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いまさら聞けない!ファブ施設の変遷と用途

モノづくりに必要な機材は多岐にわたります。切削工具や3Dプリンターのような加工設備を備え、外部の利用者にサービス提供したり、一部に(たとえば社内のみに)開放する施設は「ファブ施設」と呼ばれています。ソニー株式会社で社内向けのファブ施設を自ら設計し、現在も工房長として運営している福馬洋平氏にファブ施設に関して解説いただいた。(編集:シェアラボ編集部 文:福馬 洋平 氏) 

「BRIDGE TERMINAL」福馬洋平氏

ファブ施設の変遷と広がり

「ファブ(Fab)」はファブリケーション(fablication、製造、ものづくり、etc.)とファビュラス(fabulous、ステキ、スゴイ、ヤバイ、楽しい、etc.)の2つ意味を掛け合わせた言葉です。ファブラボの設立とともに世界中に広がり、ファブ施設は単なる製造工場や工房といった意味だけではなく、幅広い人が情報交換をしたり、気づきを得たり、何かを始めたり、共感したり、世界を楽しくするための活動拠点といった意図でも用いられます。

デジタル工作機械の隆盛と共に2000年頃から世界中に広まり、ファブラボ単一団体だけでも世界中に2022年時点で100カ国1,750拠点以上、類似思想のもとで特定組織内にとどまらないものづくりと交流が行える場所はその数倍はあると考えられています。

より事業開発色が強い工房はメイカースペースやハッカースペース、より交流色が強い場は単に工房併設型のコミュニティスペースと呼ばれることもあります。この記事では主に国内の事例を中心に各種ファブ施設の分類やその特色を解説致します。

ファブ施設の分類と特色

ファブ施設の機能

いわゆるファブ施設と呼ばれる場に必須の機能で、各種工作機械や工具などを備え、利用者へのハードルを下げノウハウ共有を円滑にするために3Dプリンターやレーザー加工機などデジタル工作機械を備える場合が多いです。また加工作業をする場所にとどまらず、ものづくりを通じた様々な人達の交流や情報共有、共創を志向する場も多く、特定の組織以外の方々にも使ってもらえるような仕組みを取り入れたり、学習や交流のためのイベントを企画するところも多数あります。

ファブラボ

ファブ施設を代表する世界的な活動及びネットワークで、2000年代初頭にMITメディアラボのニール・ガーシェンフェルド教授の提案から生まれた実験的な地域工房を元にし、様々な工作機械を備え、少なくとも週1日は地域に開放されている事、情報公開やオープンソース化に取り組む事、世界的なファブラボ活動に参加しファブラボ憲章の理念に基づいて運営する事などが定義されています。運営母体も様々で、企業として運営されている場合もあれば大学など学術機関が運営するケース、自治体や地方行政が運営するケース、個人や有志で運営するケースなどもあり、それぞれのファブラボに特徴があります。

学校/企業内ファブ施設

BRIDGE TERMINALの写真(シェアラボ撮影)

 地域工房として開放されていないなど様々な事情でファブラボを名乗っていない学術機関内や企業内のファブ施設でも交流や共創を意図し比較的低い敷居で利用できるようにしている工房は多数あります。従来の工房では同じ学校や企業でも出資・管理している組織内の者しか利用できず、効率的なものづくりは出来るものの交流や共創が生まれづらいのですが、より広い組織間で利用可能な仕組みを設ける事で様々な交流や情報共有、共創が生まれ新しい発想のものづくりも進むようになります。筆者が運営している社内工房併設型コミュニティスペース「BRIDGE TERMINAL」もこの1種で、イベントなどを通じて社内外の様々な方々と交流を図りつつ、特定の組織内に閉じず工作機械の利用を促す事でノウハウ共有や新たな知見の獲得を進めています。

