多彩なテーマで最新情報を発信する3D Printing Webinar Weekが9月12日から開幕 ― 松井製作所
ここ数年で明らかに日本の3Dプリンター活用に関する情報発信が増加している。こうした温度感の変化を敏感に感じ取っているのが従来の射出や押出、鋳造といった工法で長年製造に携わっている加工業各社だ。そんな加工業各社の設備導入を長年支援してきた企業が企画している3Dプリンティングのオンラインイベントがあるということで早速取材した。
対応いただいたのは、成形品関連の設備を開発製造する株式会社松井製作所の松井 宏信 社長だ。1967年の創業以来、1万社以上の成形工場を支援してきた同氏に3Dプリンティング技術はどう見えているのか。いま10社以上を集めて共同ウェビナーを行う狙いはなにかを直撃した。
目次
オンラインイベント開催の狙いは?
シェアラボ編集部:2023年9月12日(火)から14日(木)にかけて14社で3Dプリンターでのモノづくりに焦点を当てた合同ウェビナー「3DプリンティングWebinar Week」を開催されると伺っています。多数の参画を得て、どんなメッセージを市場に届けようとしているのか本日伺っていこうと思いますが、まずは松井製作所についてご紹介をお願いします。
松井氏:私たちはプラスチックの成形工場で使う設備を作っているメーカーです。事業所単位でいうと1万社以上の企業との取引があります。自動車関連部品、メディカル、包装用品、などの業界で製造されている方々がお客様です。アメリカ、中国、アジアなど海外での事業展開も行っています。
製品としては、樹脂を予備処理として乾燥させる装置、搬送装置、金型温度調節機、プラモデルの部品を取った後に残る枠であるランナーを粉砕して再活用する粉砕装置など、成形品に関わるさまざまな装置を開発・製造・販売しています。
シェアラボ編集部:売り上げも250億円超ということで、生産設備のメーカーである松井製作所さんが、どうして合同ウェビナーを行おうことになったのでしょうか?
松井氏:B2Bでの事業はなかなか新技術を開発しても、使ってほしいお客様のところに情報が届くのに時間がかかるという実感があります。B2CであればテレビCMなどで一気に情報が伝わるんですが、B2Bの領域では、情報を営業がお客様に会って紹介していく必要があります。もっと効率がよい方法としては、展示会への参加など有効な情報発信手段ですが、手間がかかるし費用もかかるんです。
シェアラボ編集部:特に包装系の展示会では製造ラインを再現する大掛かりな取り組みも多いですよね。見ている方はわかりやすいですが、出展する側は準備が大変そうだなと思っていました。
松井氏:そうなんです。手間も時間もかかります。たくさんの社員が準備にかかわり当日も対応するので大変です。でも3年ほど前からウェビナーが一般化してきました。初めは自社の販促にいいのでは、と考え取り組み始めたのがきっかけです。
シェアラボ編集部:コロナ禍で展示会自体中止になったり、リアル会場とウェビナーを組み合わせたハイブリッド開催なども増えてきましたよね。そういうながれで取り組みを開始されたんですね。
松井氏:はい。当初は自社のためのウェビナー開催でした。自社単独の開催では参加者が既存顧客ばかりで、新規顧客の開拓につなげることは難しいです。そこで、他社と共同で開催し、集客することで、それぞれの企業が手軽に安く新規の顧客を見つけることができるのではと考え、「3DプリンティングWebinar Week」のような合同でのオンラインイベントを始めました。
シェアラボ編集部:そういう意味では特定の業界の最新動向を「Webinar Week」と題して、一気に配信していくことができるので、参加する視聴者は効率よく情報を得ることができるんですね。出展社側も、熱意のある視聴者にこそ旬な情報を伝えたいはずなので、Win-Winですね。
松井氏:そういったお声に支えられ合同ウェビナーイベントとして、「Green Molding Webinar Week 2023」、「スマート物流 Webinar Week」、「ものづくりDX&物流DX Webinar Week 2022」などを開催してきたんですが、各イベントで数千名以上の延べ視聴者数を達成できました。そして2023年の9月に取り組むのが、『3Dプリンティング Webinar Week』です。
9月12日(火)~14日(木)の3日間、3Dプリンティング Webinar Week開催
シェアラボ編集部:3Dプリンターに焦点を当てたウェビナーを複数日に渡って配信するイベントを開催する、というわけですね。
松井氏:実は私たち松井製作所でも3Dプリンターに取り組みを始めていまして、3Dプリンターを活用して作った金型を成形に使うことで大きな業務改善を行う取り組みに関して講演させていただきます。
シェアラボ編集部:2023年の開催は9月12日(火)から14日(木)の3日間という事ですが、何社くらいが参加されますか?
