エントリーレベルの3Dプリンターの出荷が再び世界的に急増 ― context
3Dプリンターの出荷統計を発表している CONTEXTによると2024年第2四半期の世界の3Dプリンター出荷状況をみると産業用が前年同期比(YoY)で減少し第1四半期と同様の傾向を示した。一方、エントリーレベルの3Dプリンターは引き続き爆発的な成長を遂げた。(上部画像はCONTEXTのブログ。出典:CONTEXT)
目次
2024年第2四半期の3Dプリンター出荷動向3つの傾向
CONTEXTは3Dプリンターを導入価格帯をもとに、10万ドル以上の産業用3Dプリンター(industrial)、2万ドルから10万ドル未満の中価格帯3Dプリンター(midrange)、2500ドル以上2万ドル未満のプロユース 3Dプリンター (proffessional)、2500ドル未満の入門用3Dプリンター (entry-level)に分類している。2024年第2四半期はこうした区分の中で3つの傾向が見いだせたという。
- 産業用3Dプリンターは前期に続き深刻な落ち込み。出荷は前年同期比-25%で4四半期連続の減少となった。
- プロユース3Dプリンターは、Formlabsの新製品発売が成功したことで改善を見せた。
- 入門用3Dプリンターではさらに成長が加速し、出荷は前年同期比で65%増加した。
第2四半期の3Dプリンターの世界売上の前年同期比7%の増加は、入門用3Dプリンターの出荷の急増によるものであり、2023年第2四半期と比較して売上が58%増加した。その他のセグメントの売上は前年より減少しており、プロユース3Dプリンターでは-21%の大幅な減少が見られたが、特に産業用3Dプリンターの売上が-17%の減少を記録している。これは深刻な懸念材料だ。第2四半期において、入門用3Dプリンターは世界の3Dプリンター売上の48%を占め、産業用3Dプリンター(38%)を上回り、最高売上を記録する価格帯となった。
産業用樹脂3Dプリンターの出荷動向
10万ドル以上の産業用3Dプリンターにおける最大の課題は、光造形方式の装置出荷が低迷していることだ。全体の出荷は前年同期比で36%減少しており、中国の主要ベンダーであるUnionTechも大幅な減少を記録したほか、アメリカ・ヨーロッパのオリジナル装置メーカー(OEM)の出荷も振るわない。
特に3D Systemsは、インフレの影響で消費者の支出が美容歯科手術から他分野に移行し、下流の需要が低迷しているため、依然として厳しい状況にある。とはいえ、UnionTechは依然としてグローバルな産業用光造形装置で主導的な地位を保ち、アメリカ・ヨーロッパ市場では3D Systemsがリーダーとして位置づけられている。
産業用金属3Dプリンターの出荷動向
2024年第2四半期における産業用金属プリンターの出荷は、前年同期比で7%減少したものの、直近12カ月の累計ではわずかに増加(2%)している。
依然として人気が高いパウダーベッド融合(PBF)技術は、金属系プリンターの出荷台数の78%、売上の85%を占めており、このカテゴリーの中で最も堅調である。PBF技術の出荷数は前年同期比でほぼ横ばい(1%減)で、直近12カ月でも同様の傾向が続いている。しかし、一部の中国OEM、例えばBLT(31%増)、Eplus3D(29%増)、ZRapid Tech(54%増)などは例外的な成長を見せている。
これらの企業を含む中国のベンダーは、ほとんどが中国国内の販売に注力しており、第2四半期における産業用金属PBFシステムの53%の出荷を占めたが、売上シェアは32%にとどまっている。ただし中国国内出荷の成長率は鈍化しつつあり、2024年第2四半期の中国の出荷増加率は前年同期比で5%にとどまっている。これは、前3四半期での19%、38%、45%の増加と比べると明らかだ。
なお、出荷台数においてはBLTが世界トップの地位を占め、売上面ではEOSが再び首位に立っている。
中国以外のベンダーでは、産業用金属PBFシステムの出荷が前年同期比でわずかに改善したが、それでも依然として2%減少している。特にTRUMPF(22%増)やColibrium/GE Aerospace(35%増)など一部の企業では出荷増加が見られるが、他の企業では依然として厳しい状況であった。Nikon SLM Solutionsはこの期間中の出荷台数は減少したものの、NXGシステムの高い関心を受け、これらの高度なシステムの出荷が加速しているため、前年同期比で30%以上の売上増加を記録している。他の多くのベンダーも、最近の四半期において大容量ビルドボリュームと多数のレーザーを搭載した高効率な金属PBFシステムを導入しているが、contextによると量産体制にあるのはNikon SLM Solutionsのみである。
