空飛ぶクルマが大阪・関西万博で飛んだ舞台裏 ― 丸紅、LIFT Aircraft

2025年5月6日

大阪・関西万博では、未来社会ショーケースの象徴として「空飛ぶクルマ」の実証が進められている。その中で注目を集めているのが、LIFT Aircraft Inc.(アメリカ合衆国 テキサス州、以下、LIFT Aircraft)が開発した1人乗りeVTOL(電動垂直離着陸機)「HEXA」によるデモフライトである。だが、その成功の背景には、単なる航空技術ではなく、最新の製造技術が支えている。丸紅株式会社(東京都千代田区、以下、丸紅)は、LIFT Aircraftと連携し、HEXAの国内飛行実証を推進してきた。大阪・関西万博では、会場内の「EXPO Vertiport」にて複数回のデモフライトを実施予定だ。さらに、会期後半には英国Vertical Aerospace社の「VX4」(5人乗り)による2地点間のフライトも計画されている。これにより、来場者に次世代モビリティの可能性を直接体験してもらう試みが進められている。(上部画像はLIFT Aircraft CEO Matt Chasen 氏、丸紅 常務執行役員 水野 博通 氏と大阪・関西万博会場でデモフライトを行った「HEXA」出典:丸紅)

わずか13ヶ月で飛行可能に!製造革命が実現したHEXAの開発スピード

「HEXA」がここまで短期間で製品化され、空を飛べるまでに至った背景には、LIFT Aircraft独自の製造哲学と最先端の技術活用がある。その鍵を握ったのが、「3Dプリンティング」と「ジェネレーティブデザイン」の融合である。開発初期段階から、同社は「従来の航空機設計ルールを無視してもよい」3Dプリンティングの柔軟性を最大限に活用。特に、安全性に直結するパーツ「ENDY」の設計では、従来の削り出し加工では達成できなかった軽量化と高強度の両立を実現した。この部品は、パラシュート開傘時の瞬間的な11.5Gの負荷に耐える設計でありながら、最終的には40%の軽量化に成功している。

この開発には、積層造形分野で豊富な実績を持つMaterialise(ベルギー・ルーベン)も参画。SOLIDWORKSとSiemens NXを用いたトポロジー最適化、さらにMagicsによる造形シミュレーションにより、極めて高い精度と強度を両立させた。重要なのは、これらの技術が従来の部品製造よりも圧倒的に速く、繰り返し最適化が可能であったことだ。

「空飛ぶクルマ」は設計・製造技術の進化の象徴

LIFT Aircraftが選んだ「ウルトラライト機」のカテゴリー(米国基準)も、スピード重視の戦略の一部だ。この分類では、FAAの型式認証やパイロットライセンスが不要であるため、市場投入までの障壁が極めて低い。一方で、重量制限などの技術的ハードルも存在し、それを乗り越えるためには、高度な設計と製造手法が不可欠だった。ここにこそ、日本が進める「高度な金属積層造形システム技術開発構想」(内閣府・経済産業省 )との接点がある。日本政府もまた、精度向上、欠陥抑制、高速・高機能部品製造を可能にする統合型造形システムの確立を目指しており、今後こうした取り組みがHEXAのような革新的モビリティへの応用につながっていく可能性は高い。

丸紅株式会社の概要

丸紅は、1949年設立の日本を代表する総合商社で、エネルギー、食料、化学品、インフラ、航空宇宙など多岐にわたる分野でグローバルに事業を展開。航空分野では丸紅エアロスペースを通じて先進技術の導入・支援を行い、近年はeVTOLや空飛ぶクルマの社会実装にも積極的に取り組んでいる。

LIFT Aircraft社の概要

LIFT Aircraftは、米国テキサス州オースティンを拠点とするeVTOL(電動垂直離着陸機)スタートアップで、誰もが簡単に操縦できる空飛ぶクルマ「HEXA」を開発。ウルトラライト機の規格に適合し、操縦免許不要での飛行を可能にすることで、空のモビリティの民主化を目指している。3Dプリンティングと生成的設計を活用した迅速な開発が特徴。

次世代モビリティの民主化へ

丸紅とLIFT社が進めるデモフライトは、単なる技術披露にとどまらない。大阪・関西万博という国際舞台でのフライトは、空の移動革命を社会に浸透させる象徴的な出来事である。LIFT社が掲げる「誰もが空を飛べる未来」というビジョンは、単なる夢ではなく、確実に形になりつつある。

わずか13ヶ月でアイデアから飛行実証まで到達したHEXAの軌跡は、航空機設計と製造のあり方そのものを根底から変えようとしている。簡単な道のりではないかもしれないが、課題を乗り越えるスピード感ある開発を3Dプリンターで実現できることを期待したい。今後、空飛ぶクルマが都市の空に広がる日が待ち遠しいところだ。

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