松井氏:登壇する企業の数という意味では計14の企業と団体の参加を見込んでいます。日本AM協会さんに基調講演をお願いするのですが、非常にダイナミックな動きが起こっている現状に対して「製造業に「ゲームチェンジを起こす」AM技術!〜世界の事例と日本の課題について〜」と題して熱いメッセージを発信いただく予定です。また「何から始めりゃいいのかAM 〜3Dプリンティング導入の手引き〜」という形でこれから取り組む企業担当者にも参考になるAMへの取り組み方も語っていただきます。
一部の出展企業は3日間の中で2枠の講演枠を持っていまして、同じテーマをお話になる登壇企業もあれば、異なる内容をお話になる企業もいらっしゃいます。1回のウェビナーの時間は25分程度ですので、一つのテーマをコンパクトにわかりやすくお伝えいただく形になります。
シェアラボ編集部:技術の進歩が非常に速い3Dプリンター界隈ですから、どんどん新しい技術や事例がでてきますよね。出展企業からの最新情報には期待したいところです。どんな企業さんがどんなテーマで講演されるのでしょうか?
松井氏:装置を開発や販売している企業と、造形を行う企業に分けられると思うのですが、装置の取り扱いを行う企業は、樹脂3Dプリンターを主に扱う株式会社アスペクト、株式会社ExtraBold、エス.ラボ株式会社と、金属3Dプリンターを主に扱う株式会社ソディック、日本電子株式会社、ニデックマシンツール株式会社、株式会社立花エレテック、株式会社パシフィックソーワ、三菱電機株式会社、など各社の参加が決まっています。造形を行う企業は、SOLIZE株式会社、Koln 3D Technology (Medical) Limited、株式会社セイロジャパン、株式会社松井製作所の参加が決まっています。
注目のウェビナー|樹脂編
アスペクトさんには「(1)造形精度向上への取り組み(2)Pre-Process,Post-Process自動化への取り組み」と題して、樹脂での3Dプリンター活用で大きなポイントである造形精度と省力化に対しての向き合い方をご紹介いただきます。
シェアラボ編集部:アスペクトさんは国産の樹脂3Dプリンターに取り組んでいらっしゃる3Dプリンティングの老舗企業で、東大との産学連携や材料メーカーとの新規材料開発にも積極的に活動されていますよね。企業の3Dプリンター利用者にとって造形精度の向上と自働化、省力化は大きな関心事なので取り組み方の指針が欲しい方は多いのではないでしょうか。
松井氏:ExtraBoldさんは「Green Creative™」が実現するプラスチックリサイクルの拡大に向けて」というテーマでリサイクル材料の処理に力点をおくのではなく、材料にストーリーをもたせることで価値向上を図っていく取り組みをご紹介いただきます。
シェアラボ編集部:国産のペレット式3Dプリンター開発に取り組むExtraBoldさんは、日本の住宅から和室が減っていく中で廃棄に困る畳をリサイクル材料に3Dプリンターでデザイン性の高いインテリアや家具に生まれ変わらせる取り組みにも関わっていて、国際的にも高い評価を得ていますよね。そうした成功事例から学べることは多いと思います。
松井氏:同じく国産のペレット式3Dプリンターに取り組むエス.ラボさんは「ペレット式3Dプリンタと廃プラスチックリサイクル」と題して、プラスチックの廃材をリサイクルする仕組みと活用法についてお話しいただきます。
シェアラボ編集部:プラスチックのリサイクルやアップサイクルに注目している企業は多いと思うのですが、取り組み方に悩んでいることも多いと思います。エス.ラボさんは廃プラスチックを「粉砕」、「押出し」、「冷却」、「カット」の一連の工程を経てリペレット化して3Dプリンターでモノづくりを行う「リサイクルラボシステム」をすぐ取り組める形で提案されているので参考になりますね。
