大学と3Dプリンター販売代理店の新たな協業 ― Brule×東京大学 3D Printing Advanced Technology Center開設セレモニー
東京大学大学院工学系研究科附属国際工学教育推進機構ものづくり部門は、3Dプリンターや関連機器の販売と運用を行うBrule Inc.と協働で、東京大学キャンパス内に「3D Printing Advanced Technology Center (3Dプリンティング・アドバンスド・テクノロジーセンター)」(以下3DP-ATC)を設立した。最新各種3D プリンターのショールーム、受託造形サービス、後処理・製品検査、プレゼンテーションルームやオフィスルームを兼ね備えた設備として、東京大学内の学生・教職員、およびものづくりに関わる企業各社の利用を想定している。この場所が目指すのは、3Dプリンター/AM技術を活用したものづくりを加速させることだ。2023年4月21日に実施された、3DP-ATCの設立セレモニーの様子をお届けする。
グローバルな3Dプリンター販売代理店と大学のタッグ
セレモニーではまず、Brule Inc. エグゼクティブバイスプレジデント 最高収益責任者の宇野博氏から企業の概要とセンター立ち上げの経緯についての説明があった。Brule Inc.は2006年の設立から16年以上にわたって3Dプリンター関連のビジネスに取り組んでいる企業。本社はアメリカのイリノイ州にあり、東京にも日本支社を持つなど、グローバルに展開している。3Dプリンターの本場であるアメリカに本社を持ち、主要メーカーと密なコミュニケーションを取ることで、最新の情報を顧客に提供できることが強みだという。
Brule Inc. が扱う製品のラインナップは、数十万円台から数億円レベルと幅広く、デスクトップからプロフェッショナル向け、プロダクション用まで多様なニーズに応えている。素材は樹脂、カーボン、金属などを含めて400種類に及び、形状確認から機能確認、最終プロダクトまで幅広い用途に対応している。 3Dプリンター/AM技術の本場米国に本社を構え、豊富な3Dプリンターラインナップを所有するBrule Inc.と、世界最高水準の学術機関である東京大学がタッグを組み、東京大学内に開設した3DP-ATC。その目的は、東京大学内外の学生・教職員、その他学術機関、並びにものづくり企業各社にセンターを解放し、3Dプリンター/AM技術を活用したものづくりの普及を推進することだという。
3DP-ATCは東京大学工学部5号館の4階に設置され、事務所、ショールーム、プレゼン・製品検査ルーム、後処理ルームから構成される。キャンパス内のワンフロアが、ほとんどそのままセンターとして使われているような格好だ。
3DP-ATCの主な機能としては、
- 3Dプリンター/AM技術の最新技術動向の情報配信(セミナー、Web、SNS等)
- 3Dプリンター/AM技術を活用した最新ものづくりのコンサルテーション
- 3Dプリンター/AM技術を活用した最新ものづくりの共同研究開発
- 各種3Dプリンター/AM機器の貸出
- 各種3Dプリンター/AM機器のトレーニング(スタンダード、アドバンス)
- 各種3Dプリンター/AM機器を活用した造形サービス(Dfam、3D計測/検査等含む)
- 各種3Dプリンター/AM機器のデモンストレーション
といったものが想定されている。
大学における3Dプリンター運用の構造的課題
東京大学工学系研究科国際工学教育推進機構ものづくり部門技術職員の矢口雄大氏は大学側の視点からセンターのニーズを説明。ものづくり部門では以前より切削加工、放電加工などの機械加工と、3Dプリンターなどのデジタルファブリケーション機器を用いて、研究・教育のためのものづくり環境を提供してきた。「ベンチャー工房」を運用して学内からの事業創出も支援してきたが、AM技術ならではの課題も抱えていたという。
3Dプリンターの技術は2023年現在もかなりのスピードで進歩しており、造形の形式や材料の変化も目覚ましく、数年単位で圧倒的な高性能化が果たされている。また、適用可能な範囲の広い技術であるため、大学としても素早い情報のキャッチアップや利用提案が必須だ。
しかし大学においては、運用年数の制約やサポート体制の都合上、どうしても導入した設備が早期に陳腐化してしまいがちだという。技術職員も不足しており、多機種を一人で扱わなければならない体制では、すべての機種に習熟するのは困難であったと矢口氏は語る。
