近畿大学農学部(奈良県奈良市)農業生産科学科の香取郁夫准教授らの研究グループは、筑波大学(茨城県つくば市)生命環境系の横井智之助教と共同で、カタツムリの空き殻に巣を作る「マイマイツツハナバチ」の生態を解明し、農業における授粉昆虫(ポリネーター、送粉昆虫)としての活用可能性を示した。(上部画像は近畿大学と筑波大学のプレスリリースより。出典:近畿大学、筑波大学)
目次
在来種ハナバチの活用とマイマイツツハナバチ研究の重要性
農業生産の現場では、昆虫による授粉が広く利用されており、とりわけポリネーターとしてセイヨウミツバチが世界各地で活用されている。日本でも、リンゴ、スイカ、イチゴ、メロンといった作物の生産においてセイヨウミツバチが多用されているが、一方でこの外来種にはいくつかの問題点が指摘されている。セイヨウミツバチは特定の植物の花を避ける傾向があるほか、授粉効率が低い作物も存在する。また、日本の在来種であるハナバチとの競争により生態系に悪影響を与えるおそれも懸念されている。
このような背景から、在来種のハナバチの活用が注目されており、各種の生態や授粉能力についての研究が進められている。ハナバチは一般に竹筒や木の穴、地中などに巣を作ることが多いが、中にはカタツムリの空き殻を利用する種も存在する。研究グループは、多様なポリネーターの活用を目指し、特にカタツムリの殻に巣を作るハナバチに着目した。日本国内で自然界においてカタツムリの殻に巣を作るハナバチは「マイマイツツハナバチ」だけであるが、その生態に関する知見は乏しく、農業現場での応用もなされていないのが現状である。

3Dプリンター製人工殻
マイマイツツハナバチはハナバチ(ミツバチ類)の一種であり、従来からカタツムリの殻を巣に利用することが知られていたが、今回の研究では巣作りに適した殻の種類や周辺環境に対する選好性を明らかにした。さらに、3Dプリンターを用いて作成したプラスチック製の人工殻を代替巣材として開発し、高い確率で巣作りさせることに成功した。
現在、授粉昆虫としては主にセイヨウミツバチが用いられているが、作物の多様化に伴い、複数種のポリネーターを農業現場で活用する技術開発が求められている。本研究成果により、これまで農業利用されてこなかったマイマイツツハナバチを新たな授粉昆虫として活用する可能性が期待される。

農業応用の展望
本研究は、マイマイツツハナバチの生態を詳細に解明し、特にハウス栽培のイチゴにおけるポリネーターとしての可能性を示した点で意義深い。今回、マイマイツツハナバチが草地環境を好み、クチベニマイマイの殻を巣材として選好すること、そして人工殻でも巣作り可能であることが確認され、農業利用への可能性が拓かれた。今後は、新規巣材の量産化や他作物での授粉性能の検証、実用化に向けた生産現場での試験導入などが求められる。日本の在来種を活用した持続可能な農業技術として、期待される。
なお、本研究の詳細については近畿大学と筑波大学のプレスリリースをご参照いただきたい。
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