注目のウェビナー|金属編
松井氏:「金属3Dプリンタによるプラスチック・ダイカスト金型への適用事例」と題して金型を金属3Dプリンターで造形することで短納期、省コストでの取り組みだけではなく、造形する部品や製品の高度化にもつながるという提案をご紹介いただくのがソディックさんです。
シェアラボ編集部:具体的な金型メーカーさんへの導入事例を多数お持ちで展示会でも多くの見学者が注目しているソディックさんの事例をオンラインのウェビナーで目にすることができると、社内でも多くの人に情報共有できると思うので、要チェックですね。
松井氏:日本電子さんは「JAM-5200EBM電子ビーム金属3Dプリンターの特長と電子ビーム積層造形の強み」で造形速度が速く、内部応力による歪みや亀裂が抑制できる電子ビーム積層造形についてご説明いただきます。
シェアラボ編集部:国家プロジェクト「TRAFAM」に参加する中で開発された電子ビーム式の国産金属3Dプリンターをまだ見たことことがない方は、ぜひ見ておくべきです。単純なカタログスペックでの比較には表れてこない造形物の仕上がりにこだわって開発された日本基準にシビアかつ現実的な目線で作り上げられた装置の魅力に触れることができるはずです。
松井氏:ニデックマシンツールさんには「金属3Dプリンタ 『DED方式 LAMDA/BJT方式 PX100』の特徴・強み・事例をご紹介」と題して、従来よく目にするPBF方式の金属3Dプリンターではなく、DED方式とバインダージェット方式の3Dプリンターをご紹介いただきます。
シェアラボ編集部:DED方式は部品の補修に使える以外にも、異種金属の造形などへの取り組みが可能という事で、単純な造形とは違ったアプローチが可能な点が魅力ですね。バインダージェット方式の金属3Dプリンターは海外では量産にも活用されています。数を作ってなんぼというモノづくりでも取り組める可能性があるという意味で注目の造形方式です。
松井氏:同じく金属のバインダージェット方式3Dプリンターを取り扱っているパシフィックソーワさんも「金属積層技術Binder Jet方式の紹介と金型入れ子製造への応用開発」というテーマで講演を行っていただきます。
シェアラボ編集部:金型まで金属バインダージェット方式の装置で製造できるという点は、多くの企業さんがまだご存じないと思います。難削材の加工は3Dプリンターの得意とする分野なので今後も発展が期待できる分野として最新情報に触れておくべきかもしれません。
松井氏:三菱電機さんからも講演がありまして、先ほど話に出たDED方式の中でもワイヤー材料を扱う装置である「ワイヤ・レーザ金属3Dプリンタ(AZ600)」と「電子ビーム金属3Dプリンタ(EZ300)」という2つの方式に関してのプレゼンテーションが予定されています。
シェアラボ編集部:三菱電機さんのワイヤーDED方式機は五軸を積んだワイヤーDED方式ということで、管理が容易なワイヤー材料を使って素早くニアネットシェイプ品を造形し、後加工で仕上げるというスタイルですよね。加工機の得意不得意を現実的に受け止めて得意な点を活かしたモノづくりを行う点が今後さらに広がっていく可能性があります。また電子ビーム加工機を現在利用しているユーザー企業にとっては同じビームを活用した造形装置に関して関心がある方が多いかもしれません。
注目のウェビナー|造形編
松井氏:装置メーカーさんではなく、金型設計やシミュレーションの分野の視点から3Dプリンターと金型の取り組みを語ってくれるのがセイロジャパンさんです。「3D冷却配管のモデリングと解析事例紹介」ということで金型内部に冷却管を配置して製造の安定性を高める際の最適化設計について手法を語っていただきます。
