米国エネルギー省のオークリッジ国立研究所(アメリカ・テネシー州・オークリッジ市、以下、ORNL)は、原子炉用部品における革新の新たなマイルストーンとして、3Dプリントによって製造されたステンレス鋼製の実験用カプセル2基の試験に成功した。これらのカプセルは、同研究所が所有する高フラックス同位体炉(HFIR)において実験が行われた。(上部画像はORNLのニュースページより。出典:ORNL)
目次
AM技術が原子力の安全基準を満たす重要な一歩
この成果は、AM技術によって製造された部品が、原子力用途に求められる厳格な安全基準を満たし得ることを実証する重要な一歩である。カプセルは、照射実験において試料を収納するために使用され、炉内における材料の反応を調べる役割を果たす。これらのカプセルは、実験中に圧力や試料の封じ込めを確保するという安全上の重要な機能を担っている。
高耐久カプセルの製造と照射試験に成功し実用性を実証
ORNLのチームは、同研究所の製造実証施設(MDF)において、レーザー粉末床溶融結合法を用いて316Hステンレス鋼製のカプセルを造形した。この鋼材は、高温強度、耐腐食性、耐放射線性、優れた核用途での性能および溶接性を有することから、原子炉環境において安全かつ耐久性のある使用が可能であるとして評価対象となった。
その後、ORNLの照射工学グループがカプセルの組立てと品質確認を行い、HFIRへの挿入が実施された。1か月にわたる炉内照射試験の後、カプセルは完全な形で取り出され、その耐久性が確認された。この実証により、今後の原子炉部品設計において、AM技術の活用が現実のものとなる可能性が高まった。

AM技術が原子力分野の革新と試験効率化を促進
MDFのディレクターであるライアン・デホフ氏は以下のように述べている。
「これらの造形部品の信頼性が示されることで、将来的には重要な原子炉部品の製造においてAM技術が標準となる可能性がある」
HFIRは世界有数の高中性子束環境を提供する設備であり、燃料や材料の過酷条件下での性能評価を可能とする。これまで、燃料および材料試験用のカスタムカプセルの製造は、高コストかつ長時間を要する作業であった。AM技術は、この開発プロセスを効率化し、コスト削減と納期短縮を実現することで、原子力科学および技術の革新を加速させる可能性を秘めている。
エネルギー省の支援体制が研究と産業革新を後押し
この研究は、エネルギー省原子力エネルギー局の先進材料・製造技術プログラムの支援を受けて実施された。HFIRはエネルギー省科学局のユーザーファシリティであり、MDFは同局の支援のもと、米国製造業の変革を推進する全国的な共同研究ネットワークの一翼を担っている。
オークリッジ国立研究所は、エネルギー省科学局によって支援されており、同局は米国における物理科学分野における基礎研究最大の支援機関である。同局は、我々の時代における最も重要な課題に取り組むことを目的としている。
関連記事
今回のニュースに関連するものとして、これまでShareLab NEWSが発表してきた記事の中から2つピックアップして紹介する。ぜひあわせてご覧いただきたい。
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。