ホームセンターの工房

また日本でいうとファブ施設として算入する事に賛否があるものの、積極的に使っていきたい場所としてホームセンターの工房が挙げられます。簡素なところだと作業台とドリルなどのごく一般的な電動工具が置かれていて、ファシリテーター不在なところもありますが、先進的な場所だとレーザーカッターや3Dプリンター、CNC切削加工機などを備え、元々ホームセンターが取り扱う豊富な各種材料や工具・工作機械を買って持ち込んだり、一部は試す事も出来たり、工夫を凝らしたワークショップを開設する事で学びや交流のきっかけになるような取り組みを実施している場所もあります。一般的には同店舗で購入した材料の加工のみ可能としているホームセンターが多いですが、一部は持込み材料も許容しています。ぜひ皆様のお近くでも検索頂き、見学頂けると嬉しいです。

ファブ施設利用のメリット

ファブ施設を用いる事で得られるメリットは様々あり、いくつか例示します。

様々な機器を自由に使う事が出来る

まず様々な機器を自由に使う事がメリットとして挙げられると思います。多くのファブ施設では様々な方の需要に応えるために多くの機器を設置している事が多く、それらをある程度自由に使える事が多いです。ちょっと使ってみて使い勝手を知りたい場合や、どんな工具か理解したいときにも重宝します。

使い方を教えてもらえる。

これらの機器の中には簡単にでも使い方を教わった方が助かる機材も多いです。その要望に応えるように使い方を教えてくれるファブ施設も多く、筆者達が運営するファブ施設など利用登録者数が1,000名を超える規模の工房だと均質なレクチャのため独自のレクチャマニュアルを用意し、図4-3-2-1のように難易度に応じ段階歴にレクチャしてくれる場もあります。また単一の工作機械に対する使い方だけでなく、様々な電動工具、手動工具の組み合わせた加工なども相談できる場合が多いです。

図4-3-2-1 ファブ施設での機材レクチャ手順の例

メンテナンスをしてくれている。

特に低価格な工作機械や設備だとメンテナンスの手間も多くかかり、様々な症状が出る場合もあります。常に使える状態に維持してくれるよう努力している施設も多く、個人で対応するには厳しい場合と比較しとても助かると思います。

ものづくりが好きな人と知り合える

図4-3-4-1のように開かれたファブ施設には様々なタイプの人々が訪れ、色んなものを作ったり、追加工したりしています。声をかけると新しい発見になる事も多数あり、意気投合して一緒に何か作り始める事もあります。ファブ施設でのモノづくりはステキなコミュニケーション手段でもあり、新しい面識を作るための手段にもなりえるのです。

図4-3-4-1 ファブ施設での交流の例

ファブ施設への期待

素敵にモノづくりを楽しむ場所。そんなファブ施設の登場は趣味でモノづくりを行う人達に新しい角度から焦点をあてました。それだけではなく製造業を中心に企業内に設置し、社内のコミュニケーションを活性化し、技能継承や知識ノウハウの共有、コラボレーションを促す仕組みとしての役割を期待される存在にもなっています。こうしたファブ施設には3Dプリンターをはじめとしたデジタルなモノづくりのためのツールが用意されています。3Dモデルで製品設計を行うことが一般化する中で今後もより重要な存在となっていくことでしょう。(福馬 洋平)

ファブ施設をさらに知るための参考URL

ファブ社会の基 盤設計に関する検討会報告書 ~ Digital Society 3.0 ~

https://www.soumu.go.jp/main_content/000361195.pdf

総務省|平成28年版 情報通信白書|デジタルファブリケーション

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc141330.html

委託、クラファン、サブスク——「個人がものを作って売る」の今 | fabcross

https://fabcross.jp/topics/special/20220202_zadankai_2022.html

3Dプリンターで特許を逃した僕の「失策と教訓」:日経ビジネス電子版

https://business.nikkei.com/atcl/report/16/063000051/070500003/

「企業内メイカースペースは、社内外の垣根を越え、つながりを作る」Microsoft、Googleの取り組み | fabcross

https://fabcross.jp/topics/tks/20190709_ic_makerspaces.html

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