シェアラボ編集部:3Dプリンターで製造する前には設計が必要なので、その要点を事前に知っておくことは大変重要になってきます。その基本的な考え方を短時間でおさえることができるのは沢山のテーマから今の自分の関心事を俯瞰できるWebinar Weekらしい活用法といえそうです。
松井氏:受託造形を行う企業として最終製品を真正面からテーマにしているのがSOLIZEさんです。「国内事例から学ぶ最終製品製作に最適な3Dプリンター」と題して取り組み方を講演いただきます。
シェアラボ編集部:SOLIZEさんは1990年代から3Dプリンターに取り組み、試作品の製作だけではなく、スタートアップから大企業まで最終部品の受託製造の経験をお持ちなので、そのお話を聞けるのは参考になりますね。
松井氏:海外からの参加企業もあります。Kolon 3D Technologyさんが「金属3Dプリンタによる骨癌、整形外科、リハビリテーションのカスタマイズ・ソリューション」と題して香港、タイ、カザフスタンの医療分野でのサンプル事例を紹介しながらリハビリ用インプラントおよび外科用器具のAM活用を紹介する予定です。
シェアラボ編集部:国民皆保険制度がある日本では保険適用を受けるためのハードルが高くなかなか進まない面もありますが、世界での医療とAMの関係はどんどん進んでいるようですから、世界の情報を視野に入れておきたいですね。
松井氏:機械系専門商社の立花エレテックさんには「DfAMの活用と現場での事例」と「3Dスキャナーの活用」というテーマでお話いただきます。
シェアラボ編集部:商社さんの強みはやはりメーカー色がない目的に即した機器選びを提案してくれることだと思うんですが、そういう意味ではDfAMと3Dスキャナーという3Dプリンターに取り組む企業担当者にとって非常に関心度の高いテーマを解説してくれる点には注目したいところです。
松井氏:最後に私たち松井製作所も講演に参加しておりまして、「金属3D金型は「水管設計」が命です。生産性を向上させるための秘策をご紹介。」という形で実践的な金型のAM製造の大事なポイントを解説していきます。成形機周辺メーカーとして金型の性能向上を活かした取り組みを包括的にお伝えできればと思っています。
シェアラボ編集部:factor4という形で資源生産性を4倍に引き上げる、という力強いメッセージは中身が大変気になるところです!
おわりに
14の企業・団体が興味深いセミナーを展開する3日間のオンラインイベント、3Dプリンティング Webinar Week。こうやって各社の講演内容を概観するだけでも、設計・製造・後加工などのプロセスごとにそれぞれ見なくてはならない観点があり、多くの可能性が眠っていることに気づく。
概要を伺っているだけでもテーマの興味深さからすべて聞いてみたくなる。ここで注意しておきたいのが、オンラインイベントとは言っても、後日収録が配信されるとは限らない点だ。企業によっては後日配信を行わないということで、二回とも同じテーマで話す企業もある。社内で手分けして視聴するなどの工夫も必要になってくるかもしれない。その分一回の公演時間が短めに設定されているので、この3日間でAMの概要をつかみたいという人にはちょうど良い機会となるだろう。また気になるテーマだけ参加することで自分の関心事をフォローすることもできる。技術の進展が早いAM分野だけにこうした取り組みには目を光らせておきたい。
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>> 3DプリンティングWebinar Week 公式サイト
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。