仏病院に移植用生体組織を製造するバイオ3Dプリンターを設置、実用化を目指す
フランスのConception病院は移植治療のため、Poietis社製バイオプリンターを導入した。品質、製造スピード共に向上し、実用化を目指す。
バイオプリント移植治療の抱える課題
バイオプリンターを用いた移植治療についてはこれまでにも様々な研究が行われている。本サイトでも『「生きた皮膚」を3D印刷-3Dプリンターで叶えるアンチエイジング』で扱った。
しかし、フランスのバイオテクノロジー企業Poietisの創設者兼社長のFabien Guillemotは、現状のバイオプリンティング移植治療を次のように評した。
「バイオプリンティングは組織の修復と置換における新しい治療戦略への道を開いたが、実際の医療に採用されるためには十分ではない」
多くのバイオプリンティングプラットフォームが開発されてきたが、そのどれもが、Good Manufacturing Practice規制と互換性がない。これは医薬品の品質と効果が保証されていないことと同義だ。販売の拡大においてもマイナスとなる。また、バイオプリントした移植用組織は未だ高額だ。製造に時間も掛かるため、用途が限られ、誰もが利用できるものではない。
以上の理由から、バイオプリンティングした移植用組織が人体に適用された例はまだない。実用化へは未だ超えるべき壁がある。
Poietis社はバイオプリンティング業界全体における製造プロセスの標準化が必要と主張している。
そもそも、Poietis社とはフランス国立保健医学研究所(French National Institute of Health and Medical Research: Inserm)とボルドー大学との間で2014年に設立されたバイオテクノロジー企業である。同社は世界で初めて精密なレーザを使った3Dプリンティング技術でヒト組織を作るのに成功。この技術を使い、人工の皮膚の研究では、世界最大の化学会社であるドイツのBASF社と技術提携も結んでおり、バイオ3Dプリンター業界の主要プレーヤーである。
同社は移植治療の限界を超えるため、Poietis社はマルセイユ公立大学病院システム(AP-HM)の細胞培養療法研究所と共同で2020年から臨床試験を行ってきた。
Poietis社のレーザーバイオプリンティング技術
Poietis社によって開発され、Conception病院(フランス、AP-HM の一部)に設置されたバイオプリンティングプラットフォームは、これまで医療用バイオプリンティングが抱えていた問題を解決するものと期待されている。
レーザー支援バイオプリンティングと 3D押出バイオマテリアル印刷を組み合わせ、完全な無菌環境で移植用組織の製造が可能となり、Good Manufacturing Practice規制の水準をクリアできる性能を持つ。加えて、高いレベルの再現性、柔軟性、印刷速度を得た。
印刷速度は従来の 1000倍とも言われ、数時間で40平方センチメートルの移植用皮膚製造が可能となった。参考までに、これは平均的な成人の総皮膚面積の1/400のサイズだ。移植用の皮膚面積としては十分なサイズと言える。
実際に3Dプリンターで作られている様子はこちらの動画の3:30頃から見ることができる。
移植皮膚バイオプリンティングによる火傷治療の可能性
Poietis社が今回導入したバイオプリンターは、火傷治療に関して新たな可能性を示す。
重度の火傷治療の場合、負傷した皮膚を切除した後、切除部に皮膚代替品を移植する必要がある。患者への悪影響を最小限に抑えるためには、患者一人一人に合った移植皮膚の構成、形状制御が欠かせない。
Poietis社のバイオプリンターを導入することで、患者から採取した皮膚のサンプルを元に、その場で移植皮膚の大量製造ができる。こうした仕組みは、患者の負担が少なく、迅速な移植治療を可能とする。
同社は将来的に、全ての病院にバイオプリンターが設置され、内臓への移植治療も可能になると考えている。そうした未来は意外と近いのではないか、とも。
関連情報
ShareLab NEWSでは、毎週月曜日に最新の注目ニュースと編集部おすすめの人気記事を選出してご紹介しております!ぜひこちらからメルマガご登録をお待ちしております!
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。