大林組、宮内庁など事例あり!建設業界の3Dプリンター活用最前線に迫る
建築の世界における、3Dプリンター、AM技術の活用が活発だ。建築模型、プレハブ工法の部材、建物そのものまで、その利用は多岐に渡る。最近では、従来の技術では見ることのできないような、複雑なデザインを3Dプリンターで実現することが可能になってきている。本記事では、そんな建築業界での「3Dプリンター活用最前線に迫る」と題して、国内、海外問わず活用事例をお届けする。
建築業界3Dプリンター活用事例―ベンチから江戸城まで
海外事例
パリ市内に3Dプリンティング製歩道橋を建設予定―XTreeE
フランスに拠点を置く建設3Dプリンティングのスタートアップ XtreeE は、2024年のパリ・オリンピックに向けて、パリ市内に3Dプリント製歩道橋を建設することを発表。
パリ北部の9つの都市を結集する領土公的機関 Plaine Commune Grand Parisが、2024年に開催を予定しているパリ・オリンピックに向け、複数の建築家や構造設計の専門家などから構成された(Freyssinet / Lavigne & Cheron Architects / Quadric / XtreeE / LafargeHolcim)コンソーシアムに対し、40メートルの3Dプリンティング製歩道橋の設計・施工を発注された。
同プロジェクトは、相互補完的な専門技術の知識を組み合わせたもので、XtreeE が開発した3Dプリンティング技術を検証する位置づけとなっている。また、複雑な建築を実現しつつ、コストと納期を抑えたカスタマイズ・ソリューションを開発した、建設業における「インダストリー4.0」時代へ向けた取り組みの一環でもある。
今回の歩道橋の建設に3Dプリティングの技術を用いることで、自由度の高い構造物のデジタルデザインの検証や、歩道橋部品の工業的条件下での生産性の向上、現場での迅速な組み立てにおけるリードタイム削減のほか、輸送、型枠、消費材料などのコスト削減(特にコンクリート)の実現を図っている。
建設AM市場に向けた協業―ブラックバッファロー3D
韓国最大の自動車メーカーHyundai Motor Companyグループの子会社であるブラックバッファロー3Dとモジュール式モバイル住宅を開発する LTG Lofts to go が共同で、AM技術を活用した移動式住宅などを実現するためのパートナーシップを締結した。
本提携でブラックバッファロー3D は、親会社を通じて建設用3Dプリンターと専用セメント材料をLTG Lofts to goの開発者に提供し、LTG Lofts to go は特許を取得し、イベントブース・ワークスペース・居住空間として使用することができるスマートテクノロジー搭載の「coodo」シリーズでの知見を用いて、AMを活用したさらなる商業スペースや移動式住宅拡充を行う。
「coodo」は、サステナビリティを重視しており、環境への影響を最小限に抑えた再生可能エネルギーを効率的に利用するため、さまざまな条件に応じて簡単に移動できるよう設計されている。
国内事例
複雑なデザインと50%軽量化を両立したシェル型ベンチ―大林組
大林組は、技術研究所(東京都清瀬市)でセメント系材料を用いた3Dプリンターにより、鉄筋と型枠を使わずに、曲面だけで構成するシェル型ベンチ(幅7m、奥行き5m、高さ2.5m)を構築したとのこと。
大林組は、ロボットアームに取り付けたノズルから3Dプリンター用特殊モルタルを吐出して積層造形する3Dプリンターを2017年に開発し、現在も実用化を目指した研究開発を行っている。
コンクリートをはじめとする多くのセメント系材料は、主に構造物に生じる圧縮力を負担する。そのため、セメント系材料を構造物に用いる際には、鉄筋コンクリート構造に代表されるように、引張力を負担する鉄筋などの鋼材と組み合わせた複合構造とする必要がある。そのためセメント系材料を用いた3Dプリンターの実用化においても、この引張力の負担方法の開発が重要な課題となってきた。
大林組はこの課題を解決するために、外形を3Dプリンター用特殊モルタルで製造した構造物の内部に、引張力を負担できるスリムクリートを流し込む複合構造を開発し、その実証として、セメント系材料を用いた3Dプリンターで国内最大規模の構造物となるシェル型ベンチの製造に着手した。
シェル型ベンチは、12ピースの部材に分割して製造し、部材完成後に設置場所に据え付ける。
以下、同シェル型ベンチの主な特長を紹介する。
①3Dプリンティングと相性の良い超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」との複合構造
スリムクリートとは、引張強度が高く、単独でも構造物として使用できるセメント系材料で、常温で硬化する。また、自己充てん性のある材料であることから、3Dプリンター用特殊モルタルで製造した外形の内部に流し込む作業も容易で、鉄筋を人力で配筋する場合と比較して、作業を大幅に軽減することが可能となっている。
②独自の積層制御技術および大型ロボットアームを用いた3Dプリンターの開発により自由な積層構造が可能に
従来は、3Dプリンター用特殊モルタルの吐出を途中停止することが出来ず、積層経路が一筆書きとなる制約があった。今回、ロボットアームとポンプを連動して制御することで、吐出の開始と停止を自由に行うことが可能となり、一筆書きによらない積層経路による自由な積層造形を実現できるようになった。
③複雑なデザインの実現とトポロジー最適化による構造的な合理性の追求
シェル型ベンチのデザインには、「型枠を使用せずに、複雑な形状の部材を製造できる」という3Dプリンターの特長を活かし、曲面や中空を取り入れている。また、内部構造の形態の検討に、骨のように軽量で丈夫な形態を導出できるトポロジー最適化と呼ばれる技術を用いることで構造的な合理性も追求している。
この技術により、内部構造の中空部分を決定した結果、内部構造を密実とした場合と比較して、構造性能を損なうことなく、重量を約50%軽量化。
江戸城天守閣の模型を3Dプリンターで―宮内庁
宮内庁は先月から、かつて江戸城にあった天守閣の復元模型を江戸城の本丸などがあった皇居東御苑で公開している。この復元模型の制作に3Dプリンターが用いられている。
公開されている模型は400年ほど前の江戸時代・寛永期に築かれた天守閣で、30分の1のサイズで復元されて高さが約2メートルある。宮内庁によると、江戸城の天守閣は江戸時代初期に3回作られているが、今回、復元されたのは外観や構造などの資料が多く残されている3回目に作られた天守閣とのこと。
屋根のしゃちほこなど一部は3Dプリンターも活用し、金具などの細部も精工に再現されている。政府の観光施策の一環で、製作費は約5千万円。
以上、建築業界における3Dプリンター活用事例をご紹介した。全体の印象として、海外ではビル、歩道橋、まちづくりでの活用などプロジェクトのスケールが大きい。これは、欧米(特に欧州)では国家レベルで建築用3Dプリンターの活用に対して、積極的に取り組む姿勢があるためだろう。
ただ国内でも大林組、竹中工務店など建築業界の大手ゼネコンが自由な造形、複雑なデザイン実現、コスト削減を始めとした、AMだから実現できることに気づき、さまざまなプロジェクトを立ち上げ実証実験を始めている。国内でも建築用3Dプリンターを用いて家・ビルを造形した、なんて事例が現れるのはそう遠くない話だろう。
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