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ベントレー、AM事業に約4億7,000万円を投資。動き出した3Dプリンター戦略とは

(提供:ベントレー社)
(提供:ベントレー社)

フォルクスワーゲングループの高級車メーカーである、ベントレー・モーターズ(Bentley Motors Limited)は、全モデルを製造している英国クルーの本社におけるアディティブ・マニュファクチャリング(以下、AM) の生産能力を倍増するために300万ポンド(約4億7,000万円)を投資したことを発表した。

この発表に先立ち、2030年までに製品ラインナップの全てをEV(電気自動車)に転換するために、25億ポンド(約3800億円)を投資することを発表している。

金額だけを見ると、EV化の0.12%に過ぎないがそのインパクトからフォルクスワーゲングループ全体の戦略が透けて見えてくる。

フォルクスワーゲンの3Dプリンター戦略

自動車業界で3Dプリンターを活用する理由は、製造コストの削減や、ポルシェのようにカスタマイズ性の高い部品生産など多品種少量生産で3Dプリンターが活躍するためだ。

そんな中、フォルクスワーゲンが3Dプリンターの導入理由のひとつとして考えられる、3Dプリンターで付加価値向上のための戦略を、業界動向や採用している3Dプリンターの特性から考察しご紹介する。

フォルクスワーゲンは、日本ではあのビートルで有名な外車のメーカーであるが、ドイツ語でフォルク(Volk)は「人」と訳すことからフォルクスワーゲンとは「国民車」と訳されることが多い。上海のタクシーは多くがフォルクスワーゲン社製で、ブラジル人の多くはフォルクスワーゲン社はブラジルの企業だと思っていると聞く。そのくらい、大衆車として浸透しているフォルクスワーゲンであるが、アドルフ・ヒトラーが提唱した国民車計画に従い開発されたフォルクスワーゲンタイプ1は、あのポルシェによって開発された歴史を持つ。

ポルシェはリアエンジン・リアドライブ(RR)を特徴としていたが、フォルクスワーゲンはゴルフでフロントエンジン・フロントドライブ(FF)を採用して大成功している。大衆車でありながら大きな居住性を実現したその革新性は世界中の車がFF型になっていることからも明らかであろう。

そして今、大幅な転換が図られようとしている。それがEV化である。EV化は各社一斉の競争となるため差別化が難しい。部品数も劇的に低減されるとされ大幅なコストダウンによる車両価格の低減も想定されている。そうなるとどこを付加価値として利益を確保するかというとカスタマイズ(パーソナライズ)がその候補になるであろう。

大衆車とベントレーの高級車の車両販売価格の差は、10倍から30倍にもなる。コスト余裕がある高級車で技術やコストが磨かれるのは当然として、この高級車が提供する付加価値を大衆車にも取り入れて利益率を確保する戦略が見えてくる。それがカスタマイズである。

特にフォルクスワーゲンが採用しているストラタシス社のFDMによる3Dプリンターは、塗装レスに強みがある。高級車は、カラーリングだけでもそのバリエーションは豊富であるため、塗装レスの3Dプリンター技術の効果は大きい。

フォルクスワーゲンの車両内装(出典:ストラタシス)
フォルクスワーゲンの車両内装(出典:ストラタシス)

米HP社とパートナーシップを締結

2018年9月11日に米国のテクノロジー企業HP(ヒューレット・パッカード)社とのパートナーシップを締結した。メタルジェット系の3Dプリンターの進化を受けて、自動車会社と3Dプリンターメーカーとの提携が続いている先駆けである。

フォルクスワーゲンは20年以上も前から3Dプリンター技術を活用している。パイクスピーク・ヒルクライムレースで記録を樹立したEVレーサー「ID Rパイクスピーク」は、3Dプリンターによって約2000ものパーツのモデルが作られて開発され、実際の車両に使われたパーツを作り出している。

EV化は自動車製造においてもパラダイムシフトを引き起こし、3Dプリンターを導入して製造を革新するには絶好の機会である。

ベントレーの300万ポンド (約4億7000万円) 投資が企業にもたらす価値

ベントレーには、ストラタシス社のFDMテクノロジーによる製造系3Dプリンターが並んでいる。新たに導入された最新鋭のAM機器によって、部品のコストを50%削減、24時間稼働することで25種類以上の材料で数千個の部品を生産することが可能としている。

ベントレー社に並ぶストラタシス社の3Dプリンター
ベントレー社に並ぶストラタシス社の3Dプリンター (提供:ベントレー社)

製品開発のスピードがアップし、外注することなく多種多様なパーツを生産を実現。これは戦略の一環とされる。

「事業のあらゆる側面を改革することにより、持続可能なモビリティのリーダーシップを目指す」

ベントレーの画期的なビヨンド100戦略

そして、最も重要と思われることはベントレーの全従業員にAMのトレーニングを提供していることであろう。最先端のプロセスを業務に活用することでどのようなメリットが得られるかについて教育が行われているという。設備は購入することができるが、それらを使いこなすための人材は一朝一夕に育成することができないからだ。この人材が大きな武器になるのは間違いない。

フォルクスワーゲンの3Dプリンター事例

事例1│金属系

このシフトノブは、従来の製造技術では難しい構造である。そして特徴的なのが空洞の多さである。EV化で求められている重要な要素が軽量化である。樹脂の活用はその一環になるが、強度が必要な部品や質感を高めたい部品は金属部品が求められる。

空洞が特徴的なシフトノブ (提供:フォルクスワーゲン社)
空洞が特徴的なシフトノブ (提供:フォルクスワーゲン社)

事例2│樹脂系

内装も外観も精密にフルカラーで試作造形できている。詳しくはこちらの記事を参照いただきたい。

まとめ

いよいよ自動車製造の現場にも3Dプリンターを活用したアディティブ・マニュファクチャリングの時代が到来しそうである。かつて日本が工業大国になれた重要な要因に、人材育成に力を入れたことが挙げられる。学校教育によって近未来への投資をしつつ企業教育によって即戦力を磨く取り組みの成果であったはずである。欧州企業は製造方法などだけでなく、人材育成においても日本に学んでいるように見える。

関連情報

ShareLab編集部

電機メーカー、デジタル地図ベンダーのソフトウエアエンジニア、サービス企画の経験を経て、コンサルティングファームのメンバーとして自動車会社の開発を支援する。予防医学を学び、幹細胞に興味を持つ。3Dプリンターで自身の車や家を作る時代がくることを夢に見ながら日々執筆に勤しむ。

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