AMの後処理を変える、独DyeMansion―AM VenturesのSimon氏が紹介する
3Dプリンティング業界に特化したVC(ベンチャーキャピタル)、AM Venturesのアジアリージョナルマネージャー、Lee, Sang Min(Simon)氏に世界の3Dプリンティング業界を語っていく第二弾。今回は、同社の投資ポートフォリオの一つでもあるドイツ、ミュンヘンに本社を置く3Dプリンティング後処理システムの世界的リーダー、DyeMansion社の歴史から、その技術の凄さを語っていただいた。第一弾記事はこちら(ShareLab編集部)
前回の記事では、アジア地域では特に、私たちAM Venturesをご存じでない方も多くいらっしゃるため、世界のAM業界でのベンチャー・スタートアップ企業の概況に合わせて、AM Venturesについてご紹介しました。世界的に見るとドイツ語圏ヨーロッパ地域(DACH -ドイツ、オーストリア、スイス)でのAMスタートアップ企業の生存率は他の地域に比べ、突出して高い状況です。その要因やアジア地域の現状は第一弾記事でご説明していますが、今回はそんなドイツ語圏ヨーロッパ地域に本社を置く、DyeMansion社をご紹介します。
目次
高付加価値製造アプリケーションを可能にするDyeMansion社の技術
DyeMansion社は、3Dプリントされたばかりの部品を高付加価値製品に変換する後処理の世界的リーダーであり、彼らが提供する3Dプリンティング部品の工業的および自動化された後処理技術は、AM技術を日常生活に溶け込ませるのに必要な一要素です。 同社のシステムは完全オーダーメイドの眼鏡から、車内装飾品、装具まで、幅広く手掛けます。
BMW、Daimler、Under Armour、Jabilのようなグローバル企業を含む世界中の600以上の顧客が、同システムを既に使用しています。 また同社は世界中に54の生産・販売パートナーを有しており、最近、産業用3Dプリンティングの世界最大の後処理プラットフォームを立ち上げました。 仕上げ品質、自動化、工業化の面で後工程をリードしています。
最初はスマホのカバーから。DyeMansionの始まり
DyeMansion社は、2013年ミュンヘンの小さな地下室で始まりました。
DyeMansionの創業者であるFelix Ewald氏とPhilipp Kramer氏は、3Dプリンティングサービス企業であるTrindo社を設立し、大企業のコーポレート・デザインの一つとして、3Dプリンティング製のスマートフォン用カバーを販売していました。しかしカバーの色が消えて、ズボンのポケットが染まってしまうほどの製品不備から、Trindo社は200ケースを回収しなければならなくなってしまいました。その解決策を模索する中で、2人の若い創業者は、3Dプリンティング製プラスチックの産業用カラー化技術に大きな可能性を見出し、独自の発色液を開発するアイデアが生まれました。
以来、スマートフォンのケースを事業として継続しながら、産業用カラー化ソリューションの開発に全社一丸となって取り組んできました。社名はTrindoからDyeMansion(Dye=カラー、Mansion=ハウス)に変わり、オンデマンドカラーサービスが開始されました。その後、ミュンヘンの「DyeMansion」で3Dプリントされたプラスチックを染色することにも成功しました。
Formnext Start-up Challenge受賞など輝かしい実績を持ち始めたDyeMansion
私たちAM Venturesは、DyeMansion社を始めすべてのビジョンは誰かがサポートする必要があると考えています。
AM Venturesの最高ベンチャーオフィサー、アルノ・ヘルドは、Additive Manufacturingに特化した独立系ベンチャーキャピタル会社で、DyeMansionnの創業チームの可能性とビジョンを非常に早くから認識し、2015年春に投資しました。以来、EOS GmbHの創立者であるDr. Hans Langer氏に支えられながら、AM Venturesチームは、産業用着色液の開発段階からDyeMansionを支援し、3Dプリンティング産業における他に類を見ないネットワークを提供しています。
AM Venturesの投資から9カ月も経たないうちに、DyeMansionは、Formankfurtで開催された展示会で、自社ハードウェアシステムの世界初のプレミアを祝いました。 また同社は、3Dプリントプラスチック用の世界初の自動カラー化ソリューションとして「DM60」を提供し、Formnext Start-up Challengeを受賞しました。そのような背景があり、オンデマンドサービスの受注が増加したため、同社は2016年夏にミュンヘン近郊のプラネッグに新しい社屋を開設しました。
そんな中、3Dプリントされた最終用途製品・部品には、単にカラーリング以上のものが必要であることがすぐに明らかになりました。そこで、プラスチックの表面品質を向上させ、お客様の手作業量を削減するために、2016年11月に世界初のDyeMansion Powershotシリーズを投入し、製品ポートフォリオを拡大しました。その後もDyeMansionは、革新的なハードウェア製品ポートフォリオから多くのドイツの新興企業の中でも自社の存在感を発揮しつつ、ドイツ連邦経済技術省のプログラム、「アクセラレータ・テック」を獲得し、ついに米国市場にも進出しました。 同社メンバーは、米国の空気を味わい、2017年の夏にシリコンバレーで経験豊富なメンターと一緒に過ごしました。
クリーニング、表面処理、着色を補完するDyeMansion Print-Productワークフローでより高度なソリューション提供が可能に
シリコンバレーで得た新しいアイデアと顧客からの貴重なフィードバックによって、DyeMansionは、3Dプリントプラスチックのクリーニング、表面処理、および着色の3つのシステムについて改善が進みました。そして2017年秋に、DyeMansion Print-to-Productワークフローという考え方を生み出しました。
このDyeMansion Print-to-Productワークフローと自動カラー化ソリューション「DM60」を組み合わせると、高価値製品にまで対応できる、部品の後処理のためのエンドツーエンド・プロセス・チェーンを顧客へ提供することができるため、完全なソリューションとなりました。これにより、同社は急速にAMシステムの世界市場パイオニアとなりました。
投資面では、AM Venturesからのシードファンディング後、2018年9月に2社の新規投資家が加わりました。 金融投資家Unternehmertum Venture Capital Partners(UVCパートナー)とbtov Partnersは、AM Venturesに続き、500万ドルのシリーズA資金で支援しました。これにより、同社はグローバル事業をさらに拡大し、新製品によるPrint-to-Productワークフローを拡大することができました。
また、より多くの最終的なオプションを顧客に提供するために、2019年の公式記者会見で、新しいPowerfuse Sシステムを発表しました。 これは、射出成形部品の表面品質を実現するクリーン蒸気技術「ベーパーヒューズサーフェシング」を支えるシステムです。 Powerfuse Sは、既存のPrint-to-Productワークフローを補完し、3Dプリント製品の全く新しいアプリケーション分野を開拓します。
(1/2ページ)