中価格帯3Dプリンターの出荷動向
中価格帯3Dプリンター($20,000–$100,000)の販売は、2024年第2四半期でも前年同期比6%減少と引き続き低迷している。この四半期、光造形方式を除く全ての造形方式の3Dプリンターで出荷減少が見られた。また、直近12カ月(TTM)のデータでも、中価格帯3Dプリンター全体で前年同期比10%減少しており、かつて急成長していた樹脂ーPBF市場も、現在では安定した成長ペースに落ち着いたようだ。
この価格帯で成果を上げている企業の多くは中国に拠点を置き、主に国内販売に集中している。第2四半期では、中国のベンダーの出荷が前年同期比18%増加した一方、世界全体では15%減少した。アメリカ・ヨーロッパのトップ10ベンダーは全社が出荷減少を示す一方で、中国のベンダー(UnionTech、ZRapid Tech、Flashforge)は好調を維持し、UnionTechは前年同期比12%、Flashforgeは驚異的な90%増加を達成している。
このカテゴリにおけるグローバルトップ3ベンダーはStratasys、UnionTech、Formlabsとなっている。
プロユース3Dプリンターの出荷動向
数四半期にわたって大幅な前年同期比出荷減少が続いたプロフェッショナル価格帯($2,500–$20,000)でも、2024年第2四半期の出荷は前年同期比10%減と減少幅が小さくなった。これは主にFormlabsが新製品にスムーズに移行できたためだ。TTMベースで見ても、出荷は依然として大幅に減少(-28%)しているものの、多くの需要が低価格な入門用3Dプリンター製品にシフトしている傾向がある。
この価格帯でトップを維持するベンダーは、UltiMakerとFormlabsである。UltiMakerは主にマテリアル押出装置に注力し、Formlabsはバットフォトポリマー化製品を中心に展開している。このセグメントでは、伝統的にFDM/FFFソリューションが優勢で、材料押出装置(MEX方式)の出荷が光造形装置(VPP)を通常65:35の割合で上回っていたが、ここ1年でこの比率が変化し、2024年第2四半期にはほぼ50:50に接近した。なお、MEX方式の3Dプリンター出荷は前年同期比で21%減少しているが、光造形装置の3Dプリンターは6%増加している。
入門用3Dプリンターの出荷動向
2024年第2四半期の低価格入門用3Dプリンター($2,500以下)は引き続き好調で、四半期ベースで34%、前年同期比で65%、TTMベースで41%の成長を記録している。
この価格帯ではCrealityが市場を支配しており、前年同期比で64%の出荷増加(上半期全体では45%増)を達成し、四半期中にこのカテゴリで出荷されたプリンターの47%を占めた。Bambu Labも例外的な成長を遂げ、前年同期比336%の増加を達成して世界シェア26%を獲得している。
この$2,500未満のカテゴリでは、上位4社(Creality、Bambu Lab、Anycubic、Elegoo)が出荷の94%を占めている。
今後の見通し
2024年第2四半期は、多くのアメリカ・ヨーロッパ企業が厳しい状況に直面し、StratasysやVelo3D、Markforgedがレイオフを実施し、一部企業が破産申請を行った。長期的に予想されていた大規模な統合が進展し、Nano DimensionがDesktop MetalとMarkforgedの買収計画を発表した。高金利で設備投資が遅れているものの、OEM各社は関心を維持しており、市場回復の兆しが見られている。
特に金利低下により産業用3Dプリンターの需要が回復する可能性があり、9月には米連邦準備制度理事会が4年ぶりに利下げを実施。2025年までに数回の利下げが予想され、企業の業績改善が見込まれる。この影響で、2024年の産業用セグメントの予測は下方修正されたものの、中国での金属PBFシステム需要によりユニット出荷は前年比1%増、売上は6%増が期待されている。ミッドレンジおよびプロフェッショナルの出荷も2025年には回復が予想される。
中国は予想を下回るGDP成長の中でも、国内の金属PBFシステムとエントリーレベル市場で好調を維持。複数の中国OEMがIPOを予定しているが、現在の需要は実需に基づいているとされる。
contextによれば、長期的には産業用セグメントが最も成長し、5年間で年平均成長率19%に達すると予測されている。
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