中学生が挑む世界初の試み ─ 「生きたクラゲ」の3Dスキャンに成功なるか

2025年12月1日
出典:一般社団法人日本3D教育協会
出典:一般社団法人日本3D教育協会

2025年12月26日、大阪にて、中学生が主役となる前代未聞の科学実験が実施される予定である。一般社団法人日本3D教育協会が主催する「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」の一環として、同プロジェクト5期生およびOB・OGが「生きたクラゲ」の3Dスキャンに世界で初めて挑戦する。この試みは、日本財団「海と日本プロジェクト」の支援のもと実現され、さくらインターネット株式会社の協力のもと、大阪・梅田にある「Blooming Camp」を舞台に開催される。

なぜクラゲの3Dスキャンは「世界初」なのか

クラゲは水分率が95%以上、体の多くが透明または半透明であるため、従来のCTスキャンや光学式3Dスキャナでは構造の把握が極めて困難であった。また、非定常でかつ繊細な構造を持つため、水中から取り出した時点で崩壊するという物理的制約も存在する。

このような課題から、現在一般に公開されている「クラゲの3Dデータ」の多くは、CGモデリングや固定標本を元にしたものに過ぎず、「生体から得られたデータ」ではない。

出典:一般社団法人日本3D教育協会(画像提供:黒潮生物研究所)
出典:一般社団法人日本3D教育協会(画像提供:黒潮生物研究所)

最新技術「ガウシアンスプラッティング」で挑む

本実験では、株式会社Arcana製作所が技術協力し、複数のカメラ映像からAIが3D空間を再構築する「ガウシアンスプラッティング」技術を導入する。これは、従来のNeRF(ニューラルラディアンスフィールド)と比べ、透明体や動的対象の再現性に優れる新技術である。

さらに、クラゲの「時間変化を含めた姿」も捉える「4Dガウシアンスプラッティング」に挑戦。生きたクラゲが水中を漂う姿を、その動きごと立体データ化することが目指されている。

中学生が挑む最先端科学教育

本プロジェクトは、全国から選抜された中学生が参加し、海洋生物とデジタル技術を融合させた探究活動を行う教育プログラムである。参加生徒は、フォトグラメトリ、レーザースキャン、CTスキャン、3Dモデリングなど複数の技術を学びながら、自ら選んだ海洋生物の研究に取り組む。

5年間で培われた成果として、2023年には千葉県で発見された貴重なコククジラの骨格標本を3Dスキャンし、東京海洋大学での展示を実現させた。また、卒業生の約40%が海洋関連分野への進路を選択するなど、次世代の海洋研究者育成に貢献している。

出典:一般社団法人日本3D教育協会
「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」授業の様子(3D技術基礎)出典:一般社団法人日本3D教育協会

技術連携と産学協力体制

この世界初挑戦を支えるのは、クラゲ研究の第一人者である公益財団法人黒潮生物研究所の戸篠祥氏、3Dスキャン技術に精通するArcana製作所の古川貴一氏、そして教育プログラムを統括する日本3D教育協会の吉本大輝氏らである。

さらに、プロジェクトの実施には、さくらインターネットをはじめとする複数の企業が協賛し、産学連携による社会課題解決型の教育モデルが確立されている。

取得データの活用と展望

本実験で得られる3Dデータは、学術資料や水族館での展示教材、学校教育向けの教材として活用されるほか、オープンデータとしても公開予定である。特に標本保存が困難なクラゲ類のデジタルアーカイブとして、研究・教育分野での意義は極めて大きい。

イベント概要

  • 日時:2025年12月26日(金)12:00〜17:30(11:30受付開始)
  • 会場:Blooming Camp by さくらインターネット(大阪・梅田)
  • 対象:プロジェクト5期生・OB・OG、協賛社、関係者
  • 主催:日本3D教育協会
  • 共催:日本財団「海と日本プロジェクト」
  • 協力:黒潮生物研究所、株式会社Arcana製作所 他

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水中を漂う“生きたクラゲ”の3Dスキャンという世界初の試みに、中学生たちが挑戦する本プロジェクト。教育・技術・研究が融合した革新的な取り組みは、3D技術の新たな可能性を示すだけでなく、次世代育成のモデルケースとしても注目に値する。

用語解説

■ ガウシアンスプラッティング(Gaussian Splatting)
点群データを「ガウス分布」として処理し、高精度な3D形状を再構築する技術。透明物体や複雑な構造にも強く、NeRFに比べ高速で高品質な3D生成が可能。
■ 4Dガウシアンスプラッティング
時間軸を加えた3D再構築技術。動く対象を立体化するだけでなく、動きの変化も含めて時系列で記録する。クラゲのような常に形状が変わる生物に適している。
■ フォトグラメトリ(Photogrammetry)
複数の静止画像から、対象の3D形状を推定・再構築する技術。カメラ位置と画像解析を組み合わせ、非接触で立体データを生成できるのが特徴。
■ CTスキャン(Computed Tomography)
X線を使って物体の内部構造を断層撮影し、3D化する技術。クラゲのように水分率が高い透明体ではコントラストが得られず、撮影が困難。
■ NeRF(Neural Radiance Fields)
ニューラルネットワークを用いて、複数の画像から3D空間の光の分布を再現する技術。非常にリアルな映像表現が可能だが、処理に時間がかかる。
■ 3Dモデリング
コンピューター上で立体物を仮想的に作成・設計する手法。スキャンデータの修正・補完や、3Dプリント出力に不可欠な工程。
■ デジタルアーカイブ
実物をスキャンや撮影で記録・保存し、長期的に保管・共有可能にする手法。物理的に保存が難しい生物資料などで特に有効。

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