高強度フルカラー造形が可能な3Dインクジェットプリンター技術を開発 ― リコー

2025年6月4日
実際に造形した入れ歯


株式会社リコー(東京都中央区、以下、リコー)は、生体適合性を有し、高強度かつフルカラー出力が可能なレジン成型物を、3Dプリンター技術によって製造する新たな手法を開発した。本技術の活用により、意匠性が求められるオーダーメイド製品への応用が期待されている。(上部画像は実際に造形した入れ歯。出典:リコー)

高強度・高精度・フルカラーを両立した3Dプリンター技術

今回開発された技術は、インクジェット技術を応用したマテリアル・ジェッティング方式を基盤に、独自配合のフィラーを含むインクと、独自設計のプリンティング・プロセスを組み合わせることで、高強度・高精度・フルカラーを同時に実現する。多彩な色調を持つ造形物を、従来技術では困難であった水準の強度と精度で出力することが可能となり、カラーデザインの自由度が飛躍的に高まる。特に意匠性が求められる分野への応用が期待されている。

また、造形物には生体適合性が認められており、歯科用補綴物などの医療用途への展開も見込まれている。すでに株式会社コアデンタルラボ横浜(神奈川県横浜市)では本技術の導入が進められており、歯科業界における臨床応用の可能性についての検証が行われている。

オーダーメイド製品製造の課題と3Dプリンター技術の限界

歯科用補綴物やメガネフレームといったオーダーメイド製品には、高い品質が求められるが、これらの製作には多くの工程で人手に依存しており、手間とコストが大きな負担となっている。そのため、3Dプリンターによる自動化製作への期待が高まっており、実際に導入に向けた検討が各所で進められている。

従来、3Dプリンターによって造形されたレジン成型物の応用例としては、光造形方式による義歯、メガネフレーム、フィギュアなどがある。これらの用途に応じて物性や色調の調整が必要であり、すでに世界中で実用化が進んでいるものの、成型物の力学的強度が不十分であるため、高強度が求められる用途では一時的な使用にとどまるのが現状である。

さらに、これらの方式では単色による造形しか対応できず、意匠性や審美性への要求に十分に応えることができない点も課題となっている。一方、インクジェット技術と紫外線硬化樹脂を用いたマテリアル・ジェッティング方式は、フルカラー造形が可能な点で優位性を持つが、出力される造形物の強度が低く、現在のところデザイン試作などに用途が限定されている。

マテリアル・ジェッティング方式の概要
マテリアル・ジェッティング方式の概要。出典:リコー

そこでリコーは、インクとプリンティング・プロセスを一体化した独自技術により、マテリアル・ジェッティング方式における造形物の強度向上を実現した。この成果により、従来は両立が困難であった高強度とフルカラー造形の同時達成が可能となっている。本技術の確立により、強度・精度・審美性のいずれにも優れた次世代型3Dプリンターの実用化が現実のものとなり、多様な産業分野への応用が期待されている。

独自インクと6ヘッド構成で実現

リコーは、マテリアル・ジェッティング方式を基盤とし、インクおよびプリンティングプロセスの改良によって、高強度なフルカラー造形の実現に挑戦してきた。

同社が使用するインクには、独自開発のフィラーが添加されており、これにより造形物の強度を大幅に向上させながらも、インクジェットノズルからの安定した吐出性能を保持している。さらに、フィラーを含む高強度なクリアインクおよびホワイトインクを主成分とし、カラーインクについては高濃度かつ局所的に少量配置することで、高強度とフルカラー表現の両立を可能としている。

加えて、モノマーの配合最適化により造形物の生体安全性も確保されており、日本工業規格 JIS T 0993-1 に準拠した生物学的安全性試験においても、安全性に問題がないことが確認されている。

独自のマテリアル・ジェッティング方式の技術概略
独自のマテリアル・ジェッティング方式の技術概略。(出典:リコー)

リコーが開発したマテリアル・ジェッティング方式の3Dプリンターには、同社製のインクジェットヘッドが6基搭載されており、使用されるすべてのインクは紫外線により硬化する仕様となっている。各インクジェットヘッドは、所定の位置に対して適切な量のインクを正確に吐出し、直後に紫外線を照射して硬化させる。この工程を繰り返すことで、設計通りの色調を持つ立体造形物の形成が可能となる。

カラーインクには、イエロー、マゼンタ、シアンの3色が用いられており、オフィス用プリンターと同様に多彩な色調の再現が可能である点も本システムの特長である。

造形物の色調バラエティ
造形物の色調バラエティ。(出典:リコー)
印字の微細性(厚み1mmのクリア造形物内部にカラーインクで描画)
印字の微細性(厚み1mmのクリア造形物内部にカラーインクで描画)出典:リコー

医療応用へも展開進む高強度フルカラー技術!

本技術は、高強度・高精細・高い審美性を兼ね備えていることに加え、生体適合性も有している。このため、一般産業用途にとどまらず、医療分野への応用も大いに期待されている。

本技術の歯科分野における優位性としては、まず現在市販されている歯科用3Dプリンターの中でも最高水準の力学的強度を備えている点が挙げられる。また、歯に特有の自然な色調グラデーションの再現が可能であり、従来の仮歯用途に加え、小臼歯までを対象とした長期使用を前提とする差し歯への応用も実現している。

さらに、色調の異なる複数のパーツを同時に一括造形できる点も大きな利点である。これにより、歯と歯肉が一体化した入れ歯を一括で造形可能となり、歯と歯肉の境界部においても極めて滑らかで美しい仕上がりが得られる。

人工装具やメガネ分野に展開期待

本技術の登場により、従来は試作品のデザイン用途に限られていたマテリアル・ジェッティング方式の応用範囲が、実用的な製造用途にまで拡大されつつある。たとえば、顔や身体にフィットするメガネフレームといったボディフィット製品や、外見的再建を目的としたエピテーゼ(人工装具)などへの応用も視野に入っている。個々の利用者のニーズに応じた審美性の高いパーツを製造可能な手段として、本技術には今後さらなる展開が期待されている。

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