Bambu Lab H2Sがさらに大型化して登場、次期モデルH2Cの開発ストーリーも公開

2025年9月5日
Bambu Lab Blogより。

Bambu Labはシングルノズル機の新旗艦H2Sを発表した。X1C比で約220%の造形体積と高速・高精度・高信頼をうたい、プロ用途まで見据えた完成度を示す。一方で同社は年末までにH2シリーズの新機種H2Cの出荷準備を整える計画を明らかにし、なぜその存在を今伝えるのか、そしてH2Cの技術的背景についても発表した。(上部画像はBambu Lab Blogより「H2S」。出典:Bambu Lab)

H2Sの狙いと基本性能

ユーザーの声を反映し、デュアルノズルの複雑さを排除しつつ、性能と使い勝手を拡張したのがH2Sである。シングルノズルでの究極の造形体験を提供することを標榜し、以下の特徴を備える。

H2Sはシングルノズル方式の性能にさらなる基準を打ち立てる。

  • 造形体積は340×320×340mm。X1Cの約220%に相当し、大型かつ野心的なプロジェクトに十分な空間を提供する。
  • 最大1000mm/sのツールヘッド速度と20,000mm/s²の加速度。X1C比で約30%高速化し、最適化されたシングルノズルツールヘッドとホットエンドにより高流量かつ短時間造形を実現する。
  • 350℃対応ホットエンドと65℃のアクティブ加熱チャンバー。PLAから炭素繊維強化フィラメントまで安定出力し、反りを抑制する。
  • 23基のセンサーと3台のカメラを用いた監視。問題を事前検知して失敗を防ぎ、夜間の長時間造形でも高い信頼性を確保する。

さらに、Bambu Labの第二世代技術を搭載。

  • PMSMサーボモーターエクストルーダー。従来比67%高い押出力と20kHz電流フィードバック制御で、広範なフィラメントに安定対応。
  • ビジョンエンコーダー(オプション)。50μm未満の動作精度を狙い、産業機レベルの寸法再現性を目指す。
  • 自動穴・輪郭補正。材料収縮や公差を自動補正し、シャフトやベアリング、ファスナーの嵌合を一発で決める。

安全機構と拡張性も特徴的だ。H2S Laser Full Combo構成では、レーザー彫刻・カッティング、デジタルカッティング、精密描画を同一筐体で提供し、レーザー保護ガラスや非常停止、ドア・カバー監視、5基の火災センサーを備える。インテリジェントエアフローにより各モードで最適化が行われ、無人運転の安心感を高める。価格はベース構成で1,249ドルからとし、H2Dより低価格でプロ品質を広く提供する構えだ。

なぜ今H2Cの存在を明かしたのか

H2Sの発売と同時に、Bambu LabはH2シリーズの次機種H2Cの存在を公表した。新モデルの告知はH2DやH2Sの販売を鈍らせ、短期収益に影響する可能性がある。それでも同社は、後から情報が出て既存購入者が後悔する事態を避けるため、透明性を優先して共有する判断に至った。H2Cはまだ倉庫着にも至っていないが、開発は最終盤にあり、2025年末までに出荷準備を整える方針である。

Bambu Lab Blogより「H2C」。(出典:Bambu Lab)

プリンターがパージする理由と、色替えの発想転換

単一ノズルで色を切り替えると旧材が新材を汚染するため、ノズルのパージが必要になる。絵筆を色替えのたびに洗うのと同じ理屈だ。では、そもそも「洗わなくて済む」アーキテクチャは可能か。筆に相当する機構をどこまで入れ替えるかで答えは変わる。ガントリー全体、ツールヘッド、ホットエンド、ノズル単体のいずれを交換単位とするかで、信頼性とフットプリント、コストのトレードオフが生じる。

色替え方式の選択肢とトレードオフ

プランA ガントリー全体を交換
接続の問題は小さいが高価で大型化する。IDEXに代表され、実質2ノズルが限界になりやすい。

プランB ツールヘッドのみを交換
動作系を共有でき省スペースだが、ヘッドの機械コネクタと体積が課題で、多数搭載は難しい。E3DやPrusa、Snapmakerなどが実装してきた方式である。

プランC ホットエンドアセンブリのみを交換
さらに小型・低コストだが、電力と温度信号の接続信頼性がボトルネックになる。ポゴピンのデモは容易でも、数百万回の切替サイクルに耐える設計は難しい。

プランD ノズル+ヒートシンクのみを交換
ツールヘッド側で加熱・計測する前提なら最も単純だが、数千回級の交換で熱伝導の再現性を確保するのが難題となる。

Bambu Labは2023年、総合判断でプランCが最適と結論づけた。ただし最大の壁はコネクティビティである。

H2Cの核心 無線化で突破するホットエンド交換

同社は機械的コネクタを捨て、誘導加熱と無線通信を組み合わせることで壁を越えたという。ホットエンドにカスタムマイクロ回路を実装し、電力供給・温度計測・データ通信をすべてワイヤレスで完結。結果としてホットエンドはノズル、ヒートブレーク、サーミスタ、小型PCBの4部品に集約され、重量10g、20×15×56mmという非常にコンパクトなモジュールに収まった。デモ段階を越えて堅牢性と認証適合性を満たすまでに多大な設計・検証を費やしたとのことだ。

もう一つの山 ミクロン級の位置決めとソフトウェア

交換式を成立させるには、ノズルが毎回ミクロン精度で同一位置に収束しなければならない。繰り返し精度の高い機械構造と、素早く正確な計測が鍵となる。さらに、組み込みファームウェア、スライサー統合、UIの完成度が製品体験を決定づける。同社は当初ソフトウェアのウエイトを過小評価し、ハード完成後も出荷見送りが続く局面があったが、磨き込みを経て、H2Cの出荷準備に自信を得たとする。

既存機からのアップグレード方針

H2DからH2Cへのアップグレードは可能である。ただし、手順の厳守、数時間の作業、一定のスキルが必要で、初心者には推奨されない。H2SからH2Cへも技術的には可能だが、投下時間とコストに見合わない可能性が高く、同社は無用な投資を避ける判断材料として今回の情報を公開している。

今すぐの現実解はH2S、次の到達点がH2C

H2Sはシングルノズルのシンプルさを維持しつつ、造形空間、速度、温度管理、監視、安全まで総合力を高めた実用機である。H2Cは色替えの体験を根本から変えるべく、無線ホットエンドという新機軸に挑む次の一手だ。Bambu Labは短期の販売影響を承知でロードマップを共有し、ユーザーに選択の判断材料を提供した。大型・高速・高信頼のH2Sを今選ぶか、色替え体験の革新を目指すH2Cを待つか。用途と導入タイミングに応じた最適解を、ユーザー自身が選び取る段階に入ったといえる。

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