1㎏4000前後と手ごろな価格ながら、エンジニアプラスチックのように100度域でも利用できるという触れ込みで話題を集めたPolymaker HT-PLA フィラメント。
これまでのPLAは、60℃程度までの耐熱性能であり、一般的に夏場の屋外や自動車車内など高温となる可能性のある環境での使用には推奨されませんでした。
耐熱材料であるPCやPA(ナイロン)は造形難易度や材料金額が高く、また、造形精度の面での課題もありました。
HT-PLAは150℃までの熱安定性を実現。
耐熱PLAは造形精度と耐熱温度を両立し、3Dプリントを新たな次元へと向上させます。(Polymaker公式サイト)
ネットで情報発信する造形者たちによる検証が発売後に相次いで発表され話題を呼んだが、「アニール前提のフィラメント」という点にも注目が集まった。
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Polymaker HT-PLAはアニール推奨の材料
youtubeで情報発信をしているウノケン氏の検証動画ではPLA、PETG、ABS、HT-PLAの耐熱性をBambuLabs社H2Dのヒートチャンバー機能で加熱し検証している。動画によると旗の形状に造形したサンプルでPLA,PTEG、ABS、HT-PLAを比較検証しているが、56度あたりからPLAが折れ曲がり崩落。PLA-HTもやや変形した。その後PLA,PETG、PLA-HTをSUNLUのE2(乾燥とアニール処理を一台で行うことができるフィラメント処理機)で再試験しているが、65度近辺でPETGが折れ曲がり80度近辺でABSが変形をはじめた。HT-PLAは最後まで残るという結果になった。
HT-PLAは100度を超える耐熱性を持つようだが、アニール処理をしないままだと変形が出る様子だ。仕様を踏まえて使うことで廉価機でも造形しやすい耐熱部品を造形できる材料になっているようだ。
アニール処理とは
「アニール処理(annealing)」とは、金属やプラスチックなどの材料を一度加熱し、ゆっくり冷却することで内部の応力を取り除き、性質を安定させる熱処理のことでいわゆる「焼きなまし」だ。材料加工や3Dプリント時に内部に「ひずみ(応力)」が生じ、寸法が安定しない、変形しやすい、割れやすいといった問題が起きるため、一度加熱して分子や原子を整列させ、落ち着かせるために行われる。
アニール条件と物性改善
HT-PLAのTDSによるとアニール条件は、温度: 80-90°C、時間: 30分で、熱変形温度(HDT)の向上が期待できそうだ。
0.45 MPa負荷時: as printed: 58.6°C → annealed: 156.2°C (約97°C向上)
1.8 MPa負荷時: as printed: 61.4°C → annealed: 107.2°C (約46°C向上)
最近発売されたSUNLU E2のようなアニール処理を行う装置がない場合、家庭用オーブンでも実施可能と思われる。(SNSでは台所で部品を茹でる様子をアップしている猛者もいる)。ガラス転移温度(59.8°C)を超えた温度で処理することで、材料の結晶化を促進し、耐熱性の向上が期待できるだろう。

TDSを見る限り、主要な変化点として
- ヤング率: X-Y方向が約3267 MPaに上昇
- 破断伸び: X-Y方向が約1.87%に低下、Z方向も約0.81%に低下
- 曲げ強度: X-Y方向が約66.75 MPaに低下
という結果がでており、剛性(ヤング率)は向上しているが、靭性(破断伸び)は低下し、材料がより硬く脆くなる傾向が見られる。これは結晶化度の向上によるものだろう。
アニールして熱に強い部品を安価なPLAでつくろう!

PLAは造形のしやすさとお値打ち感で存在感のある材料だが熱に弱いという弱点があった。同じPLAでも材質によってアニール処理の効果が薄い材料も存在するが、今回発売されたHT-PLAはアニール処理することで100度以上の環境でも形状崩れをおこさないことを狙ったフィラメントだ。エンプラレベルの耐熱性をもつ安くて造形しやすい材料として使う幅が広がりそうだ。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。



