えばバイク用のバッテリーも低速度用のバッテリーと高速走行用バッテリーで求められる仕様が異なるため、造形上ことなった仕様になる可能性が高いが、ラインの組み換えなしに対応するといった柔軟な製造ラインの運用が期待できそうだ。

他社の取り組みも続く

トヨタ自動車は2020年代前半での量産ライン構築を目指しており、日立造船も航空宇宙産業向けに固体電池の量産を2019年に開始する動きがある。すでに2018年から 電子基板での導入などを意識して サンプル出荷を行うFDKの取り組みなど、アプリケーションはそれぞれ異なるが、全固体電池の流通にむけた取り組みはすでに始まっている。

ヒント:特性がある素材の自由に造形できるということ

3Dプリンティングにで磁性をもった素材を造形することの可能性を4Dプリンティングの現在という記事でも紹介したが、特徴をもった素材の自由な造形により、電池の性能を飛躍的に向上させたKercelの取り組みのように、身近な何かの性能が改善できないか考えてみることは、大きなブレークスルーを生み出すきっかけになるかもしれない。

編集/記者

2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。

資料ダウンロード 3Dプリンティング国内最新動向レポート

サイト内検索

関連記事