株式会社エクスツルードホーン(埼玉県三郷市)は2025年7月23日(水)に、同社の仕上げ技術を多くのAMユーザーに紹介し、交流を深めることを目的とした技術交流会を初めて開催した。ShareLabからは丸岡が参加したので、概要を以下に報告する。(上部画像 出展:エクスツルードホーン)
目次
Extrude Honeについて
Extrude Hone社は1960年代後半にアメリカ・ペンシルベニア州で設立された。砥粒流動加工(Abrasive Flow Machining, AFM)技術を基礎としつつ、その後は電解加工(Electrochemical Machining, ECM)、サーマルデバリング(TEM)なども技術ラインナップに加え、製品や加工は自動車、航空宇宙、医療、重工業など様々な分野で、エッジ部のR付け、シェーピング、流量調整、金属・樹脂・複合材の研磨・バリ取りの用途で航空機部品や自動車部品の性能向上(摩耗・ノイズ低減、寿命延長等)に応用されている。2015年12月にKennametal社からMadison Industries社へExtrude Hone事業が売却され、グループ企業となっている。現状世界中の主要拠点(アメリカ、日本、ドイツ、インド、イギリス、中国他)にて製品販売、加工サービスやアフターサービスを提供している。株式会社エクスツルードホーン 三郷工場は1983年に開設され、日本及びアジアの顧客へのエンジニアリングサポート、治具製造、トライアル、サーマルデバリング(TEM)および砥粒流動加工(AFM)の受託加工を提供している。
講演と工場見学の概要
本技術交流会はエクスツルードホーンが、産業用3Dプリンティング向けの製造ソリューションサプライヤーEOS(ドイツ)日本法人のEOS JAPANと、金属溶接技術・金属加工、金属AMシステムの販売だけでなく、応用技術開発、技術サポートまで幅広くソリューションを提供する愛知産業(本社 東京)との協力により開催した。主に航空宇宙、自動車関連企業の方々が招待により参加した。
講演はまず株式会社エクスツルードホーン 代表取締役社長 面川 正樹 氏より、「エクスツルードホーン 技術紹介」と題して、特に金属AM造形品の表面仕上げ加工技術と製品の紹介があった。
砥粒流動加工(AFM)は穴内面仕上を得意とし、研磨、シャープエッジ R付け、加工バリ取りなど航空機部品に多く使われており、加工再現性が高い特徴がある。加工原理は下記動画を参照されたい。
最近の新機能 「AUTOFLOW制御」は、砥粒を含むメディアの圧力、粘度、温度、流量を一定に維持することにより、メディア使用量や冷却時間削減を可能にする。砥粒は炭化ケイ素、ダイヤモンドのほか、金属AMに適するボロンがあり、メディアの硬さも複数から選べる。テストや試作は1個ずつ加工するが、量産は大型機で複数個同時加工を行う。製品外面や部位選択加工には、社内ノウハウにより設計加工する金属治具にて対応できる。
次にサーマルデバリング(TEM)は、装置内密閉容器に燃料ガスと酸素を混合充填圧縮し、スパーク点火プラグが、圧縮ガスに点火すると爆発により、数ミリ秒で最大 3,300 ℃の熱を発生させ、バリやフラッシングは加工部品よりもはるかに小さいため、加工部品が損傷する前に、それらは即座に自己発火点に到達し、酸素が豊富なチャンバー内で酸化され、バリの具体的な場所は問わず、部品の内外を充満するガスはバリを完全に覆い、バリの完全除去を可能にする。除去されたバリから形成された酸化物粉末は、科学的に結合せずに被加工材表面にドライフィルムとして溜まり、その後の熱処理またはメッキ処理工程によって除去、または中性洗浄剤を利用して、浸漬洗浄装置でこの酸化物を除去することもできる。金属AMの場合は、成形品表面の残留粉末や、インペラ内部のような内部空洞サポート除去に応用できる。加工原理は下記動画を参照されたい。
次にEOS JAPAN株式会社 橋爪 康晃 氏より、EOSの最新技術紹介があった。
日本では樹脂と金属のレーザーPBF法AMシステム販売を1987年から行っており、世界の売り上げの約30%を占めるアジア太平洋地域で日本は最大の導入国である。現在はEOS標準金属AMシステムのチューンナップメーカーともいえるAMCM社製品も導入が進んでいる。新しい技術として、溶融池の熱管理最適化でスパッタ削減による品質向上やサポートの削減を可能にするレーザー走査制御「スマートフュージョン」、レーザースポット径やガウシアン、トップハット、Dドーナツなど7種類のビームプロファイルを可変でき、生産性を向上し、特定のアプリケーション要件や仕様に合わせた自由な設計を可能にする「ビーム・シェイピング・テクノロジー」がある。装置だけではなく、ソフトウェアや、造形コンテナ自動交換、粉末材料供給回収など自動化ソリューションも開発提供し、以前は出来なかったことが出来るようになってきている。
最後に愛知産業株式会社 日比 裕基 氏から、同社の金属AMソリューションと最新製品技術情報紹介があった。
愛知産業は1937年創業以来、エンジニアリング商社として溶接・溶解・溶融の世界の最先端の技術と製品を日本市場に提供し、2014年に金属レーザーPBFシステムメーカーのSLMソリューションズ社(同時 現 Nicon SLM Solutions)と販売代理契約を結び日本市場での実績を重ねてきた。またレーザメタルディポジション技術やアーク溶接によるAMシステム、サイアキ社(アメリカ)の電子ビームによるAMシステム、(EBAM)、カーペンターアディティブ社(アメリカ)のAM専用金属粉末製品によるトータルAMソリューションを提供している。またNikon SLM Solutionsの技術開発動向として、NXG XII 600による造形高速化、ADIRA社買収による大型化、ソフトウエア「Free Float」によるサポート削減などがある。また、Dyndrite社(アメリカ)の AM用CAMソフトウェア製品は、高度なサポート設計やスライスデータ作成が出来、Nikon SLM SolutionsやEOSの製品にも使える。またPythonコードで設計操作記録ができ、製品形状が変わっても同じ設計が出来ることで、工数の標準化や削減を可能にする。加えて「Dyndrite LPBF Pro」向けのアドインである「Ulendo HC」により、熱履歴均質化レーザースキャンパターンを生成し、造形品の歪みを削減する。
講演の後、エクスツルードホーンの工場内でAMFとTEMの製品と実際の加工デモを見学し、技術的な質疑応答も行われた。現状PBF方式以外も含め、金属AM造形品の仕上げ試験や加工の依頼は増えているとのことであった。
まとめ
記者も今回初めて知った仕上げ技術と製品であり、大変勉強になった技術交流会であった。このように、歴史や実績のある金属加工技術の中には、AMの課題解決や品質性能を向上するのに有用なものが、おそらく他にもあると見られ、またAMシステムメーカーや販売会社も協力してこのような技術をユーザーに広める機会はこれまで少なかったので、今回のようなイベントはユーザーにとっても大変有意義であったと言えよう。これから国内外でこのようなイベントがさらに増えることを期待したい。