ヒューストン大学が3Dプリンターを使って人体に電子回路をバイオプリントできる樹脂を開発
アメリカのテキサス州にあるヒューストン大学の研究チームが、生体に電子回路を形作りセンサー部品を人間に3Dプリントできる特殊な樹脂材料を開発した。バイオプリントとは、樹脂や金属ではなく、生きた細胞や有機物をプリント素材として用いられるもののことで、機械と人体の融合などSFでのみ語られていた取り組みを具現化する可能性のある研究だ。(画像は今回発表された3Dプリントの流れ 出典:ヒューストン大学)
特殊な樹脂(レジン)の製作には多光子リソグラフィ(MPL)技術を活用
人体にバイオプリントを行うための素材づくりには、多光子リソグラフィ(MPL)という技術が採用された。この手法で天然の半導体材料を含む樹脂を光をあてながら造形し、人体への3Dプリント素材となる、生体と適合性のある小型回路基板を作っていく。
研究者たちはこれまでもMPL技術を用いて高精度のグルコースセンサーの作製を行ってきた。今後、研究開発がすすむことで、新しい技術のバイオエレクトロニクスデバイス開発への道が開けるのではないかと期待されている。
独自のMPL樹脂が従来の課題を解決
研究チームは、プリント素材として使用可能な材料の汎用性と15nmまで印刷可能な高精度の点で、MPL材料が3D加工が可能な微細加工技術の中で最先端のものであると位置づけている。しかし、材料として使用されるカーボンナノチューブやグラフェンは、その導電性の低さから、無機的な特性を持ち、樹脂にとって重要な部分を分離させないまま、均質に分散させることが難しいという課題があった。
これらの欠点を回避するために、ヒューストン大学の研究者は、溶媒であるDMSO(ジメチルスルホキシド)に、PEDOT(PSS天然半導体)、ラミニン、グルコース酸化酵素を搭載した化合物のPEGAポリマーで構成される独自のMPL樹脂を開発し、均質な特性を持つミニバイオ回路基板の3Dプリントを可能にした。
ラミニンは、さまざまな動物組織の膜から発見された糖タンパク質で、細胞の接着やシグナル伝達、移動を促進するものになるものだ。ラミニンを樹脂の素材として加えたことが大きな成果につながった。
ラミニンを含むMPL樹脂を、マウスの組織内で48時間培養したところ、投与していないサンプルと比較して、科学者たちは、その細胞が強化された証拠を確認し、さらに、それぞれの付着と増殖を促進する柔軟性を保持していることを明らかにした。つまり、ヒューストン大学の研究チームが作製した独自のMPL樹脂の生体適合性が示されたことになる。
また、導電性についても問題ないことが判明し、バイオセンサーとしての機能も従来のものと比べて約10倍の感度を持つことが示された。
研究チームは開発した樹脂が、バイオセンサー、ナノエレクトロニクス、臓器オンチップ、免疫細胞治療などの多用途バイオエレクトロニクスの新分野で、さまざまな機能を持つ感性的、生物活性的、導電性微細構造体の製造への道を開くと期待していると述べている。
生体適合性のある電子基板を作成できるこの研究は、人工骨や人工臓器などにとどまることなく、義肢や義足の飛躍的な発展なども期待できる上に、SFの世界でのみ語られていた機械と生体の融合を現実にするかもしれない。
身体の拡張は倫理的にも大きな問題をはらむ一大事だが、革新的技術が文化や人間の定義をも揺るがすほど大きな影響力を持つ時代に私たちは生きている。過度に期待せず、過度に敬遠しない適切な付き合い方が重要だが、そのためには正しい知識と理解が必要だ。
バイオ3Dプリンティングの現在に関して、これまでShareLabNEWS編集部もいくつか取り上げてきた。記事をまとめたリンクを紹介するので、ぜひ参照してほしい。
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