また、大学内だけでは、同一機種を使い続けるユーザーを確保することも難しい。卒業研究シーズンなど、ユーザーの需要には季節性があり、特定の時期への集中や余剰も発生していた。こうした背景を踏まえ、リースやデモ機などを活用する機材導入と、外部ユーザーの受け入れが必須だったことから、安定した運用やサポートを担えるBrule Inc. との協働を提案したという。
また、大学における3Dプリントメーカーとの共同研究では、特定機種の改善やR&D、ユースケースの開拓を担うことが多い。今回の3DP-ATCでは、BRULE Inc.がすべての窓口となり、ユーザーに向けた個別の提案やコンサルティングも担っていくという。
学内利用者に向けた運用方法は従来と変わらないが、学外企業が利用する際には、Brule Inc. が窓口となる格好だ。学内でのより快適な利用を促進しながら、学外の利用者にも開放することで、より安定した運用や新しいつながりの種を見つけるような構造になっていることに、スキームとしての新しさが感じられる。
質疑応答
セレモニーの最後には、センターの運用に関する質疑応答が行われた。
Q1)メーカースペースや既存の受託印刷サービスとの違いを説明してほしい。
A1)3Dプリンター/AM技術を活用したものづくりの普及をコンセプトとしているため、単なる受託サービスではなく、最新のものづくりのコンサルテーションや共同研究開発をサービスとして提供する。
Q2)どのような機種を揃える予定か。造形サービスの価格も気になる。
A2)金属プリンター、SLS、SLA、DLP、FDM、インクジェットの各方式に加え、3DスキャナーやCTスキャナ、各種3DCADソフトの利用も可能。各サービスの価格や運用開始時期といった詳細については、後日案内する。
Q3)設備利用だけでなく、データ制作やDfam(Design for Additive Manufacturing、3Dプリンターの特性に特化した設計)支援といった人的支援も受けられるのか。
A3)図面からの3Dデータ作成や、3Dスキャン等のサービスも展開する。
Q4)Additive Manufacturing Centerと名づけているのは、電子回路の製造やロボットアームによる溶接、コンクリートを印刷する建築といったことも視野に入れているからか。
A4)おっしゃる通り。世の中のニーズをいち早く捉えて、先進性のある技術は今後も積極的に取り入れていきたい。
3DP-ATCの見学ツアー
セレモニー終了後、センターの見学ツアーが行われた。準備が進んでいる最中の部分もあったが、多彩な3Dプリンターや計測機器、後処理機器などが並ぶ様子は壮観で、ここからどのようなものが生まれていくか、想像力を刺激される。
Desktop Metal社のマシンも並び、金属造形にも対応。ミクロレベルから大型の金属造形まで、さまざまな機材を取り揃えたことで、学内外の幅広いリクエストに応えることができる。多くの学部を持つ、総合大学ならではのバリエーションだ。
後処理、後加工用の機材も並び、ものづくり全般への手厚いサポートを予感させてくれる。
CTスキャナーや高精度な3Dスキャナーなど、検査やリバースエンジニアリングに活用できる機材も豊富。
大型のハイエンド3Dプリンターと矢口氏。これまでほとんど一人ですべての3Dプリンターを整備してきたため、とても手が回らなかったという。Brule Inc.との協働という新しいスキームによって、技術職員の働き方もよい方向へと変わっていくだろう。
まとめ
大学と3Dプリンター販売代理店のコラボレーションという、一見珍しい組み合わせも、話を聞けば非常に理に適った関係性であることがわかった。技術革新のスピードが速い3Dプリント業界と、保守点検や機材の導入年数で制約の多い大学で起きていたミスマッチや陳腐化を解消する、革新的なスキームであると言えるだろう。
また、多様な機材を扱うBrule Inc. をパートナーとして迎えたことで、3DP-ATCは魅力的なショールームとしての側面も持つ。3Dプリンターを活用したい事業者にとって、利用や見学の最初の一歩としてお勧めできる場所だ。
3DP-ATCの運用はこれから始まるが、将来的には外部からの利用者と学内研究のマッチングや、3Dプリント/AM技術の活用事例を積極的に発信していくことも想定しているという。国立大学らしい開かれた場所として、学内のみならず一般の利用者や公共にも資する場所になっていくだろう。今後、どのような試みや連携が生まれていくのか、動向を見守っていきたい。
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