世界初・貴金属のみの「ハイエントロピー合金粉末」の開発に成功
産業用貴金属事業を展開する田中貴金属工業株式会社(東京都千代田区)は、10µm以下の微細な粒径と高い結晶性を兼ね備え、組成の均一性に優れた貴金属からなる、「ハイエントロピー合金粉末」の開発に成功したことを、2023年10月25日に発表した。
ハイエントロピー合金は5種以上の元素が同程度含まれる合金だ。従来の合金に比べ、含まれる金属や貴金属の性質によって高強度、高延性、高靱性などの優れた機械的性質と、熱的安定性、耐食性などの機能性を有するとされ、近年、活発な研究開発が世界的に行われている。
田中貴金属工業社が開発した製品は、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)の5種の貴金属のみで構成される。このように、貴金属のみで構成される「ハイエントロピー合金粉末」の開発は世界初となる。製品はすでに量産工程を確立しており、サンプル提供が10月から開始されている。(上部画像は「ハイエントロピー合金粉末」出典:TANAKAホールディングス)
開発されたハイエントロピー合金粉末の特徴
田中貴金属工業社は、5種以上の貴金属合金粉末とその製造方法をすでに確立させており、2023年6月には特許を取得している。
今回開発された「ハイエントロピー合金粉末」は、耐食性や導電性などを有している。従来の貴金属ハイエントロピー合金と比較すると結晶子サイズが大きく、合金としての安定性や機械的強度、耐食性、熱膨張率の制御に優れているという。
また、複数の貴金属を組み合わせて作る貴金属合金は、その組成割合によって性質が左右されやすい。だが、今回開発した「ハイエントロピー合金粉末」は、複数の貴金属を近い割合で組み合わせる貴金属合金の機能や特性の改善にも応用できるとして期待されている。
3Dプリンターによる造形素材や、粉末を固めて棒状にした素材を成形するロッド成形、各種回路やセンサーに用いられることの多いペースト状での活用も可能だという。
将来的には、ハイエントロピー合金の特性である高強度と高耐熱性を生かした触媒や高い耐久性を必要とする導電膜などへの活用も見込んでいる。今後の活用方法にも注目していきたい。
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